第298話 魔神王より強い敵

 その魔力の持ち主は、姿を隠している。

 だが、魔力を発散させて次元の狭間を膨張させているのだ。魔力は隠せない。


「姿を表せ。それだけ魔力を垂れ流して、隠れる意味もないだろう?」

「ふふ。それもそうだな。猿の大賢者よ」


 魔力の持ち主が姿を表す。


「しつこい奴だ。その顔、いい加減見飽きたぞ」

「そう言ってくれるな」


 それは昨日殺し、さらに先ほど殺したばかりの真祖だった。

 先ほどよりも、そして昨日よりも、今の真祖の方が圧倒的に魔力が高い。


「なるほど。お前が本体か」

「ほう? 猿とはいえ、賢者と呼ばれるだけのことはある。もう気付いたか」


 昨日も先ほども、真祖は死んだわけではなかったのだ。

 元々、俺たちの世界に現れた真祖は影のようなものだったのだ。

 先ほど倒した真祖は、王宮に刻まれた魔法陣の下層から魔力を受け取っていた。


 その魔力の元は次元の狭間に隠れていた真祖の本体だったのだろう。


「本体は安全な次元の狭間にずっと隠れていたってことか?」

「そうだ。とはいえ我の住処はさらに向こう側。偉大なる邪神の次元だ」

 こちらの世界に介入するときだけ、次元の狭間にやってきていたのかも知れない。


「お前が向こう側からこちらの世界に介入し続けていたのか?」

「そうだ。本来、我はそのようなことをしたくはないのだがな」


 そして、真祖は遠くで戦っている魔神王とエリックたちを見る。

 今居る場所は、ケーテが暴れられるぐらい広くて天井が高い洞窟のような場所。

 高さは一定で、遠くまで見ることが出来るのだ。


「猿の大賢者。お前が魔神王を殺しただろう? おかげで我が出張る羽目になったのだ」

「それはそれは」

「魔神は邪神様の尖兵に過ぎぬ。魔神王は尖兵を率いる将に過ぎぬ」

「そうらしいな」

「だが、我は違う。邪神様から直接ヴァンパイアとなった我は邪神様の神子である」

「随分と不出来な子だな? さぞかし邪神も嘆いていることだろうさ」

「…………否定はせぬ」


 煽ったのに、真祖は素直に認めた。あまりに意外で驚いた。


「猿に、いや特にお前に、いいようにやられていたのだ。不出来と言われても当然だ」


 しんみりと真祖が呟いていると思ったら、俺の真下から魔力の槍が何本も突き出てきた。

 それを俺は飛び退いてかわす。かわして着地したところに、黒い光線が飛んでくる。

 邪神の魔法だ。それを俺は魔法障壁で防ぎきった。


「父なる偉大なる邪神のために、お前は殺す」

「そうか。俺は、俺たちの次元のために、自分のためにお前を殺す」


 もはや言葉は必要ない。

 陰謀を阻止するとかそう言ったレベルの段階ではないのだ。

 俺たちが負ければ、世界が邪神の物になる。俺たちが勝てばそれを防げる。

 そういう単純な状況だ。


「単純なのは嫌いじゃないんだがな」


 責任重大過ぎて嫌になる。

 俺は魔法を打ち込み、魔神王の剣を振るった。


 俺のさらに後方でガルヴは隙をうかがっている。真祖の攻撃が飛んでいくと、素早くかわす。

 だが、ガルヴは隙を見つけられないらしく、攻撃に転じることが出来ていなかった。


 真祖は俺めがけて邪神の魔法を使い、鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。

 俺を倒すことに集中しているあまり、次元の狭間を膨張させる魔力の流れが止まっている。

 俺たちの世界でも次元の狭間の膨張は止まっているに違いない。


「我が分身を随分と可愛がってくれたみたいじゃないか」

「本体も可愛がってやろうじゃないか。感謝しろ」


 挑発にも乗らず、真祖は冷静に攻撃を繰り出しながら言う。


「分身の経験したことは、我も経験しているのだ」

「じゃあ俺に殺されるのも、これで三度目だな」

「幸いなことに三度目はない。お前の戦い方は完全に見抜いているからな」

 そう言いながら、真祖は俺の振るった魔神王の剣を左手で受け止めた。


 俺はすかさず右手を繰り出し、真祖に触れてドレインタッチを発動させる。


「だから見抜いていると言っている」

 真祖は勝ち誇った表情で笑う。

 ドレインタッチは発動した。だが、魔力は全く吸えなかった。


「数多のヴァンパイアどもを屠り、あまつさえ我が分身まで屠ったその技だが、当然我には通用しない」

「ほう。コツでもあるのか?」

「それは元々、邪神の尖兵に過ぎない魔神将の技だろう? 邪神の御子たる我に通じるはずがない」


 その後も魔力弾で意識をそらした後でドレインタッチを発動してみたが、通じなかった。

 どうやら本当に通じないらしい。


 一方で、真祖は魔神王の剣は食らわないようにしている。防御が堅すぎるのだ。

 恐らく魔神王の剣は通じるのだ。

 とはいえ、真祖が本気で防御している中をかいくぐり剣を当てるのは難しい。


「ラック。諦めて我が眷属になるがよい。お前ならばハイロードにもなれるであろう」

「コウモリの仲間になるなど、あり得ない話しだ」

「そうか。ならば死ぬがよい」


 真祖の攻撃が激しくなった。

 俺も真祖の攻撃を防ぎながら魔法で攻撃する。


「だから通じぬと言っている!」


 魔力弾マジック・バレット魔法の矢マジック・アロー魔法の槍マジック・ランス

 火球ファイアーボール氷槍アイシクル・ランス水刃アクア・ブレード雷撃サンダーストライク


 純粋魔力の魔法も、各属性魔法を、俺は次々に真祖にぶつける。

 どの魔法がまともに入っても、真祖にはダメージが入っていないようだった。

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