第246話

 魔力を吸われながら斬り刻まれれば、容易に復活できるものではない。

 分身体を作るにも、斬り刻まれた体を修復するにも魔力を使うのだ。


「UGAAAIIIIIIIII」

 分身体は次々と灰の山に変わる。俺がドレインタッチしていた対象も灰になった。

 最後に残ったのは、ドレインタッチにかける前から俺が相手にしていたやつだ。


「お前が本体か?」

 悲鳴を上げる男の胴体を魔神王の剣で斬り裂く。


「許さぬ、貴様は絶対に許さぬぞ!」

「許さなくていいから、消えてくれ」


 俺がとどめを刺そうと、男の首を魔神王の剣で貫こうとしたその時、

 ――キイイイイイイイイイイイン

 強烈な耳鳴りがした。同時に全身に激痛が走る。

 エリック、ゴラン、ケーテも一斉に苦痛に顔をゆがめた。


「まさか我らの神の加護を人間風情に使わされることになろうとはな……」

 血みどろで皮と骨だけになり、胴と下半身が分かれた男がそうつぶやいた。

 みるみるうちに、男は回復していく。折角斬った胴と下半身もつながっていく。


「そりゃ、用意しているよな……」

 俺は何回も魔力探知をかけまくっていた。だが、隠ぺいが得意なハイロードがボスなのだ。

 隠されていてもおかしくはなかった。


「……それにしても警戒していたのに、どこにコアを隠したんだ?」

 隠ぺいが得意と言っても限度がある。


「ほう、お前はこれを知っているのか?」

 見かけはほぼ回復した男がにこりと笑う。

 とはいっても、魔力をだいぶ吸った後だ。見た目以上に弱っているはず。


「この加護の存在はあまり知られたくないのだ。だから死ね」

「どっちにしろ、全員殺すつもりだろう?」

「はは、そうだな」


 男はもはや勝ったつもりなのか余裕を見せている。

 そこに苦痛に耐えてゴランが襲い掛かった。


「おらああああ」

「なっ!」


 男は驚愕に顔をゆがめる。腕に魔剣がかすり火がついて燃えだした。

 邪神の加護の中なのだ。当然ゴランの動きは相当鈍い。

 だが、ゴランのことを動けないと思いこんでいた男は不意を突かれて避けられなかった。

 ゴランは気配を完全に消し、加えて気取られないよう計算しつくされた動きをしていた。

 だから男は不意を突かれたのだろう。

 それに魔力を吸われ、弱っていたことも男が避けられなかった理由に違いない。


「なめるな!」

 エリックも聖剣を振りかぶり、大きな動作で距離を詰める。


「黙って死んでおけ!」

 そんなエリックに男は小さな魔力弾を撃ち込んだ。


「ぐう」

 エリックは身をよじってかわす。だがかわしきれず魔力弾を肩に受けた。

 たまらず地面にひざをつく。

 それと同時に小さな動作で何かを俺の方へと投げてきた。


 大きな動作も聖剣も、自分の身体も全てはおとり。

 俺に投げたものがエリックの本命だ。


 俺が受け取ると同時にそれは輝いた。何かの魔道具らしい。

 魔力探査などかけている暇はない。俺はとりあえずそれに魔力を流し込む。

 魔道具の輝きは強くなり、一気に激痛が収まっていく。

 邪神の加護を緩和するための魔道具だったようだ。

 エリックは対策を用意してくれていたらしい。


「こういうのがあるなら、教えといてくれよ!」

 一気に魔神王の剣を振りぬく。男の首が宙に飛ぶ。

 同時に魔力探知。邪神の加護のコアを見つけ出す。それは男の分身体、その灰の中だった。

 体の中に隠していたということだろう。

 そこに俺は思いっきり魔力弾を撃ち込んだ。


 ――バリン!


 ガラスが割れるような音がして、コアが砕けた。

 同時に邪神の加護が消え去った。


「作動してよかった。試作品だったんだ」

 エリックがほっとした様子でほほ笑みながらいう。


「体の中に隠しておったのだな。ロックも我も気づかぬわけである」

「分身体ってのは想像以上に厄介なんだな」


 ケーテとゴランも肩で息をしながらそんなことを言った。

 邪神の加護のコアが壊されたことで、全員、苦しみから解放されたのだ。


 本体の身体の中に隠しておき、分身体を作ると同時に分身体の身体にコアを移したのだろう。

 この上なく面倒で、厄介なことを考えるものだ。


 俺は頭だけになった男に魔神王の剣を突き付けながら、魔力探知と魔力探査をかける。

 シア、セルリス、ガルヴが無事か確かめたかったのだ。


「ゴラン、セルリスたちは無事だ。まだロードと戦っているがな」

「そうか、それはよかった」

「ここはもう大丈夫だ。俺たちに任せて、向かってもいいぞ」


 平静を装っているが、ゴランは娘であるセルリスのことが気がかりに違いない。

 俺としても皆が心配なのは確かだ。


「いいのか?」

「その方が俺も安心だ」

「ゴラン、行ってやってくれ」

 俺とエリックがそう言うと、ゴランは走り出した。駆け抜けながら言う。


「ここは頼んだ!」

「ああ、任せろ」


 セルリスたちは、ゴランに任せれば安心だ。

 俺たちは謎の男に専念できるというものだ。


 俺は男に魔神王の剣を突き付けたまま尋ねる。


「さて、お前はなんだ? ただのハイロードではないだろ?」

「……ふふ。当然だ。我は真祖しんそ。ただのハイロードなどと同じにしてもらっては困る」


 意外にも男は自らの正体を明かしてくれた。少し驚いたが、やはりという思いも同時に浮かぶ。

 今まで俺にレッサー呼ばわりされた上位ヴァンパイアは例外なく激怒した。

 ヴァンパイアどもにとって階位というのは誇りと直結しているのだろう。

 自らの階位を誤解されるということは我慢ができないことなのだ。

 だから、ごまかさずに答えたのだろう。


 この知識は、これからも対ヴァンパイア戦に役立たせよう。俺はそう思った。

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