第245話

 俺の魔法の槍マジック・ランスに反応して、男はとっさに障壁の密度を変化させる。

 すると当然エリックの聖剣を防ぐための障壁が薄くなる。

 薄くなった障壁で、エリックの聖剣を防げるはずもない。


「はああああああ」

 エリックの聖剣が男に届く。その瞬間、男は生物にあるまじき動きで身をよじった。

 まるで骨のない軟体生物のようだ。やはり人の姿をとっていても、化け物なのだ。


「IIGIIIIGIIIiii」

 男は変な声を上げ、化け物じみた動きをして回避したが、エリックの技量は並みではない。

 超高速で剣を振りつつも、軌道を変えていく。ついに聖剣は男の右前腕部を斬り裂いた。


 致命傷を免れているのは、敵ながら大したものだと言わざるを得ない。

 致命傷ではなくともダメージは大きい。障壁の展開スピードがわずかに遅くなった。

 それでも通常の一流魔導士に比べたら魔法障壁の展開スピードは何倍も速い。

 だが、俺の魔法の槍を防ぐには遅すぎ、そして密度が薄すぎる。


 男の全身に計十二本の魔法の槍が突き刺さっていく。

 男の顔が苦痛にゆがむ。致命傷にはならなくともかなりの打撃を与えたはずだ。


 そう考えて、俺は一瞬ほっとする。ほっとしてしまった。その時、ゴランの声が響いた。

「終わってねーぞ!」

 ゴランの声にハッとすると同時に首筋がぞわっとする。


 強烈な殺気。慌てて、前方へと転がった。

 その直後、目に見えないほど速い斬撃が俺の首があった場所を薙いだ。

 男がいつの間にか俺の背後に移動していた。聖剣で斬り落とされた前腕部も治っている。

 男は体勢の崩れた俺に追撃しようとする。魔法障壁を張ろうとしたその時、


「遅い!」

 ゴランの剣が、横から男の左腕と胴体を同時に斬りおとした。


「ぐああああ」

 男は顔をゆがめ、苦痛の声を上げる。


「二匹いたのか?」

 エリックが叫ぶ。さすがのエリックも驚愕を隠せていない。

 エリックの聖剣と俺の魔法の槍で痛めつけたやつも、相変わらず存在しているのだ。


「二匹とも倒せばいいだけである!」

 そうケーテが叫んで、聖剣に斬られた方の男を爪で薙いだ。

 男は上に跳んで避けようとしたがケーテの方が速かった。爪が胴体に深々と突き刺さる。


「ぐぶう」

 血泡を口からあふれ出して、男がにやりと笑うと同時に、

 ――ダンッ

 大きな音が鳴り男が爆発した。ただの爆発ではない。

 男の全身は毒の霧へと変化している。それが爆風とともに一気に拡散する。


「毒だ! 吸い込むな!」

 俺は叫ぶと同時に、毒霧の対処を行う。

 全員に障壁を張ると同時に、風の魔法で外へと毒霧を排出する。


「よし!」

 うまく毒霧対策できたと思う。パーティーメンバーを守るのも俺の大切な役目だ。


「随分と余裕じゃあないか!」

 背後から男の声がした。同時に斬撃が振るわれた。とっさに魔神王の剣で受ける。

 どうやら、男は分身をいくらでも出せるようだ。隙を見せたら、すぐに後ろに回り込んでくる。


「お前、一体何匹いるんだ?」

「今から死ぬお前には関係ないことだ」

「そうかい」


 いくらでも分身体を作られると、かなり厄介だ。

 周囲を見てみると、エリックもゴランもケーテもそれぞれ戦っている。

 それぞれ押し込まれているわけではない。だが、有利に展開できているわけでもない。


 俺は男と剣を交えながらつぶやいた。

「なるほどな」

「なにが、なるほどだ。絶対的不利を悟ったのか?」

 男はにやりと口角を上げた。


「いや、なに。数を増やすと、弱くなるんだろう?」

「どうしてそう思う?」

「増やしても、一匹それぞれの力が弱くならないのなら、もっと多く出すはずだろう?」

「お前がそう信じたい気持ちはわかるぞ」


 同時に俺の背後にさらに一匹出現した。いくらでも数を増やせると言いたいのだろう。

 だが、俺はその出現を予測していた。出現した直後の男の剣を握る右手首を左手でつかむ。

 出現直後の攻撃はワンパターンだったので、つかむのは容易だった。


「攻撃が単調だぞ。間抜け」

 そして一気にドレインタッチを発動した。

 最高出力で、一気にすべてを吸いきるつもりで吸い取っていく。


「「「「「UGOOOOAAAAAAA」」」」」

 分身していた男たちが一斉に同時に叫ぶ。


「やはり繋がっているよな」

 幻ではなく実体のある分身体を同時に複数操っているのだ。

 それぞれの体は魔術的に連結していると考えるのが妥当なところだ。

 連結していなければ、攻撃が単調になり、魔力的な出力が漸減するのは避けられない。

 巧みに各個体の力配分を調節し、力があまり落ちていないように見せかけていただけだ。


 見せかけただけと言っても、それはかなりの高等技術なのは間違いない。油断ならぬ相手だ。


「「「「UGAAAAA」」」」

 俺は男の魔力を吸い続ける。直接吸っている個体は見る見るうちに干からびていく。

 それに伴い、ほかの個体も少しずつ干からびはじめる。


 そして、男たちの動きが鈍くなる。

 エリックたちはそこを見逃すほど甘くはない。

 各分身体は、エリックたちにより一斉に斬り刻まれていった。

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