第221話

 次の日、俺は夜明けごろに起床した。すぐに横で寝ているガルヴを起こす。


「ガルヴ、散歩に行くぞ」

「……がぅ」

 眠そうに、やる気なさそうな返事をする。


「今日は魔道具作りが忙しいからな。今ぐらいしか散歩に行ける時間がないんだ」

「がぁぁーぅ」

 ガルヴは大きな口を開けてあくびをして、伸びをする。


 そして、俺たちは朝の散歩に出かけた。シアとニア、それにセルリスもついてくる。

 シアたちも早起きして訓練しているのだ。


「ががうがう!」

 眠そうだったガルヴも途中から楽しそうにはしゃぎ始める。

 だが、今日はあまり長く散歩はできない。


「ガルヴ、今日はそろそろ戻ろう。仕事があるからな」

「がぅぅ」


 少し残念そうだが、ガルヴは素直に言うことを聞いてくれた。とても賢い子狼だ。


 その後、朝ご飯を済ませると、俺たちは魔道具作成の続きに入る。

 ケーテもモルスも、そしてルッチラも懸命に働いてくれた。

 そのおかげで昼すぎには無事、十二の魔道具を完成させることができた。


「これで、狼の獣人族、主要十二の部族すべてに配れるのである」

「そうだな。この屋敷に設置したら、なるべく早く配りに行こう」

「うむ。移動は我に任せるがよい!」


 そして、俺たちはダントンの屋敷に魔道具を設置する。

 ダントンが設置の様子を真剣な表情で見つめてくる。


「よし、これで設置完了だ」

「ものすごく助かる。ロック。それにケーテさんもモルスさんも、本当にありがとうございます」

「気にしなくていいのであるぞ! 我も非常に勉強になったのである」

「お役に立てたのならとてもうれしいです」


 ケーテもモルスも嬉しそうだ。

 その後、俺はダントンに魔道具について説明をした。


「これでダークレイスは侵入不可能だ。そしてはじいた瞬間、音が鳴る」

「侵入不可能? それはすごいな」

「ゲルベルガさまの羽を使っているからな。あとガルヴの爪も」

「さすがは神鶏さまだな……。ゲルベルガさま、ガルヴありがとうございます」

「コゥ!」「がうがう」


 ゲルベルガさまは羽をバサバサさせる。ガルヴも自慢げに尻尾を振っている。


「ロック。俺たちが気を付けないといけないことはなんだ?」

「そうだな。置いとけば勝手に作動し続ける。音が鳴れば近くにいるから……」

「倒しに行けばいいってことか? それは便利だな」

「ああ、それと屋敷の周辺は覆えているが、集落の全体を覆えているわけではない」

「ふむ。集落に入られても必ずしも作動するわけではないってことだな?」

「そうだ。集落の端の方は作動しないものと思ってくれ」

「わかった。すごく助かる」


 俺は大事なことを思い出した。

 壁も強化しておいた方がいいだろう。モルスが強化の魔法をかけてくれてはいる。

 だが、急いでかけたので長続きしない弱いものだ。


「屋敷の壁に強化の魔法をかけておこう」

「いいのか? 手間ではないか?」

「いや、大した手間ではない。気にするな。魔道具を破壊しに来られた時にも壁が強化されていれば少しはもつからな」

「とても助かる。ロック。ありがとう」


 ダークレイスは確実にはじく。

 だがアークヴァンパイアなどが強引に突破し、魔道具を破壊しに来るかもしれない。

 それを防ぐためには屋敷の壁を強化する必要がある。


 俺はケーテとモルス、ルッチラに言う。


「強化の魔法をかけるから、見ていてくれ」

「わかりました。ロックさんの魔法を間近でみれるのはこの上ない喜びです」

「我も勉強するのだ!」

「はい。がんばります!」


 ケーテとモルスにもわかりやすいように、すこしゆっくり壁に強化魔法をかけていく。

 ルッチラも真剣な表情で俺の魔法を観察している。

 向上心があっていいことだ。ルッチラにもわかりやすいように、さらにゆっくりにする。


「こうすると、耐久度が上がるんだ」

「ロックさん。持続性の強化はどうすればよいのでしょうか?」

 モルスから質問された。


「ああ、モルスのかけた強化魔法は効果が短いんだったな。」

「はい、二、三日はもつのですが、それ以上もたせようとすると強度面が不安になります」

「その場合は、強化の部分はそのままにして、ここをこうすると……」


 俺は実際に魔法をかけて見せる。

 俺の屋敷や、俺の屋敷から王宮への秘密通路にかけたものと同じだ。

 ヴァンパイアだろうが、魔導士だろうが、そうそう入れるものではない。


「これで強化魔法の効果が永続になる。王宮の宝物庫にかける強化魔法の原理と同じだ」

「だが、あれは宮廷魔導士どもが数か月かけて施すものであろ?」

「それは魔力が足りないからだな。モルスやケーテなら魔力は宮廷魔導士よりずっと多いだろう」

「なるほど、そうであったかー」


 風竜も水竜も竜の最上位種だ。

 その中でも特に強力な王族であるケーテとモルスの魔力は人間の魔導士の比ではない。

 宮廷魔導士が数か月かかることを、数分で行うことができるだろう。


「ぼくには、数分でかけるのは難しそうです」

 ルッチラは少し残念そうだ。竜の王族と同じことができる方が異常なのだ。


「そうか。まあ時間かけてでも似たことができるなら、今はそれでいい」

「はい、頑張ります」


 ルッチラは成長期。そのうち魔力も成長するだろう。

 そうなれば、できることはどんどん増えるはずだ。


 俺はケーテとモルスを見る。


「まあ、こんな感じだ。ケーテ、モルス、できそうか?」

「お任せください。やってみます」

「とりあえず、やってみるのである。おかしなところがあったら言って欲しいのである」


 モルスは自信があるようだ。ケーテはとりあえずやってみる派のようである。

 モルスとケーテはそれぞれ魔法をかけていく。ケーテもモルスも理解が早い。

 あっという間に壁に魔法をかけていく。


「ロックさん、どうでしょうか?」

「我の魔法はどうであるか?」

「ケーテもモルスも完璧だ」

「がっはっは! そうであるかー」

「ロックさんにそう言ってもらえると嬉しいですね」


 半分ほど強化が終わったところで

「あとは私の方でやっておきますので、皆さんは他の屋敷に魔道具を届けに行ってください」

 モルスがそんなことを提案した。

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