第174話

 フィリーを見送ってから、レフィが笑顔で言う。


「フィリーはしばらくご両親とお話させてあげましょう」

「そうだな、それがいい」

「今日は王宮に泊めて、明日エリックに送らせるわ」

「エリックは忙しいんじゃないのか?」

「忙しいでしょうね。でもどうせ、ロックの屋敷に行くでしょう?」

「……かもしれないな」


 エリックはことあるごとに俺の屋敷に来ている。

 そのついでにフィリーを送ってくれるならいい。


「エリックを借りているみたいで悪いな」

「それはいいのだけど……」

「問題が?」

「エリック。最近食べすぎだと思うのよねー」

「あぁ……」

 うちと王宮で二回食事していることについてだろう。


「ロックからも、エリックに言ってちょうだい」

「わかった。言っておこう」

「お願いね」


 そして、俺は王女たちに挨拶をして屋敷に帰る。

 ガルヴとゲルベルガさまと一緒だ。


「ここぅ」

 地下通路を歩いている間、ゲルベルガさまは俺の肩に乗って、機嫌よく鳴く。

 

「ゲルベルガさま、楽しかったか?」

「こう!」

 ゲルベルガさまは羽をバタバタさせた。


「そうか、よかった」

 王女たちと遊んで、楽しかったようだ。


「がうがう」

 ガルヴは楽しそうに秘密通路を走っている。


「ガルヴは楽しかったか?」

「がう!」


 一声鳴いて、俺にぴょんぴょん飛びつく。

 顔を舐めてきた。


「楽しそうでなによりだ」

 俺はそんなガルヴを撫でまくった。


 ガルヴとわいわいしながら、屋敷に戻るとミルカが出迎えてくれた。

 ゲルベルガさまと会いたかったのか、ルッチラもいる。


「ロックさん、おかえり! 夜ご飯はたべるかい?」

「ああ、頼む。いつもすまない」

「これがおれの仕事ってやつさ!」


 ゲルベルガさまが、俺の肩からルッチラの方に飛ぶ。


「こここぅ」

「ゲルベルガさま、どうでしたか?」

「ここここ!」

「それはよかったです!」


 ミルカが俺の後ろを見て言う。


「あれ? フィリー先生はどうしたんだい?」

「ご両親とお話し中だ。今日は王宮に泊まっていくらしい」

「そっかー。じゃあ、タマも先生と一緒ってことかい?」

「そういうことだ」


 そして、ミルカとルッチラは食事の準備をしに台所に向かう。

 一方、俺はガルヴと一緒に居間に向かった。

 居間にはケーテとドルゴがいた。


「お、ロック帰ったのであるな!」

「ただいま。敵の本拠地の情報は何かあったか?」

「まだ、何ともいえないのである」

「ほう?」


 情報が全くないというわけではなく、何とも言えない。

 つまり、不確かな情報はあるらしい。


 そんな推測をしていると、ドルゴが言う。


「敵の痕跡は巧妙に隠されておりましたが……、魔獣の生息数の変化などから、いま狙いを絞っているところです」

「生息数の変化から、何かわかるのですか?」

「昏き者どもは大半の魔獣たちにとっても天敵ですから。ハイロード、もしくはその上の『至高の王』の率いる勢力が存在すれば変化が現れます」

「魔獣たちは昏き者どもの餌にもなるのである」


 逃げたり、狩られたりするので、魔獣の生息数が減るだろうと推測しているようだ。


「本当は人族の生息数の変化も知りたいのであるが……」

「我らには、調べにくいですからね」


 ドルゴはともかく、ケーテはゴブリンと人族の区別もいまいちついていないレベルだ。

 そうでなくとも、ケーテたちが人族の集落の上空を飛べば、驚かしてしまう。


「人族の数はエリックたちに任せればいいでしょう」


 そんなことを話している間、ガルヴはケーテにじゃれついていた。

 ケーテの肩に手を置いて、顔をぺろぺろ舐めている。

 そんなガルヴをケーテも機嫌よく撫でまくっていた。


 そこにセルリスとシアがやってくる。

 二人とも汗だくだった。恐らく特訓でもしていたのだろう。


「シア、セルリスおかえり」

「ただいまであります!」

「ただいまかえりました」

「ニアはどうした?」

「ニアも一緒に特訓してたでありますが、直接ミルカさんの手伝いに行ったでありますよ」

「それは大変だな」


 いくら徒弟とはいえ、特訓の後ぐらい少し休んでもいいと思う。

 ニアはとてもまじめだと思う。

 俺はニアのかわりに手伝うために台所に向かうことにする。

 立ち上がりかけたとき、セルリスはもじもじしながら言う。


「あの、ロックさん。どうだったかしら?」

「魔道具のことか?」

「うん」

「一応、研究は進んだ。もう少し研究を深めないといけないだろうが……。なるべく急ぐので待っていてくれ」

「ロックさん、ありがとう」


 ケーテが首を傾げた。


「そういえば、今日は図書室に行っていたとミルカに聞いたのである。魔道具について調べていたのであるか?」

「そうなんだ。フィリーと一緒に王宮の図書室に行ってきた」


 ドルゴが魔道具という言葉に反応した。


「魔道具ですか。一体どのような?」

「精神抵抗を上げるアクセサリー的なものを作りたくて……」

 俺はセルリスにアクセサリーを装備させたい事情を説明した。


「なるほど……」

「確かに、魅了は怖いのである」


 少し考えて、ドルゴが言う。


「精神抵抗を高める魔道具。ふむ。それならば、力になれるかもしれません」

「本当ですか?」

「我ら風竜族は錬金術が得意な竜族ですからね。それなりの資料があると思います。ロックさんのお役に立てるかはわかりませんが」

「それは助かります!」


 次の日、フィリーが帰ってきたら、風竜王の宮殿に連れて行ってもらうことにした。

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