第163話

 次の日から、俺は一日一度、水竜の集落に出向くことにした。

 午前中にガルヴとタマとゲルベルガさまを連れて、集落の様子を見に行くのだ。

 ガルヴの散歩も兼ねている。

 そして、午後はニアと剣術の訓練をしたり、ミルカに魔法を教えたりした。


 そんな日々を過ごして、三日目のこと。

 今日は、ケーテも一緒に来てくれることになった。

 ケーテは、基本暇らしい。


「おはよう。ラック、来てくれて、とてもうれしいのよ」

「おはよう、リーア」


 水竜の集落に行くと、リーアが魔法陣部屋で出迎えてくれた。

 毎日リーアは魔法陣部屋で待っていてくれる。


「ケーテ姉さまも、遊びに来てくれてうれしいの」

「リーアはいい子なのである!」


 ケーテはリーアのわきの下に手を入れて、持ち上げる。

 そして、ケーテはくるくる回る。

 リーアはキャッキャと言って喜んでいた。

 その周りをガルヴとタマがぐるぐる回る。


「がうがう!」

「ガルヴもタマもゲルベルガさまもおはよう」

 地面に降ろされるとリーアは獣たちを順番に撫でていく。


「出迎えてくれるのは嬉しいけど、わざわざ毎日出迎えてくれなくてもいいんだぞ。リーアも忙しいだろう?」

「んーん。楽しみだからいいの。迷惑だった?」

「全然、迷惑ではないぞ」


 三日経って、俺もリーアに敬語を使わなくなっていた。

 そうして欲しいと言われたからだ。


 魔法陣部屋のある建物を出ると、水竜たちが待っていてくれる。

 これもいつものことだ。


「ラックさま! よくおいでくださいました!」


 わいわい言いながら、俺とガルヴたちの散歩についてくる。

 水竜は結構ひまらしい。


「竜ってあまり働かないのか?」

 小声でケーテに聞いたら、竜族はあまり食べなくてもいいと教えてくれた。


「よく考えてみるのである。巨大な竜族が人族ぐらいの体重比率で食べたら、大変なことになるであろう!」

「それはそうだが、ケーテはよく食べてるよな」

「それはそれ。これはこれである」

「いや、それとこれはまさに同じだと思うが」

「そんなことはないのである。人族だって必要のない食事をするであろう?」

「そういうことなら、なんとなくわかる」


 ケーテは初めて王都に来たときに無銭飲食しかけていた。

 ミルカの作ったご飯もバクバク食べている。


 食べることは必須ではないが、好きということなのかもしれない。

 ともあれ、竜族は食べる必要性が少ないうえに、物を買ったりもあまりしない。

 だから、労働の重要性が低いようだ。


 そんなことを話しながら、俺たちは水竜の集落を駆け足で巡回する。

 走る必要はないのだが、ガルヴを走らせるためだ。


 タマが疲れたあたりで、俺たちは休憩する。

 その間もガルヴは水竜たちとかけっこして遊んでいた。


「リーア。最近は襲撃はないのか?」

「うーん。ないと思うの」

「大きなものはありません。ですが、レッサーヴァンパイアが入ろうとしてくることはあります」

 侍従長が、リーアの言葉を補足してくれる。


「詳しく教えてください」

「大体に一日一度か二度、二、三匹のレッサーヴァンパイアやアークヴァンパイアが侵入しようとしてくるのです」


 ロード以上のヴァンパイアなら、結界が防いでいる。

 だが、弱いヴァンパイアは結界では防げない。

 水竜たちがその手で排除する必要がある。


「それは面倒ですね」

「はい、脅威ではありませんが、面倒ではあります」


 レッサーやアークヴァンパイアごとき、水竜の敵ではない。

 人族にとっての、ゴキブリのようなもの。水竜が叩けば死ぬ。

 だが、気持ち悪いし、自分の領域に出現されると、ぞっとする。

 物陰に隠れられると非常に嫌な気持ちになる。


 とはいえ、いちいち王太女殿下に報告するようなことではない。

 だから、リーアは知らなかったのだろう。


「ヴァンパイアの侵入はどうやって探知しているのですか?」

「我らの目と鼻と耳で」

「……なるほど」


 魔法技術に優れた竜族らしくないやり方だ。

 おそらく竜族は気配を察するのもうまいのだろう。

 いくら、うまいと言っても不安ではある。


「ケーテ。侵入者探知の魔法使えたよな」

「む? いつも遺跡にかけているやつであるか?」

「そうそう。それを、集落全体にかけられないか?」

「むむう……」

「難しいか?」

「広いから、難しいのである」


 ケーテが難しいというのなら仕方がない。


「ならば、俺が魔法をかけるか」

「ロック、出来るのであるか?」

「まあ。恐らくは。リーア、かけてもいいだろうか?」

「お願いするのよ!」


 リーアの許可が出たので、俺は集落の外周をもう一度回る。

 基本はケーテの侵入者探知の魔法と同じだ。

 その魔法の核となるものを集落の外周に配置して、核同士を魔力でつなげるのだ。


「ふむう。さすがはラックである」


 ケーテは感心していた。

 侵入者があれば鳴り響く腕輪を、複数作ってそれを侍従長に託した。


「侵入者がいればこれが鳴ります。ですが魔法でごまかす方法もないわけではありません」

 そういって、これまで通りの警戒も続けてもらうようお願いする。


「腕輪のこの部分をみれば、どこに侵入があったのかわかるようになっています」

「なんと……。ありがとうございます」

「ラック、ありがとうなのよ!」


 侍従長とリーアにお礼を言われた。

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