第137話

 俺たちは手分けして、ケーテの宮殿の後片付けをほぼ終えた。


「こんなもんで大丈夫か?」

「うむ、助かったのである」


 ケーテは嬉しそうだ。


「そうだ。お茶でも出そうではないか。少し待っているがよい」

 そう言って、ケーテはドタドタ走っていった。

 竜のお茶、少し気になる。


 ケーテを待っているときに、エリックが言う。

「ロック。一応、魔力探知マジック・サーチをかけて欲しいのだが」

「お安い御用だ」


 だが、人の家に勝手に魔力探知をかけるのは無作法だ。

 一応、台所にいるらしいケーテに向かって声をかける。


「ケーテ、魔力探知かけていいか? 昏き者どもが何か残してないか気になるからな」

「それは構わぬが、なにかって何であるかー?」

「小さな使い魔とか、小さな魔道具とかだな」

「なるほどー。それは厄介であるな。魔力探知お願いするのであるぞー」

「わかった」


 俺は魔力探知の魔法を宮殿全体にかける。

 色々なものが引っ掛かる。いくつかの魔力を帯びた道具らしきものがある。

 俺が一番懸念していた使い魔や、隠れ潜む昏き者の類はいなかった。


「魔道具がいくつかだな」

「恐らくはもとからあったものだろうが、一応見て回ったほうがいいよな」


 俺たちは、一つ一つを確認していく。全部で五つあった。

 どれも、それほど大きくはないので机の上に運ぶ。ケーテに確認してもらうためだ。


「お茶を入れたのだぞー」

「おお、ありがとう」


 ケーテは指先でつまむようにお盆をもっている。

 人族にとってはとても大きな、竜にとってはとても小さなお盆だ。

 お盆の上にはどんぶりと樽が乗っている。

 どんぶりはケーテの家では一番小さなカップなのだろう。


「どうぞ。カップは我には小さすぎるゆえ、配りにくいから、各自とっておくれ」

「ありがとう。いただこう」


 大きい。全部飲んだらトイレが近くなるのは間違いない。

 一口飲む。美味しかった。


「うまいな」

「本当であるか?」

「うむ」

「ああ、確かに美味しいお茶であるぞ」

「俺にはお茶の種類とかはよくわからねーが、うまいのはわかる」

 エリックとゴランもお茶をほめる。


「ぎゃっぎゃっぎゃ! そうかそうか」

 嬉しそうに笑うと、ケーテは樽からお茶を飲む。


「うむ。ちゃんと美味しく入れられたようなのだ」


 それからケーテは机の上に乗っている道具を見た。


「これは?」

「魔力探知に引っかかった物だ。ケーテの物ならいいんだがな。昏き者どもが残した魔道具ならまずい」

「なるほど。我が確認すればいいのだな」

「そういうことだ」


 ケーテは魔道具を爪の先でつかんで調べていく。

 いっそのこと、人型になった方が調べやすいと思うのだが、そうはしないらしい。


「これは見覚えがあるぞ。これはなんであったか……」

 しばらく調べたあと、ケーテは言う。


「うむ。すべて我の宮殿にもともとあったものであるな」

「それならよかった」

「だが……なぜこれがここにあるのだ?」

「む?」

「これは魔法の道具ではないと思うのだが……」


 そう言ってケーテが指さしたのは鏡だった。

 ドラゴンサイズではなく、人型用サイズの姿見の鏡だ。


「魔力探知には引っかかったが」

「そんなはずはないと思うのである」


 ケーテは首をかしげる。

 念のためにもう一度魔力探知をかけた。

 やはり引っかかる。


「魔力を帯びているのは間違いない」

「不思議なこともあるものであるなー」


 ケーテはそんなことを言いながら、鏡をつまんで眺めていた。

 話を聞いていたエリックが、真面目な顔になった。


「いや、待て。昏き者どもが魔法の道具に改造したのかもしれないではないか」

「可能性はあるんじゃねーか」

「そうだな、調べる必要はあるな」


 俺はケーテから鏡を受け取ると、じっくり調べる。

 なんの魔法がかけられているか調べるには魔力探査とは別の魔法が必要だ。

 それに魔道具の用途を調べるには、魔法とは別の知識が必要だったりもする。

 鑑定はそれほど難しいのだ。


「特に用途はなさそうにみえるのだが……」

「そんなことってのは、あるのか?」

「考えにくいが……」


 俺はしばらく鏡を調べながら考える。


「昏き者どもの姿見の鏡と言えば転移魔法陣が思い浮かぶが、転移する効果はないんだよな」

「……途中だったのではないか?」


 エリックの言葉で、俺は改めて調べる。


「……確かに裏に書かれている文様が、以前見た転移魔法陣に形が似ている気がする」

「どれどれ?」


 俺の言葉で、興味がわいたのか樽を持ったままケーテが俺の後ろに回り込む。


「この模様のことであるか?」

「そうそう」

「それなら我も見たことがある気がするぞ」

「そうなのか?」


 ケーテは尻尾で床を一度叩く。


「少し待っているがよい」

 樽を机の上に置いて、ドタドタと走っていった。そしてすぐに戻ってくる。

 手には本を持っていた。


「でかい本だな」

「竜の本であるからなー」


 ケーテはページをめくっていく。


「ほら、ここであるぞ」

 ケーテの指さした先には、確かに転移魔法陣が書かれていた。


「おお、すごいな」

「我には、魔法陣のことは、あまりよくわからないのだがな。見たことがあったのを覚えていたのである」


 わからなくても覚えていたというのはすごい。

 ケーテは実は頭がいいのかもしれない。


「もしかすると、昏き者どもは竜の魔法技術を利用しているのか?」

「可能性はたかいんじゃねーか?」


 エリックとゴランは深刻な表情でそんなことを言った。

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