第125話

 エリックとゴランは昼ごはんを食べて、帰っていった。

 至高の王や、竜族の遺跡など、色々対応しなければならないことが多いのだろう。

 二人には本当に頭が下がる。


 ゆったりとした空気の中、俺はタマとフィリーに尋ねる。


「タマは毎日どのくらい散歩しているんだ?」

「そうであるな……。適当にその辺を歩くぐらいなのである」

「そうか。ガルヴはかなり長い距離を走りたがるからな。一緒に散歩はきついかもしれないな」

「わふっ」


 タマは小さく吠えた。自分も長距離走れると主張しているのだろう。

 俺はタマの頭をわしわし撫でる。


「今は痩せすぎだが、タマは本来、体力があるのかもしれない。だが一緒に散歩するフィリーがしんどいだろう」

「わふぅ」


 そういうことなら仕方がない。そんな感じの吠え方だ。

 そばで話を聞いていた、ミルカが言う。


「え? フィリーちゃん、外を歩いていいのか? ゲルベルガさまみたいに狙われているって勇者王が言ってたぞ!」

「それはそうだが」

「タマの散歩なら、おれに任せておくれ」

「とはいえ、フィリーだって、引きこもるわけにはいかないだろう」

「我は引きこもっていても、一向に構わないのだ」

「そういうわけにはいかないだろう。身体に悪いぞ」


 フィリーは、天才だがまだ子供。

 引きこもっていては成長に悪影響がないとは言えない。

 病気になっても困る。


「明日から俺とガルヴと一緒に散歩に行こう。近くを一周してから、タマとフィリーを家において、俺とガルヴで遠くに行こう」

「わふ」

「すまぬ。苦労をかけるのだ」

「がうー?」


 ガルヴは会話の内容がわかっているのかわかっていないのか。

 腹を見せて、床の上に転がっていた。

 とりあえず、腹を撫でてやる。


「さて、午後は時間があるから、フィリーの研究室を作るか」

「よいのか? というか、作れるのか?」

「資材は余っているからな。魔法を使えば可能だ」


 秘密通路を補強した際に購入した資材は余っている。

 それを使って、部屋を拡張し、魔法をかければいいだろう。


「そうであるか!」

「だが今日中に水を使えるようにするのは、難しいかもしれない」

「うむ。それは確かに難しかろう……。専門の職人に頼まねばなるまい」

「いや、外部には頼めないんだ。単純に今日できないのは技術的な話ではなく資材的な問題でな」


 外部の職人を頼めば、機密が漏れる。

 元より、自分でやるしかないのだ。

 いま不足しているのは水を通すための金属管だ。


 そんなことを説明していると、ミルカが言う。


「足りないなら、おれが買ってくるぞ!」

「重たいから、ミルカだけだと厳しいな」

「では、私も行かせていただきます」

「ニアもありがとうな」

「力仕事はお姉さんたちに任せなさい」

「そうであります」


 ニアとシア、それにセルリスも買い出しに行ってくれるようだ。


「なら頼む。一応魔法の鞄も渡しておこう」


 俺は金属管の代金と魔法の鞄をミルカに渡した。

 ミルカたちが買い出しに向かった後、俺は作業に入る。


 岩の壁を削り、部屋を広げていく。


「もう少し広さが欲しいか?」

「出来れば……欲しいのだ」

「了解」


 フィリーと相談しながら、部屋の拡張をした。

 魔法での補強は忘れない。通路との仕切りも大切だ。

 王女が通ってるときに爆発などしたら大変だからだ。


 部屋が完成したころ、セルリスたちが帰ってくる。

 水を通すための金属管を沢山買ってきてくれた。


「ありがとう。助かる」

「でも、金属管をどうするでありますか?」


 シアが不思議そうに聞いてくる。


「とりあえず、下水は簡単だろう?」

「そうでありますね。近くに下水道が通っているでありますからな」

「まあ、垂れ流すわけにはいかないんだがな」

「そうなのでありますか?」


 基本、王都の下水は垂れ流しだ。だから臭いのである。


「ただの下水ならともかく、錬金の排水だからな」

「いや、それは気にしなくても大丈夫であるぞ?」

「そうなのか?」

「うむ。流す前に処理はこちらでするのだ」


 そういうことなら、それでいいのかもしれない。

 だが、直接つなげれば、下水から敵の侵入を許しかねない。

 ネズミ大の使い魔だっている。

 それにガス状魔法生物や、気体状の攻撃魔法などを流し込まれたら厄介だ。


 一応、魔術的トラップも作っておくべきだろう。

 下水の方は一時間もかからず完了した。


「下水がおわったから、次は上水だな!」


 ミルカがものすごくわくわくした目で見てくる。


「そんなに期待されても、上水の配管をつなげるだけなのだが……」

「どうやってつなげるんだ? 岩の壁で囲まれているぞ!」

「岩ぐらい簡単に貫ける」


 俺は屋敷用の上水が通っている配管に向けて岩を貫く。

 そして、上水の配管が露出しているところまで移動して管をつなげた。

 魔法を使えば簡単だ。


「魔法ってすごいんだな!」


 作業を見ていたミルカが感動したように言う。


「ミルカも習ってみるか?」

「え? いいのか?」

「習いたいならいいぞ」

「頼む、教えてくれ!」

「わかった」


 フィリーも感動しているようだった。


「素晴らしい研究室だ。……ありがたい。なんとお礼を言って良いのか」

「気にするな」

「さすがにそうはいくまい。居候をさせてもらったうえ、このような素晴らしい研究室を……」


 そしてフィリーは考え始めた。


「ロックさんは、お金には困っておらぬであろうし……。なにか我に出来ることがあればよいのだが……」


 その言葉を聞いて思いついた。


「ならば、俺の徒弟であるミルカとニア、ルッチラに色々教えてやってくれ」

「錬金術をか?」

「錬金術よりも、むしろ教養的なものを。俺の徒弟なのに教養がないのはかわいそうだ」

「教えるのはたやすいが……。それだけでよいのか?」

「フィリーが教えてくれるなら、ものすごく助かる」


 以前、エリックにフィリーについて聞いたことがある。

 フィリーは天才で、錬金術だけでなくあらゆる学問に精通しているとのことだ。

 家庭教師をしてくれるなら、これ以上ない人材である。


「そういうことなら、我がロックさんの徒弟に教養全般を教えようではないか!」

「ありがたい」


 家庭教師探しは、思わぬ解決を見たようだった。

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