第103話

 疲れ気味のガルヴの休憩が終わった後、移動再開だ。

 疲れていたというのに、水を飲んだらガルヴはもう元気いっぱいだ。

 子供の回復力は素晴らしい。


 シアはニアに足跡追跡をやらせるらしい。

 ニアは真剣な表情で、ゴブリンの足跡を追っていく。


「ロックさん。お時間をとらせて申し訳ないであります」

「気にするな」


 ニアの足跡追跡の速さは、シアが足跡を追うよりも、当然遅い。

 そのことを謝っているのだ。

 そもそも、最速は別に目指していない。

 それに急ぎの任務でもない。じっくり進めばいいのだ。

 ガルヴも落ち着いてゆっくり歩いている。


「セルリスは追跡の練習をしなくていいのか?」

「戦士でもやっぱり出来た方がいいのかしら?」

「パーティー中心なら、得意な奴に任せればいいが、ソロで動くこともあるだろう」

「それもそうよね」


 セルリスもニアの後ろから足跡を探しはじめた。

 セルリスは真面目な頑張り屋なのだ。


 俺やシア、ガルヴはそんな二人の後ろからついて行く。

 一応、追跡を失敗したら、アドバイスするつもりだ。


 しばらく進むと、ニアが小さな声で言う。


「巣穴がありました」

「よくやったであります」

「セルリスもうまいぞ」

「ロックさん、ありがとう」


 ニアもセルリスも、無事ゴブリンの足跡追跡を成功させた。

 難度は低いとはいえ、最初にしては上々だ。


 ゴブリンの巣穴はとても大きなものだった。

 入口の横幅も高さも成人男性の身長の十倍ほどあった。

 入口より少し離れたところから、様子を観察する。


「これは一体なんでありますかね……。自然の洞窟ではあり得ないというのは確かでありますが……」

「巨大すぎるし、ゴブリンが作ったものの訳もないわよね」

「恐らく何かの放棄された遺跡だろうとは思うが、なにかはわからないな」


 放棄された遺跡をゴブリンが勝手に巣穴にすることはよくあることだ。

 屋根と壁があり、雨風をしのげればゴブリンたちにとっては充分だ。


「王都の近くにも、こんな大きな遺跡があったのでありますねー」

「新発見かしら」


 シアとセルリスはワクワクしている。

 発見済みの遺跡は冒険者ギルドが管理している。

 ゴブリンの出没場所の近くに、発見済みの遺跡があれば依頼受注の際に教えてくれる。

 そして、遺跡の地図の写しなども貸してもらえるのだ。


「まだ、遺跡と決まったわけではないぞ」

「確かにそうだけど、自然にできたものとも思えないわ」

「そうだな。とりあえず、ゴブリンを倒した後に遺跡調査もしよう」

「はい」


 シアがニアの頭をわしわし撫でる。


「運がいいでありますね。最初の任務で遺跡探索も出来るかもしれないでありますよ」

「はい、姉上、がんばります!」


 それから、巣穴に入ってゴブリン退治だ。

 ニア、シアを前列に、中列がセルリス、後列が俺とガルヴで進んでいく。


 ニアの腕前は八歳にしては素晴らしいものだった。

 ゴブリンごときでは相手にならない。

 だが、まだ子供である。仕方ないとはいえ、筋力が圧倒的に足りない。

 一人で冒険はさせないほうが良いだろう。


 遺跡を進んでいって、結果五体のゴブリンを討伐した。


 俺はガルヴに小さな声で尋ねる。


「ガルヴ、他にまだいるか?」

「がう」


 一声鳴いて、ガルヴは尻尾を振る、もういないと伝えているのだろう。

 俺はガルヴの頭を撫でてやる。


 俺たちから少し離れたところでは、シアがニアに聞いている。


「ほかにまだいると思うでありますか?」

「いないと思います、姉上!」

「どうしてそう思うであります?」


 シアはニアの教育に余念がないようだ。

 シアに育成されれば、ニアはきっと優秀な冒険者になるだろう。


 そんなことを考えながら、シアとニアを眺めているとセルリスが寄ってくる。


「どうした?」

「えっと……」


 セルリスはもじもじしている。俺は察した。

 シアがニアにするように、自分も聞いてほしいのだ。


「セルリスは、まだゴブリンがいると思うか?」

「はいっ! 私はいないと思うわ」

「どうしてそう思うんだ?」

「それは入り口付近の足跡数、それに……」


 セルリスは一生懸命説明してくれた。


「うむ。正解だ」

「やった!」

 セルリスは小さくこぶしをぎゅっとする。


 その後、俺たちは全員でゴブリンの魔石を取り出した。

 シアはしっかり、魔石の取り出し方もニアに教える。

 魔石の取り出しは冒険者の必須技能だ。


 魔石を取り出した後、俺たちは焼却するのは後回しにして遺跡の探索を開始する。


「特に何もないでありますねー」


 ただただ、広くて天井の高い遺跡だった。

 特に何も見つからず、ニアはあからさまにがっかりしている。


「ニア。何もない遺跡なんて、よくあることで、ありますよ」

「はい」

「特に何もなくても、構造から昔のことが分かったりもするでありますよ」

「はい、姉上、勉強になります!」


 姉妹がそんなことを話している間に、セルリスがこっちに来る。


「魔法的に何かあったりしないのかしら?」

「魔法が掛かっていたりはしないな」

「隠ぺいの魔法をかけられた隠し扉とか……」

「それもないぞ」


 俺がそういうと、セルリスもがっかりする。

 先程がっかりしたニアと、表情がそっくりだ。少し面白い。


「そうなんだ。残念ね」

「ただ、魔力は感じる」

「魔力? というと、つまりどういうことなのかしら?」

「洞窟全体に魔法が掛かっていた痕跡があるな。つまり最近まで魔導士がいたのかもしれない」

「ふむぅ?」


 セルリスは首をかしげる。

 その時、洞窟の入り口の方から、強烈な火炎が一気に吹き込んできた。

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