第33話 奴隷だった私はエルフに会う

「俺も行きたかったな……」


旅に出る前日のこと。カイが残念そうに言った。

旅は少数精鋭で行くことになったので、まだ見習い騎士でもあるカイは屋敷で居残りだ。


「しょうがないよ、何があるか分からないから。それに、話を聞きに行っても何も分からない可能性があるからね」


イーラとしても残念だったが、ピアーズが決めたことなので、カイも従うしかない。


「そう言えば、あの不審者ってピアーズ様の知り合いだったんだよな。それなのに不審者扱いして悪かったな」


カイが気まずそうな表情で言った。


「本人は気にしてないって言ってたよ」


私も悪かったなと思って後から謝ったら。透真は驚いたけど気にしてないと言ってくれた。


「じゃあ、イーラ。気を付けて行ってこいよ」

「うん。お土産楽しみにしててね」


そう言うとカイは「イーラは呑気だな」と苦笑た。

その夜。


「エルフが森のどこにいるのか分からないって、本当ですか?」


イーラはピアーズの部屋でそう聞いた。

出発は明日だ。イーラは地図を開いて最後の確認をしていた。

ピアーズが言うにはエルフのことは分からない事が多いらしい。調べた文献もどこまで正しいのかも分からない。

エルフがいるとされる森は魔族の国のはるか東、大陸の端にあるそうだ。

しかもその森はとても深く、凶暴なモンスターも沢山いるらしい。


「ああ、ただ、大体の場所は分かっている。まずはそこまで行って探そうと思う。ある程度は当たりはついてる。あてもなく探すよりは早いとは思うぞ。とは言えそこにいなかったらお手上げだが」


ピアーズはベッドに横になりくつろいだ格好で言った。

最近は明日の旅に行くために忙しかったから、こういう風にのんびり話すのは久しぶりだ。


「ピアーズ様。透真の妹さんのこと分かりますかね?」

「どうだろうな……可能性だけ考えたら色々考えられる。透真の妹が見つかるのが一番いいが……結局何も分からないということもあり得る」

「……どうして私は沙知の言葉が頭に浮かんだんだろう」


カイはイーラの事を呑気だと言ったが、まったく不安がないわけじゃない。

自分の事が分からないというのは何だか気持が悪い。かと言って本当の事が分かってもそれがいいこととは限らない。もしかしたら知らなくてもいいこともあるのかもしれない。

イーラの不安が分かったのか、アーズはイーラの頭を撫でた。


「イーラがなんであれ、今まで何も問題なかったんだから、今後も何も変わらない。大丈夫だ」


イーラはそれだけで少しホッとする。ピアーズが大丈夫というと本当にそんな気がしてきた。

ピアーズの声は優しくて、それを聞きながらイーラはそのまま眠ってしまった。

翌日、イーラ達は屋敷を出発した。

まずは一気に馬車で国の端まで向かい、馬に乗り換えて森に向かった。

旅は快適に進んだ。

ピアーズはいつも他の州や自分の州を駆け回っているし、透真に関してはいつも旅をしているから慣れているのだ。

他のメンバーも精鋭だからなんの問題もない。

一番旅に慣れていないのは、イーラくらいだった。


「大丈夫かイーラ」


透真が心配そうに聞いてきた。イーラは大丈夫と言うように頷く。しかし、やはり長時間馬に乗っているのは疲れる。

まだ何とかなっているが、連日の移動で疲れはたまっていた。でも、真実を知るためだ。弱音は吐けない。


「疲れたら、言えよ。無理をして動けなくなってしまうと、余計に辛くなるからな」


馬で並走しながら、透真がさらに言った。


「ありがとう。本当に辛くなったら言うよ」


イーラはそう言った。

そうして数日の旅ののち、なんとか限界が来る前に、目的の森に到着した。


「うゎ……凄いね」


一応話には聞いていたが、エルフがいるという森は想像以上に大きかった。

国境近くのあの森なんて比べ物にならないくらい大きな森だ。

そこいらじゅう緑で染まっていて、見たこともないくらい高い木がびっしょりと生えていた。

あまりにも隙間がないので、森の奥が見えないくらいだ。

エルフがどこにいるのか分からないというのも頷ける。地図があっても迷いそうだ。

ただ、ここで一つ問題が発生した。

植物がびっしりと生えているので馬も入れないのだ。


「ここからは、歩くしかないな……」


ピアーズがため息を吐き言った。

そんなわけで一行は、荷物を降ろし徒歩で行くことになった。

ここからはさらに進むのが難しくなりそうだ。大人数で入るのは危険になる、戦える者ばかりじゃない。

だがら、ピアーズとイーラそれから透真だけで進むことにした。

ピアーズと透真は能力も高いし自分の面倒くらいは余裕で見れる。

イーラもそこそこ動ける。

他の兵や使用人は無理に着いてきてもしょうがないということで。森の近くで簡単な拠点を作って待つことになった。

固まって移動するより安全だ。

何かあった時の保険にもなる。

少し休憩してから、イーラは持っていけるだけの食料を荷物をまとめて持つ。


「イーラも残ってていいんだぞ」


ピアーズが荷物をまとめるイーラに言った。森の中はモンスターも多い、歩きとなると体力も使う。


「いえ、大丈夫です。私が行かないと分からないこともあるでしょうし」


エルフを見つけられても、戻って来ることになったら大変だし二度手間になる。イーラはカイと訓練してそれなりに戦えるようにもなっているしそこまで足手まといにはならないはず。

だから、イーラは行くことにしたのだ。

そうして、イーラ達は森に入った。

背も高く密集した木のおかげで、森の中は昼間だというのに夜のように暗い。

魔法で灯りを付けて慎重に進んで行く。


「イーラ、あまり離れないように。後からついて来い」


ピアーズが警戒するように言った。

この暗さではモンスターが出たら戦うのも大変だ。イーラは出来るだけ邪魔にならないように距離を保ちつつピアーズ達に付いて行く。

森は想像以上に深く広かった。それでも、古い資料を参考に進む。

聞いていた通り、危険なモンスターも沢山出た。それこそ、国境あたりにいた厄介なモンスターが当たり前のように出てきた。

ただ、モンスターに関しては思っていたより脅威にならなかった。なにせ元勇者に魔族の四天王がいるのだ。

イーラも援護くらいはできたらと思っていたが、そんな事をする間もなくモンスターはバタバタと倒されていった。


「透真は本当に強いんだね……」


異世界から来たのだから、魔力が強いのは分かっていたが実際に戦っているのを見るとやはり強いんだなと実感する。

そう言うと透真は少し照れた表情になった。


「ありがとう。まあ、そこそこ戦ってきたから。それに、この本のお陰でかなりやりやすくなったから、助かっている」


そう言って透真は、日本語の呪文が書かれている本を取り出した。

そこに書かれている呪文は、透真にとっては慣れ親しんだ言葉だ。すぐに使えるようになった。強力だからこれ以上ないくらい合った魔法なのだ。


「流石だね」

「魔力の効率もいいし、確かに強力なんだけどね……」


透真はそう言って微妙な表情になる。


「なにか問題でもあるの?」

「いや、この呪文が滅茶苦茶中二病っぽくて、言うのが恥ずかしい……」

「ちゅうにびょう?なにそれ」


イーラは首をかしげる。イーラはこの言葉は読めるものの意味はわからないので、よくわからない。


「たぶん簡単に口に出来る言葉だと危険だから小難しい感じにしてるんだと思うけど。これは絶対趣味が入ってるよ。いや、本当に便利で助かってるんだけどね……羞恥心が邪魔をする」


透真は複雑な顔をしていった。イーラはよく分からなかったが、とりあえず気持ち的に抵抗があるには分かった。何もかも都合のいいものなんて、そう簡単にないと言うことか。


「そう言えば、透真にはこちらの言葉ってどんな風に聞こえてるの?」


イーラは疑問に思って、聞いた。翻訳されると言っていたが、聞こえる言葉は透真の言う日本語で聞こえているのだろうか。でも、それだとイーラが日本語で話すとどう聞こえているのだろうか。

透真は考えつつ言った。


「ちょっと説明しずらいんだけど、耳で聞こえるのはこっちの言葉だけど、頭の中で意味に変換されるって感じ。最初は馴れなかったけど、慣れると不自由はないよ」

「なるほど……?」


いまいち想像できなかったが、大分複雑なようだ。


「霧が出てきたな……」


しばらく奥に進んでいくと、ピアーズが言った。

探索は順調にいっていたが、奥に進んで行くごとに視界が悪くなってきた。

暗闇の中さらに霧が出られるとさらに何も見えなくなった。


「方向はこっちで合ってるか?戦っているうちに曖昧になってきたな。なんだか、さっきもここ通ったような……」


透真が汗を拭きながら言った。

そうなのだ、探索だけではく警戒しながら戦うとなると、どんどん進んでいる方向が曖昧になってしまう。


「一度、上に飛んで方向を確認してきましょうか?」


何もしてなかったので、イーラはほうきを取り出しそう提案する。

ほうきは勇者に連れ去られた時、持って行けば良かったと後悔したので持って来ていたのだ。


「ほうきで飛ぶのか?そういえば初めて会った時も乗ってたな……何か、懐かしいな……」


透真が何故かそう言った。


「え?懐かしいって?向こうの世界ではほうきで飛ぶのが普通なの?」

「いや、沙知は昔からほうきで空を飛んで届け物をするアニメが大好きでよく見てたんだよ」

「え?あにめって創作物だっけ?」

「そう。ほうきで飛ぶのはイーラが考えたのか?」

「うん、なんとなく頭に浮かんだの……」


イーラはそう答える、よくわからないがそんなところでも沙知の影響があったようだ。


「そっか……」


透真は懐かしそうにそれだけ言って、目を細めイーラの頭を撫でた。

そんな会話た後、イーラはほうきに乗って一気に森の上に上がる。

森の上は中の暗さが嘘のように明るかった。一応はぐれないようにロープを持って上がったが、下を見ると戻れるか心配になるくらいみっしり緑が生い茂ってた。持ってきて良かった。


「さてと、どっちかな……うん?あれは?」


ぐるりと周りを見回すと、かなり遠くではあるが一際大きな巨木が立っていた。

その木には、明らかに人の手で作られた建物が建っていたのだ。

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