第49話 異生の者たち―言葉の相違は世界の相違である
理性をよりどころにする人間たちは、理性をまったく持たない者たちを異生の者と呼んでいた。そして彼らには理性の代わりに神性でも野性でもない異性があると信じていた。
異生の者たちには「合理的な辻褄」が通じないため、「社会」に組み込めない。理性がないためにこれを根拠に仮設されている「社会的・個人的な権利を持つ存在」としても認めがたい。「別世界にいる、人間ではない生き物」と考えられている。しかし彼らは確かに存在しており、利用価値もあるということで辻褄の規則により、食料、生活必需品の支給、特定職種への就業などが法制度上、重層的に複雑に、辻褄に合わせて作られている。
そうであるから建前上、法制度的には一定、生存権は認められているが、世間では人間的権利がないものとして扱われている。世間ではことさら彼らは理性外生物とされ、そのように扱われていた。
労働できる者はすべて清掃、建築現場の後片付け、障がい者、また高齢者など人間の介助にあたる。働けない者は処分される。辻褄の政策誘導による法的規制、実質的な制限、強制であった。
また彼らは言語を持たない。人間が考えるような言葉を持っていないし使いもしない。口や喉からはなんら音を発することはない。しかし彼らが歩く際の足音、頭を
人間の言葉は理解しないので指図されたとおりに動く。反論も反抗もしない。元来できはしない。しかし異生ものたちの間では足音など様々な音である程度の意思疎通をしているようであった。しかしその音は厳格に定義づけられているわけでも何らかの文法があるわけでもない。また意図して出している音でもない。自然な動作によって偶然生じた音でなんらかのコミュニケーションをとっていると考えられている。そのようなものであるから雰囲気や空気を伝え合う程度のコミュニケーションしか成立しないが、彼らにとってはそれで十分であった。
(つづく)
入れ替わり立ち替わり、変わらない しお部 @nishio240
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