第48話 実存の複数性と異性の者達
私が現にここにいることに間違いはない。それは一回しか経験できないことの連続としての私であろう。そのなかで私は、無意識に様々なものに制限されながらも、行動も思いにおいても自由を行使しているはずだ。
その役割を鏡に映る私であって私ではない私にも与えてみよう。
所詮この鏡に映る私は、私が動くとおりに動作をする。本来、私であって私ではない私のくせに、この私自身と寸分違わぬ動きをする。それでいて紛れもなく私ではあるが、私ではない。その意味で並立、並存する瞬間には差はなくなりどちらの私も元来、なかったことになる。両者はその瞬間、ともに消える。そのときには私との相違など本質まで探ってもあるはずがない。
そこでは所詮、この私も作り物で人工物にすぎない。まったくの別人の私、つまり想像の男や女とも違うし、ネットに情報として整理され意味付けされ拡散し、
「市がこの辺りのアパートや長屋の解体、それに新住宅建設に
「異生の奴らを? 」
弟は少し驚いた様子で「またか」と口には出さないが、そういわんばかりに
俺は市側の今後の計画を市議会議員との会合で知った。行政は経費削減のため、市の公共事業などに異生の者たちを使いたがる。しかし俺たち市民は奴らとの
俯いたまま弟が言う。
「異生の奴らを使えば人件費はほぼかからないものな。市が回収している生ゴミを与えておけば、奴らは喜んでいくらでも働く。税金の節約になれば市民感情としても受け入れられやすいだろうな」
「しかし、最近ではみんな忘れているようだけど、あいつらには理性がない。俺たちとは違うんだ。神性にも
と俺が言うと母が口を開いた。
「あの人たちには理性がないから人権も権利もなにもないのよ。それだけじゃないわ。あの人たちには、理性でもなく野性でもない異性があるのよ。普段の姿を見ればわかるじゃない」
「理性がない」
これは市民としてのみならず人間として決定的な欠陥だった。異性をもつ異生の者たちはこの辻褄の社会の逸脱の具現化そのものであった。社会の破綻の体現者であった。また奴らは我々とは違う言葉を話す。違う言葉を使うということは我々とのコミュニケーションが不可能であることを意味しており、それは違う世界の住人であることをも同時に表していた。
(続く)
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