第37話 聖家族の朝食と覚醒者

 翌日、私が朝食のため二階からキッチンにおりると母が卵を焼いていた。

かおる、お父さんと結婚したんだって。昨夜聞いたわよ」

「そう。そういうことにしたから」

「そうなの」

 母はここ最近の元気のなさにくわえ、さらに落ち込み塞ふさいでいるようだったが、私は構わずテーブルに着いた。

 母は料理を持ってテーブルに座りながら、私と夫をみて言う。

「それ空想とか想像とかじゃなくて現実よね? 薰とお父さんの結婚」

「そう。想像や、空想ならマズイでしょう、本当でなけりゃ。これはお互いの恋愛に基づくものよ」

「それならいいんだけど」

 母は焼いた卵をひとくち口に入れた。まだ私の死に関してふさいでいるのか元気がない。

「お母さん、大丈夫?」

 私が聞いても黙っている。夫が口を挟んだ。

「ほら、薰は知らないかな。三丁目の古いアパートがある辺り、区画整理で立退きになるらしんだ。母さんはそれを気にしててな」

 母が口を開いた。

「あの辺は、ほら、どういうのかな、どっちかというと貧しい人が多いでしょう。教育もないような感じの。ちょっと違う人。その人たちがいなくなることには安心してるのよ。元々、買い物する場所も通る道なんかも、怖いから別にしてるからね。辻褄どおりに整備して排除すればいいと思う。それはいいとして最近、あの辺りにまた不審者が出てるみたいで、警察は「覚醒者」じゃないかって、しかももしかしたら「法定覚醒者」かも知れないって話しでね。少し心配なの」


 ここから歩いて数分のところに安アパートや昔ながらの長屋などが連なる地域がある。その辺りに不審者が出たという噂だ。こんなことはよくある。街の住民や警察は不審者、不審者といって不安にかられ警戒するが、実際のところ何が不審なのかは誰ひとり知らない。その雰囲気だけだ。

 しかし今回は覚醒者の可能性が高いという。覚醒者は社会を混乱させ、私たちの生活も不安定にしてしまう。みながこれを恐れているようだ。

「よく分からないけど、覚醒者だったら大変なことになるかもね」

 私はトーストを頬張りながら言った。

「薰と俺の話ともつながるが、覚醒は想像から起こるものらしい。想像なんて根拠も何もないものは本当に危険だよ」と父が呟くように言った。


 私は実際、そんなことより私の想像に、私自身の鏡の創造に意識を集中させていた。




(つづく)


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