第17話 非理性の感染
父の殺害の件を私が知らなかったことにより裁判まで進んでしまった。そのために本来は必要ないが母と弟と私には、一定期間の薬の処方と講習を受けるという処分が出た。
これも辻褄を合わせるために過ぎないが、母と弟が父を公園の老木にロープを括り付けぶら下げて、遺体を乾かそうとしたことが一応、不自然ということにされた。こういう場合によく処方される「やさしい薬」が三人に処方された。不自然な歪み、逸脱を世間的な辻褄の許容範囲に戻すための薬だ。
講習の内容は大学の講義より単純で簡単なものだった。
自然は理性そのものであり間違いがなく合理的でなによりも分かりやすい。この理性は古くは神性といわれていたものだという。不自然はオカシクて異質で、非理性的であるらしい。
法律や制度などの社会、人間の思考や常識も人工物で、その意味では自然ではなく理性的ではないが、事実や本来の在り方を曲げてでも辻褄が合うように作られているから準理性に分類した上で、個々の事象に合わせて解釈が施されるという。野性は別世界に属す。
何れにせよ辻褄の法廷で裁判官が言ったように人間の世界は辻褄が合っていればいいのだ。
この非理性の感染を薬と教育で抑えなければならないらしい。これが治安だという。
私は母と弟と一緒にこの講習を三回ほど受けることになった。
(つづく)
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