第14話 夜側の取調室にて
三年前の父の死については、なんの前触れもなく公園の老木にロープを括り付けてぶら下がり自殺をしたと母から聞いていたし、当時の警察からもそう聞いていた。そう信じていた。それは弟も同じだろう。それが今になって母が父を殺したという。分からない。
私と弟が同じ警察車両に乗った。弟は緊張しているようで口を聞かなかった。母は先を走る車に乗せられている。警察も車内では何も問うてはこなかった。私たちはただ黙って警察署に運ばれた。
三人がそれぞれ別々に収監されたようだった。
「山本 真輝、別室に移るぞ。そこで少し話しを聞く」
しばらくして警官が私を呼んだ。私は手錠をはめられて部屋を出、まるでドラマで見るような尋問室へと移された。何もかもが初めての出来事であり、私のこの現状の理由も分からない。
「山本慶子、つまりあなたのお母さんは夫の殺害を自供した。お前はそれを知っていたか? 先ずこれを確認する」
「分かりません」
私は混乱したまま、この唐突な質問に答えた。
「分からないとは、どういうことですか?」
「分からない・・・のです」
「知らないということか?」
「母が父を殺した? 知りません。自殺だと当時の警察からも聞いています。なにも分からないのです」
「分からない、知らないか。そんなはずはないだろう? 手伝ったのか、父親殺しを?」
「手伝った? そんなことしてません。なにも分からない・・・」
私はなにも分からないし、殺人に関して知らないという事実しか口に出せない。父は自殺したと思い込んでいた。私は分からないを繰り返さざるを得なかった。
「お母さんと殺害を手伝った弟さんは自供し、母親は殺人、弟さんは殺人幇助で、もう家に帰った。無罪放免だ。あなたはまだ、ここに居てもらう。分からないでは起訴されることになる。本日から裁判まで勾留だ」
警察はなにか書類を見せながらそう言った。
母が殺人、弟がその幇助で無罪放免になり、なにも知らず分からない私が起訴され裁判にかけられる。どういうことだろうか。法律の知識がほとんど無い私でも、この事態のおかしさは分かった。
(つづく)
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