第31話 先輩とリスタート 2



 そっと唇が離れる気配がして目を開ける、けど……。


 ふぁ~~~っ! 先輩とキスしちゃったよっ! やばいやばい!


 あ、もちろんあたし、ファーストキスだよ? 先輩はどうなんだろう……先輩もそうだったらいいな。


 てか、今更だけどあたしすごいな! キスしてくださいて! 約束のキスて! いや、ちゅーしたかったのはマジだけど! とにかくふぁ~~~っ感じっ! ていうか足りないっ! もっとしたいっ!


 っていう狂喜乱舞してる内心は決して出さないように、今にもにやけそうになるけど必死に隠してるあたし。


 だって空気が、この空気でにやぁ~なんてしたらヤバい奴じゃん!


 それにさっきまで悲しかったのは本当だし、超怒ってたのもマジだったのに、たった一回のキスで機嫌が直るチョロインとか先輩に思われたくないし。


 だからあたしは努めて冷静に仏頂面を作ってると。


「……姫野?」


「ひゃっ、ひゃいっ……」


 やばいっ、声裏返っちゃたし噛んだ! あと先輩の顔が見れない! どことなく先輩の顔赤い気がするけど、今みたらあたしも噴火しちゃうし、ふつーに照れくさくて見れない!


「えっと、今のでよかった、のかな?」


 恐る恐るといった感じにそう聞いてくる先輩に。


「いいえ、足りません! もっとしてください! したいしたいしたいっ‼」


 ……な~んて、言えるわけもなく。


「……は、はい。でも、次に約束破ってまたどっか行こうとしたら、もうこんなんじゃ済ませませ——んっ⁉」


 意識して先輩の顔を見ないようにあたしが答えてる最中に横から手が伸びてきたと思ったら先輩のほうにクイッと向かされて……あ、先輩の唇……。


 唐突の二回目のキス。


 しかもさっきはほんの少しだけのそっと触れるようなのだったのに、今度のは割と長めでじんわりと先輩の体温とか柔らかさとか伝わってきて……。


 なに、これ……キスってこんなに気持ちいいの……?


 そんなことを思ってると、フッと先輩の唇が離れた。


「あっ……っ!」


 なんか寂しくなると同時に、それ以上の嬉しさとか恥ずかしさとかが押し寄せてきて、手で顔を覆ってしゃがみこむ。


 こんなんもう、我慢何てできない…………にやけないなんて無理だよ……。


 不意打ちゅーとかダメ絶対。


「……い、今のはなんのキスですか?」


 両手で顔を隠しながら聞けば、先輩も流石に照れくさいのかあたしから背けてた目をちらりと向けてきて。


「何でもないよ、ただ姫野がしてほしそうだったのと俺がもっとしたかったから……だめ、だった?」


「……ダメなんかじゃない、です」


 むしろもっと……って! さっき思ってることと言ってることが違うじゃんっ! ……じゃなくて! 


 そうだった、先輩あたしの考えてること分かるって……てことはあたしがめっちゃちゅーしたいって思ってたの気が付いて⁉ 


 ……恥ずかしすぎる。


 ていうか先輩ももっとしたかったって、それは嬉しすぎる! 


「うぅ……」


 ていうか空気! いつの間にか花が咲き乱れてるみたいになってるけど、さっきまでのシリアス空間はいったいどこに⁉ 


 いやまぁ、こっちの方が全然いいんですけど。


 それよりもこの内からあふれ出る先輩をもっと感じたい気持ちは何だろう? さっきキスもしてもらったのに……性欲? 


 ……いやいやいや、なんかそれは嫌だ。


 う~ん、やっぱあれかな? 先輩がいなくなる夢みたから、その寂しさの裏返しっていうか反動みたいな。


 ならこの身体がうずうずするのって先輩のせいなのでは?


 うん! 絶対そうだよ! それならこれは先輩に責任を取ってあたしを普通に戻してもらわないとだよね!


 そういえば、さっきまであたしはどさくさに紛れて何回か先輩に抱き着いてたけど、先輩からは一回もハグしてくれてなくない?


 ……キスも良いけど抱きしめてほしいなぁ…………。


 そう思ったらもう止められなくて。


「ごほんっ! せ、先輩そこに座ってください」


 先輩の顔を見ないように……だって顔見られたらあたしの思ってること見透かされちゃうから。


 でも言い方はさっきの延長線っぽく、先輩のこと許しはしたけどあたし、まだ怒ってるんです! だから先輩はあたしのご機嫌取りをしなくちゃいけないんですよ! って雰囲気を出しながらベッドの方を指さす。


「ん? なんで?」


「い、いいから! あたしの顔見ようとしないでそっち座ってください!」


 ぐいぐいと先輩をベッドに押しやれば不思議そうにしてた先輩も大人しく腰かけた。


「姫野? 座ったけど」


 ……それじゃあ、ちょっと失礼して。


 努めて先輩の顔を見ないようにしながらあたしは先輩の足の間にちょこんと座る。


 それで先輩の腕を前に持ってくれば……わぁ〜いっ! 特等席だ〜!


 ……ていうかこれやばい、キスはキスでいいんだけど、これは背中いっぱいに先輩を感じられて、意識すれば心音とか聞こえそう……それって、今のあたしのドキドキもバレちゃうのではっ!?


「えーっと、何を……あぁ、なるほど! つまり――」


「あ〜〜っ! わ、わかったなら何も言わないでそうしてください!」


 先輩が何か言う前にあたしが遮る。


 いやだって、ギュッてして欲しかったんだ? なんて言われたらさすがに恥ずか死ぬ!


 そうしてじっと身構えていると、先輩の腕に力が入ってあたしは強く、でも優しくギュッと抱きしめられた。


「〜〜〜っ!!」


 さっきよりも密着度が格段に上がって、想像よりもなんか凄くて。


 恥ずかしいけど、この状態はずっと続けていたい。


 示し合わせたわけじゃないけど、何をするでもなくて数分間お互いに無言の時間が続く。


 でもそれは気まずいとかそんなんじゃなくて、なんだか心地よい、幸せを噛みしめる時間で……。


 手持ち無沙汰なあたしは先輩の手を触ったり、指を搦めたりしながら数分、数十分と経っていって。


「姫野、聞いて欲しいことがある」


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