閑話 2 親友のカレシとユナ親衛隊隊長



 今朝のことだ。


 ユナが一人の男と一緒に通学路を歩いているのを見てしまった。


 やはりミクの情報は正しいよう。予測だったそれはユナ本人に確認したところ本当のことだと確定した。


『姫野っちに恋人ができた兆候あり』


 三日前に届いたそのメッセにウチは心底驚いた。


 なぜならユナの男関係は徹底して管理してるウチが全くノーマーク、というかそんな奴がいたのかって感じの奴だったから。


 それにそもそもユナが恋人を作ったことにも驚きだった。


 ユナはお世辞抜きで可愛い、すごくすごく可愛くて、性格も明るくて面白くて、少しずれてるところもあるけどそれがまた魅力の一つになってて、太陽が東から登って西に沈むくらい当たり前にモテた。


 中等部の時から凄かったけど、高等部に進学して外部生が入ってくると、またブーストがかかったみたいにモテだして、ウチが把握してる限り一日三人に告られてるところも見たことある。


 というかそういうふうにウチが調整した。


 他にも年上年下、他校のイケメン、モデルやってる人、お金持ちのおじさん、スポーツ選手などなど、それはもう選び放題のより取り見取り。


 それでもユナは誰とも付き合うことは無くて、全てバッサリ振っていった。女子に告られたこともあったけど、それも断ってたからそういう趣味でないことも分かる。


 そうしてどこからともなく呼ばれ始めたあだ名が初恋キラー。ユナに初恋して殺られた人が多かったんだろうね。


 だからきっとユナは高校ではもう作るつもりがないとまで思ってたのに。


 ちなみにさっきから管理とか調整とか言ってるけど、ユナには絶対カレシ作らせないぞ! とか、別に変な制限をしてるわけじゃない。


 ただ、とにかくユナは可愛い。そうなれば当然変な連中が寄ってくることもあるわけで……。


 ウチの親友がそんな奴らに穢されるのは我慢ならないから、ユナに気のあるヤツ、告白を考えてるヤツの情報を事前に集め、人柄や性格を判断して問題ないと思ったらそのまま、逆に大問題のヤツはユナに手を出される前に手痛い制裁を与える、ということをしてた。


 あとは日程の管理とかね? ユナだって予定がある日はあるんだから。


 つまりユナを守ってたわけで。


 そんなユナがウチの知らないうちに恋人を作って、しかもその恋人のことを何も知らない。


 でもきっとあのより取り見取りだったユナが選んだ人なんだからきっといい人なんだろう、恋人ができて新たな青春の道を歩き始めたユナを応援しよう、そのうちダブルデートとかも誘ってみたら楽しいかもしれないそう思ってた。


 でも、結局気になってユナが選んだ男子……長谷川陽詩を調べ始めると、無理だった。


 なぜなら、出るわ出るわなんだか訳ありの情報。


 まずは何と言っても昏睡で二年間眠り続けたてたこと。


 しかもウチの学校の学生で先輩、ただ休学扱いになっており、二留で今度からウチのクラスになることもその時に知った。


 二留とか、その時点でヤバい。現実でそんなことなかなかあるはずないし。


 しかもだ、それだけじゃなくて退院のスピードも異常だった。


 二年ぶりの目覚めのはずなのに、リハビリを受けた痕跡もなく、いたって健康で起きたその日のうちに退院したという。


 おかしい……おかしすぎる! 普通は筋肉の衰えとか平衡感覚を正常に戻すのに数週間か数か月かかるはずなのに、それがない。


 倒れた理由も病名もまったくの不明で……もうそんなの理由としてはヤバイクスリとかをやってるとかあとは本当に未だ原因不明の新しい特殊な持病なのかもしれない。


 そしてこんな軽く機密っぽい情報を持ってくるミクもヤバいと思う、プライベートがガバガバすぎる。


 まぁ、ミクのことは置いといて今は長谷川陽詩だ。


 ウチはとりあえず後者の理由を信じることにして、長谷川陽詩が登校する日にユナに相応しいかどうか直接見極めることにした。


 というか見極めるもなにもアウトよアウト!


 だって二留って時点で将来が不安すぎる! ユナの恋人になるなら将来を見越して安心安全安定の三つの安をしっかりできる仕事についてもらわないと! ヤバイクスリやってたら一考する余地もないし、特殊持病ならまたいつ倒れるかわからなくて、もし倒れたらユナは恋人の病気の面倒をみる生活を送らないといけなくなるわけで、そんなんユナが辛すぎるし。


 だからウチは長谷川陽詩の問題を洗い出してユナに別れてもらおうとしたのだけど……当日見た長谷川陽詩は問題を洗い出す必要もないくらい問題だらけだった。


 長谷川陽詩ヤバすぎる!


 まぁ、まずは見た目だけど身長は割と高い方で優男って感じ。荒れてるって感じもなくていつも着崩してるユナとは対照的にきっちりと制服を着てて、顔は特上とまではいかないも結構整ってる方だとは思う。


 ルックスだけなら問題ない、そうルックスだけなら!


 問題は行動にあって……長谷川陽詩、大人しそうな見た目に反して、問題行動のオンパレード。


 最初は話が通じなかった。なんか壊れたロボットみたいに同じことしか言わなくて、けどそれはユナが指示してたことだと分かったけど、でもちょっと空気が読めて無さすぎる。


 そしてスーパーオニリン降臨事件。


 いつの間にか教室の前から後ろに移動してた長谷川陽詩が手をかざしただけで吹き飛ぶカツラ。


 もう、『は?』ってところが多すぎる! 


 なぜ手をかざしただけであんなに離れてたのにカツラが飛ぶのか、というかあの時手からなにか出てた気がする。


 とゆうかそもそもなぜカツラを吹き飛ばした! あんな見え見えの地雷を踏みぬいていくなんて……。


 あの後、逃げたユナにオニリン任されて大変だったのは絶対忘ない! いつかこの貸しは返してもらう!


 でも、こんなのはまだ序の口だった。


 まず、長谷川陽詩に吹き飛ばされた人数が十数人、回数にして二十回くらい? うち八回くらいはキシだけで、こいつはまぁ、何回か長谷川陽詩に噛みついてたから自業自得なところがあるとしても、この回数は異常だと思う。


 そもそも男子高校生をふつーにあんな何メートルも飛ばすなんて、ゴリゴリマッチョマンの変態ならまだしもあんな細身ではおかしすぎるし、投げられた人たちは不思議とケガ一つなくて意味が分からない。


 授業態度だけど、基本は静か大人しく先生の話を聞いているかと思いきや、先生が居眠りをしてる子を起こそうと丸めた教科書で軽くポンッって叩こうとしたのをありえない速さで動いて受け止めていたり、何か考えるようにしていたと思ったらノートも何も書く様子が無く、何もない空中に手をかざしたり、指をはじいたり手を打ったりして、とにかく珍行動が多かった。


 あとは誰かに話しかけられれば、たまによくわからない言葉で話したりして、そのたびにユナが無理矢理な感じに割り込んでいく。


 ユナも、何度も何度もやらかす長谷川陽詩に呆れた様子も見せつつ、苦笑というよりも笑いをこらえるようにしながら毎回しっかりフォローしてあげてて、その様子を見れば決して嫌な思いはしてないようで……というかむしろ、楽し気という感じがして。


 長谷川陽詩とユナのそんな様子をずっと観察してたら、なんだかむしゃくしゃしたウチは長谷川陽詩の机に昼休み屋上に呼び出す手紙を書いて入れてた。


 そうして約束の昼休み。


「それじゃあタイガ、キシ、行くわよ」


「へーい、隊長」


「長谷川陽詩! 貴様が姫と釣り合わないことを思い知らせてやる!」


 そういえば、まだ名乗ってなかったわね。


 この学校にはユナ親衛隊っていうファンクラブが存在する。


 その隊長ことウチは七瀬琴葉。


 ユナの一番の親友で、誰よりも彼女の幸福を願ってる女!


 長谷川陽詩、問題だらけのあんたが本当にユナに相応しいのか確かめさせてもらうわ!



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