第27話 先輩とイツメン 4



 今のはあたしでも先輩がどこにいるかわかる、なんでそんなところにいるかは分からないけど、屋上。


「あ、私も行くっす! こんな面白そうなネタ見逃せないっすもん。姫野っち、あんまり急いで走るとパンツ見えるっすよ~」


 後ろからミクちゃんの声が聞こえてくるけど、今のあたしは止まってる余裕なんてないよ!


 ホントに先輩何やってるのっ⁉ 何やってるのっ⁉ 何やってるのっ⁉


 嬉しいけど! 嬉しいけどさっ! あ、あんな大声でみんなに宣言するみたいに大好きなんて言わなくても……。


 廊下を駆け抜けて階段を駆け上がって、その間にすれ違う人に注目されて、仲いい人なんかは「ラブラブ~!」とか「お幸せに~!」とか茶化されて。


「あああぁぁぁ~~~先輩の馬鹿ぁぁぁ~~~っ‼」


 あたしはもう自棄だった。


 わき目もふらず全力疾走するくらいに。


 そうして屋上に続く扉を蹴破るように開ければ、そこには。


「なんだ、これ……叫ばれただけで……」


「それでも私はみとめ、な……い……(パリンッ)」


「な、な……」


 白目を剥いてぶっ倒れるトラとメガネが割れて気絶するキシくん、尻もちをついて茫然としてるコト。そして。


「これがお前と俺の想いの差だ、もう足りないとは言わせない」


 三人の前に立つ先輩。


 えぇー……何これ! 何でここはこんな少年漫画みたいな展開になってるの! この三人と先輩が屋上にいる状況がまったく読めないんですけど……決闘でもしたの?


 っていうツッコミはとりあえず置いておいて、あたしは先輩に駆け寄る。


「先輩っ!」


「あ、姫野」


「『あ』じゃないですよっ! なんですかさっきの……だ、大好きって叫んだの! 学校中に響いてたんですけどっ!」


「そりゃあ、響かせたんだし」


 いや、そんなサラッと流せるような響きじゃなかったんですけど!


「だからなんでそんなことしたんですかって、しかも例のアレ使いましたよね?」


 例のアレっていうのは魔法のこと。


 声だけであんな建物が震えるなんてことはできないと思うし、あたしが確信してそう聞くと案の定というか先輩は露骨に視線をそらして。


「そ、それは悪いと思ってるけど……出し惜しみしたくは無かったから」


 つまり魔法を使うに足る出来事があったっていうこと?


 頭ごなしに怒るのは違う。こことは違う世界に二十年もいて、いきなりこの世界での普通をやれって言われても無理だから、少なくともあたしにはそんな器用なことできないと思うし。


 自分ができないことを他人に強制するのは違うから。


 ……けど、何事にも限度ってものがあって、さっきのはあきらかそれを超えてた!


 でもまぁ、あんなことしたのか理由があるなら、ここはあたしの優しい母性を持って聞いてあげよう。もうただのおっぱいとは言わせないよっ!


「それじゃあ、どうして大好きって叫んだんです? ……いや、嬉しいけど、流石に恥ずかしさが過ぎるっていうか」


 気分は子供を叱る母親の心境。


「岸優太に俺は姫野に対する気持ちが足りないと言われて。でも、それだけは聞き捨てならなかった……姫野に対する想いだけは誰にも負けられないから」


「……えっ!」


 けど、あたしの母親モードは一瞬で崩れる。


 つまり、先輩はあたしに対する想いでキシくんに馬鹿にされて、それで腹が立って叫んだの? 

 

 そんなのちょっと嬉しすぎる。


 ——なに、それ。


「だから今使えるすべてを使って、俺は姫野が誰よりも大好きなんだと世界に知らしめることにした」


 ——ここに来るまでは何してるのかと咎めようと思ったのに……でも、そんな理由じゃ強く言えないじゃん……。


「だけど、それで姫野に迷惑かけたなら……姫野?」


「……」


 ——もう、先輩って本当に……ばかばかばか………………すきっ♡


 そう思った時、気が付いたらあたしは大きく息を吸ってて。



「あたしだって先輩が大好きだぁぁぁぁーーーっっ‼」



 このあふれ出る気持ちを抑えることができなくて、空に向かって今まで生きてきた中で一番の大声で叫んでた。


「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅー……」


 軽く息を整えてから振り返れば茫然としてる先輩と目が合う。


「~~~っ‼」


 やばい、今更だけどあたし今すごいことしたんじゃ……。


 でもでも、全く持って後悔はない……だって。


「姫野? なにを——」


「だって! あれじゃあ先輩だけがあたしを好きみたいじゃんっ! あたしだって先輩に勝ってるくらいこんなにも先輩のこと大好きなのにっ! そんなのなんかずるい! だからあたしも今、先輩が大好きだって世界に知らしめたんです! これでお相子ですよば~~かっ! はぁ……はぁ……はぁ……」


 顔がカァッ! って熱くなって、頭もなんかフラフラしてきて、呼吸も乱れてて、もうなんか「あああぁぁぁぁ~~!」って感じだから、今なにか先輩に言われたらきっとあたしは倒れちゃう。


 だから、先輩がなにか言う前に早口に、矢継ぎ早にもう自分でも何言ってるのか分からないけどあふれ出る感情のままに言った。


 それなのにあたしと同じくらい赤い顔をした先輩はなぜかあたしに近づいてきて目の前に立つと。


「それは聞き捨てならない」


「……なんですか」


「たとえ姫野であっても俺が姫野に対する想いで負けることはない、姫野が俺のことを好きと想ってくれていることよりも俺が姫野のことを好きだという想いの方が強い」


「~~~っ⁉ あぅ……」


 ふらついて倒れそうになるのを足を後ろに引いてギリギリ耐える……。


 だって、ここで負けてはいけない! あたしにだって譲れないものがあるんだから、いくら恥ずかしくたって言い返さなきゃっ!


「そ、そんなことないです~っ! なんてったって、二年間ですから! 二年間ず~~っと、先輩のお見舞いしてたんですからあたしの方が好きに決まってます!」


「それなら俺は二十年間だからね? やっぱり俺の方が好きだと思うけど?」


 そうだった、時間じゃ先輩に勝てないじゃんっ!


 く、くぅ~っ! 先輩だって顔真っ赤なくせにっ! そんなすました感じに言って!


「うるさいですっ! と・に・か・く! あたしの方が先輩のこと大好きなんですっ!」


「いいや、これだけは譲れない。俺の方が大好きだ」


 なんですかなんですかっ! ショッピングモールでの再戦でもするんですかっ!


 いいですよ、望むところっ!


「ふんっ、それならあたしは大大大好きです! はいっ、あたしの勝ちーっ!」


「それなら、俺は——」


 お互い顔を真っ赤にしながらキリキリとにらみ合って、しかし先輩がまた言い返そうとしたのは横からコトの声で遮られた。


「あんたたちがラブいのは分かったけどさ、周りの様子見て見たら?」


「「え?」」


 そういえばここ、屋上だったっけ?


 ……それすなわち、ここには遮蔽物が無いわけで……つまり丸見え。


 コトに言われて周りを見て見れば、ちょうどこの屋上が見える校舎の窓にはたくさんの生徒たちがいて。


「きゃ~~っ! ユナちゃんかわいい~~っ!」「結婚式には呼んでよね~っ!」「うおおぉぉーー俺も恋してぇっ!」「お前もあそこで叫んで来いよ、きっとあんな風にラブラブになれるぜ」「せ~~のっ——」



「「「「「末永くお幸せに~~っ!」」」」」」



 なんかすっごい生暖かい目で見られてて、誰かが始めた拍手が伝播して全員にパチパチされてた。


「えっ……え? あっ——」


 その時、目の前が真っ暗になった。フラッとした身体を支えようとしたけれど身体に力が入らなくなる感覚がしてそれは叶わなくて。


「姫野っ⁉」


「あ~、これ完全に羞恥にやられてるわね。恥ずかしさの限界迎えて倒れるとか……ユナやば」


 近くで誰かが話してる声が聞こえる……コトの声と、先輩かな? あ~でも、今は考えられない、ギュッと今抱き留めてくれてるのが妙に心地よくて、このまま身を預けたい。


 そうしてあたしは意識がだんだん遠くなるのに逆らわず、その心地よさにフッと身を委ねた。




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