第23話 先輩と担任の先生 2




 思わず頭に響く先輩の声にピクリと反応したあたしにオニリンが目を向けて来たから、何でもないですよ~? って感じに笑顔でやり過ごしてあたしは先輩がなにかやってるのだと確信する。


 それで案の定……。


(あ、そっか……これは『テレパシー』っていって声を出さずに会話をする魔法。伝えたいことを思い浮かべてみて?)


 伝えたいことを思い浮かべる……こうかな?


(先輩? 魔法はダメって)


(うっ……でも、ほらこれはバレてないし……)


 まぁ、確かにバレなきゃって言ったけど……。


(まぁ、いいです。なんかこれ便利そうですし。で、どうしたんですか?)


 便利そうって思ったのはホント。


 ……ただ、先輩の声が脳に直接響く感じがしてとろけそうになるっていうか、長くやってるとあたしがおかしくなっちゃいそう……だけど、やめたくない……なにこのアブナイ感じ!


(この話いつまで続くの? ていうかこの人、何をこんなに怒って……呪いじゃないのにカツラ飛ばしたくらいで人が変わりすぎじゃないかな?)


(……先輩、今更ですか)


 まぁ、いっか。丁度いいし先輩にヒカリンのことを知ってもらおう。


(いいですか? この先生は普段は優しくて温厚ですけど、ある禁忌を犯すと鬼になります。それがカツラを指摘すること、名前を文字ってハゲヤマって呼ぶこと、ましてや先輩がやったカツラを飛ばすなんて禁忌も禁忌です)


(なんでそんな………あぁー、なるほど)


「あっ! 先輩、だめっ!」


 オニリンを沈める儀式中には一つのルールがある——それは『上を見ないこと』。


 だけど、それを説明する前に先輩は上を見てしまった……。


「これからは勉学に運動、行事にも意欲的に取り組んでより良い学生生活を——キィィィィーッ‼ こやつ、私の顔を見ずっ……クッ、クゥゥゥッ! 人と話すときは人の顔を見るのだっ! 私の頭をそんなっ……そんなシゲシゲと見るとは何事かっ! 顔を見ろっ! この私の顔をっ‼」


 ……いや、分かるよ。


 その不在証明完璧な前髪とハゲ散らかった薄い頭頂部の果てなき荒野、それが本名のヒカルの名のもとに脂っぽく光り輝いているものだから、嫌でも先生の頭部に目が行くもん。


 だから上を見ないことっていうルールがあるわけで。


「いや、すまんつい……なんだか同じ男として可哀——」


「あぁぁぁぁっ! 虫がっ! 虫がいたんですよね先輩っ!」


 も、もうっ! 先輩、それ以上余計なことはっ! そんなの、あのハゲに余計な脂を注ぐことになるだけで……。


「キァァァァーッ‼ ヒェィィィィィメェェェェノォォォォォーーッ‼ そぉぉぉんなので私が騙されるっと思ったかぁぁぁぁっ! それにどこを見ているぅぅぅぅぅぅっ‼」


 やっば! あたしにまで飛び火したっ! 


 でもでも、仕方ないじゃん! あたしも上向いちゃったんだし、そうなればもう先生の頭にしか視線が行かなくなるのは世の理みたいなもので……。



「キェェェェェェェェェーーーーッッ‼」



 ……えぇ、こんな怒りゲージフルマックスのオニリン初めて見た。


 これもう気合で髪の毛生えるんじゃない? ていうか、そのうち金髪になりそう、スーパーサ○ヤ人みたいに。


(いや、どちらかというとフ○ーザじゃないかな?)


「——ぷっ! あっ……」


「私の頭を見て笑ったぬぁぁぁぁぁぁっ‼ 許さん許さん許っっさぁぁぁぁぁんっ‼」


 ……ダメだこれ。


 もうオニリンが収まる気がしない。顔を真っ赤にして額に血管が浮かんで今にも飛び掛かってきそうなこんなオニリン初めて見たし。


 かくなる上は——。


「先輩、逃げますよ! コトっ! あとは頼んだっ!」


「はぁっ⁉ あ、ちょっ! ユナっ⁉」


 コトの声は無視してあたしは先輩の手を取って、すたこらさっさと教室を後にする。


「姫野、別に逃げなくても撃退できるけど……」


「ダメですよ! 悪いのはあたしたちなんですから、大人しくあたしと逃げますよ!」


 後ろからオニリンの叫び声とコトの必死な声が聞こえてきて……ありがとうコト! やっぱり持つべきものは大親友だよ!


 そんなことを思いながら先輩の手を引っ張って廊下を走り旧校舎に。


 それからあたしと先輩は誰も来ないだろう空き教室にやってきた。


「確か一時間目はオニリンの英語だったはずですし、ほとぼりが冷めるまではここにいましょっか」


「そうだね、わかった」


 そう言って近くにあった椅子に座ろうとする先輩を見てると。


「……ふふっ」


「姫野?」


「いやー、何ていうかさっきまでのこと思い出すと笑えてきちゃって」


 あたしにカレシがいるとわかったクラスが大騒ぎになるし、先輩が変な誤解されて、それが解けたと思えば先輩の奇行でオニリンが降臨して、それが今までに見たことないほどの怒りゲージマックスになって……。


 確かに異世界帰りの先輩が何事もなく学校生活を送れるとははなから思っては無かったけど、今日は先輩が学校に再登校する初日なのに、しかもまだ朝のホームルームが始まる前でそれって……。


「……いやー、大変ですね学校生活も」


「そうかな? これより危機的な状況なんていくらでもあったし、命に関わらない時点でそう大したことないでしょ」


「命に関わることなんか学校であったらたまったもんじゃないですよ! ていうか先輩、いきなり授業さぼってるんですからヤバい奴認定確実です……まぁ、先輩とこうしてさぼってるあたしもですけど……って先輩?」


 いきなり先輩が立ち上がったと思ったらなぜか申し訳なさそうしてて。


「すまない。俺のせいで姫野に迷惑を……」


 突然頭を下げた先輩に戸惑うとともにちょっと呆れる。


 律儀っていうかなんというか気にしなくていいのに。まぁ、こういうところも先輩のいいところだとは思うけど。


「謝らないでください先輩、さっきも言ったけどこんなのは当たり前のことですから。それに、たまにはこうして授業をさぼるのも悪くないですよ! 今は先輩と二人きり、です……し……」


 ……あれ? 今のこの状況、よくよく考えたら……先輩と二人きりの教室、今は一時間目の最中で誰かが来るなんてことは無くて……つまり、だから。


 ——って! 何考えてるのあたし! そんなことあるわけないじゃん! 漫画の読みすぎかっ!


「姫野? 大丈夫?」


「だ、だだ大丈夫ですっ!」


「でも、顔が真っ赤で……」


「あ、熱いだけですからっ! ……き、気にしないでください!」


 先輩が心配そうにあたしの顔ののぞきこんでくるものだから、その近さにますます顔が熱くなってきて……。


 くぅ……なんで先輩はそんな余裕そうで…‥まさか慣れてるとか? それともただピュアなだけ? ……もしかしてあたしが結構ませてる可能性も。


 そんな感じに、一時間目が終わって教室から出るまで落ち着かないあたしでした。


 ちなみにクラスに戻った先輩はみんからヤバい奴認定されていたのは言うまでもないこと。




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