第22話 先輩と担任の先生


 唐突だけど少し説明を。


 あたしたちの学校には去年、先輩が眠ってる間に三人の新しい教師が赴任してきた。


 その三人はなんていうか、もう個性の塊みたいな三人で、赴任一日目で瞬く間に高等部に三人の話が広がり、三日目には当時のあたしの耳にも入ってきて、それすなわち中等部に広がり、一週間で隣町の学校まで知らない人はいないくらいの有名人になった……変わり者の変人教師として。


 まぁ、なんでいきなりこんな説明をしたのかというと……実はそのうちの一人があたしたちのクラスの担任だったりする。


 名前は畠山光はけやまひかる先生、四十後半くらいのベテランな感じの教師。生徒たちには”ヒカリン”の愛称で呼ばれてる英語の先生。


 別に先輩に説明を忘れたわけじゃないんだよ? クラスのことでごたごたしてたから言う機会が無かったのと、ヒカリンは三人の中でも一番マシで、その地雷は丸見えだから先輩も踏むことは無いだろうって思ってたから。


 だけど、先輩はその地雷をぶち抜いてくれた……文字通りに。


「あ、長谷川陽詩くんだったかな~? 長谷川くんはこっちに来るように~……って、長谷川くん?」


 先生に呼ばれた先輩はなぜか教室の後ろにいて……あれ? いつの間にあんな後ろに? しかもなんかヒカリンをすごい警戒するように睨んでる。


「貴様、なぜ俺の名前を知ってる? 貴様に名乗った覚えはないが」


 先輩の雰囲気がどこかいつもと違くて、あたしもクラスのみんなも何が起きてるのかわからずに動けないでいた。


「え、え~っと、とりあえずこっちに——」


「しかもその頭、いったい何を隠してる?」


「…………」


「話すつもりはないか、なら——」


 先輩は冷たい目でまっすぐ手をかざして。


 ——ヤバい!


「先輩ストーップ!」


 咄嗟に叫んだあたしだけど、先輩の方が早かった。


「『ショット』」


 一瞬、先輩の手から放たれた何かが過ぎ去るのと同時に、舞うヒカリンの


 油断なくヒカリンを見据える先輩と、顔を俯かせて肩を震わせてるヒカリンと、状況についていけないクラスメイトと、何が起きたのか理解して頭を抱えるあたし。


 ……あちゃ~。


「見たところ、何かあるようには見えないか……いや……」


 そのまま再び手をかざそうとする先輩を今度こそあたしは全力で止めた。


「先輩っ! 何してるんですか⁉」


「姫野、奴は名乗った覚えが無いに俺の名を知っていた。真名を見ず知らずの人間に知られてるのは危険だ。そして、あのカツラだ。カツラとは何かを隠すときに使われることが多い。暗器、隠喩魔法、身分、年齢……だから暗殺者の必須道具だ。敵対の可能性がある以上用心するものだろう」


 そんなことをヒカリンから視線を逸らすことなくキリリと言う先輩。たぶんそれは異世界では当たり前のことなんだろう。


 普段と雰囲気が違って、なんだか引き締まった空気を纏う先輩はどこか怖い……けど、それがかっこよくもあって……。


 じゃなくて!


「先輩! ヒカリンは担任の先生ですから! 事前に先輩の名前知ってて当然で、危険も何もないですよ! それとカツラはそんな物騒なモノを隠すんじゃなくてハゲを隠すものです!」


「……担任の先生? ……あぁ」


 そういえばそんなのもいたって感じに直ぐに分かってくれて手を降ろしてくれたのはいいんだけど。


「お、おいっ! 今あいつ何をした?」


「動きが全く見えなかったよ⁉」


「それよりみんな早く耳を塞いで!」


「ヒカリンのカツラが飛んでる! ”オニリン”が来るぞ!」


 何が起きたのか状況に追いついてきたクラスメイトたちが一斉に耳を塞いで。


 そして、やってきた……ヒカリンの本当の顔、髪を求める亡者の鬼……誰かが言った”オニリン”が。



「キィィィィサァァァァムァァァァーッ‼ ゼェェェッタイニユルサァァァァンッ‼」



 ギイイィィィン! って、響くような声に鬼よりも鬼らしくておっそろしい形相。


 これがヒカリンが変人教師として有名になった理由。


 普段はとても温厚で話し方も緩い感じの先生だけど、その頭皮のことを指摘されると人が変わったようになって、それはもうヤバい感じになる。


 しかも普段つけてるカツラがいい感じにずれてて、もう笑わないようにするのが大変なのがなんとも理不尽な先生。


「……ついに本性を現したか」


 と、そんなオニリンに対面した先輩はまたまた手をかざそうとして。


「だあぁぁ! 先輩ダメです! これ以上は!」


「だけどさっきと違いすぎない? 今の奴はまさにオーガも見て逃げ出すような顔してるよ? きっとあのカツラがトリガーに呪いとかがかけられてて……」


「そんなことないですから! あれがあの人のデフォルトなんです! ほら、謝りに行きますよ! あたしも一緒にごめんなさいしてあげますから、今はあのオニリンを沈めないと」


 ドナドナと先輩の背中を押してオニリンの前に連れてってあたしも一緒に謝る。


「先生、すみません! 先輩はまだ今日が久しぶりの登校だから許してあげてください……ほら先輩も!」


「あ、あぁ……悪かった」


「ふ、ふんっ! 確かにな、長谷川は二年ぶりだから仕方ないこともあろう。が、人のか……カツラを剥ぎ取るとは失礼極まり無いではないかっ! 今日は私であったからよかったものの、これから社会に出た時に——」


 先輩の謝罪はちょっとぶっきらぼうな感じがしたからダメだったかなって思ったけど、そんなことはなくてオニリンの長い長いお説教が始まった。


 でもこれでいい、オニリンを沈めるにはこうやって誠心誠意謝って、長い説教という名の儀式を経て最後にオニリンがカツラを被り直すことでヒカリンに戻るから。


 だからこの長いなが~いお説教は通過儀礼だと思って——。


(姫野、この話いつまで続くの?)


「ふぁっ⁉」


 えっ⁉ 今とつぜん頭の中に先輩の声が……。


「どうした、姫野」


「あっ、いえ! 何でもないであります!」


「ふん、しっかり聞きなさい。そもそもだ、最近の若者は年上に対する礼儀というものが——」


 何だったんだろう? オニリンの説教が退屈すぎて先輩の幻聴が聞こえたとか? それもうあたしかなり重症なんじゃ……。


(姫野、聞こえてる?)


「……っ⁉」


 いや、やっぱり幻聴じゃない! 聞こえる! なんか先輩の声が頭に響いてくる!


 一体先輩なにしてるんですか⁉


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