第21話 先輩とクラスメイト 3


 そんなことを思ってる間に先輩はゆっくりと教壇の上に立つと、目を細めながら教室をクルリと見回して呟いた。


「……うーん、なんだかすっごい懐かしい気がするね」


 ですよね~、二十年ぶりですもんね……。


 って、ほっこりしたのはあたしだけのようで、またクラスメイト達のヒソヒソ話が聞こえてくる。


「(…………しゃべったっ⁉)」


「(なんか少年院帰りみたいなこと言ってるぞ⁉)」


「(えっ、入院ってそういうことなの⁉)」


「(さっき子供いるとか言ってたし、もしや姫野さんを無理やり孕ませて……とか)」


 あ~~~もう! 孕ませられてないからっ! あんたらなんちゅー誤解を!


 ほら、コトとなんてすっごい険しい目でこっち見ちゃってるじゃん!


 てか最初の人の感想なにっ⁉ 先輩は宇宙人かなにかかっ!


 って、ツッコミたくなるのを我慢して、未だにキョロキョロと教室を見渡してる先輩を軽く小突いて、ごめんなさいだけど余計なこと言うな! って、合図を送る。


 先輩はポロっと感想が出ちゃっただけだろうけど、今の先輩の印象だとそれがおかしなことになりかねない。


 それから深呼吸を一つして。


 まずはなんか気まずいこの雰囲気を……。


「ごほんっ! えーっと、みんな注目して下さーい! ……って、もうみんなしてるか! あはははは!」


「それな、マジウケる」


 ……ん? んん? なんか今先輩から変な合いの手が入ったような……まぁ、いいかとりあえず先輩の紹介を。


「みんなも昨日のミクちゃんのメッセで知ってると思うけど、今日からこのクラスに入ることになった先輩……長谷川陽詩くん? まぁ、彼はちょっと訳ありで、事故みたいなもので二年間昏睡で入院してて、最近に目が覚めたって感じ! もう、先輩はお寝坊さんなんですから~!」


「それな、マジウケる」


「あ、はは……」


 ……これは、やばい。……空気が、重い。……場の沈黙が。


「(先輩! もうちょっと明るく言ってください! マジでヤバい奴に聞こえますから!)」


 あたしがこそっと懇願するように伝えると、少し考えたそぶりを見せた先輩は。


「それな~」


「……」


 ……いやまぁ、確かにさっきよりは明るくなったけども……。


 とりあえず、先輩が無害な説明を。


「えっとね、二年間昏睡してたって言っても別にアブナイクスリとかやってたわけじゃなくて、本当に事故っていうか……あ、もちろん何か犯罪してたってわけでもないからね? 次そんなこと言ったらキレるから」


「それな~、マジ——むぐっ」


 だめだっ! 相槌打つだけでも先輩しゃべらせたらまずいっ!


 先輩の口を押えながら、さっきそんなこと言ってたやつらを睨みつければコクコクと必死に頷いてて……そんな怯えなくてもいいのに。


「あ、それとさっき話してたあたしのカレシが先輩なのも本当。それは別に騙されてとかそんなんじゃないし、むしろあたしから告ったまである。あたしは好きで先輩のカノジョになったの、だから勝手なこと言わないで」


「「「…………」」」


 また教室にさっきとは違う沈黙が流れて気まずさを感じる。


 先輩もちょっと驚いたようにあたしのこと見てるし、自分でも思ったよりムキになってたことに驚いてる。


 ホントはもうちょっと和やかに行くつもりだったんだけどなぁ……なんか今日は調子狂う。


「……あ、あ~。まぁ、とにかくせっかく同じクラスになったんだし、あたし的には仲良くして欲しいなって。先輩、二年ぶりの学校だから変な行動とっちゃうかもしれないけど、そういうのも暖かく見守ってほしいっていうか……」


 最後のほうはもう自分でも何を伝えたかったのか分からなかったけど、でもなんとなくあたしが言いたいことはみんな分かってくれたようで。


「まぁ、ユナちゃん本人がそういうなら」


「そうだな、まだ俺あの人のことよく知らねーし」


「よろしくなー!」


 って感じになって一安心って感じ。


 うんうん、とりあえず先輩の第一印象はともかく悪感情的っていうか変な誤解は解けたかな?


 まだいくつか先輩に好奇な視線が向けられてる気がするけど、でもそれはさっきと違ってマイナスな感じじゃないような気がした。


 あたしがよかったーって思ってると、先輩がフッと近づいた気配がして。


「姫野、ありがとう」


「いえいえ! こんなの当たり前ですよ! だってあたし、先輩のカノジョですもん」


 だからこんなことお礼を言われることじゃないでーすって先輩にはにかむように笑いかければ。


「………っ!」


 お……お? ほんとにあたし、当たり前のことを当たり前に言っただけなのに、なんか先輩照れてない?


 顔赤いし、左手で顔を覆うようにして隠してるし。


 むふー! やったね!


 先輩にめっちゃ照れさせられることはあるけど、先輩のことをあたしが照れさせることはあんまりないから、なんだかちょっと新鮮――。


「(姫野がカノジョでよかった)」


「にゃっ!?」


 先輩の言葉に思わず変な声がでちゃって……てか、みんながいるから隠れてコソッと言う感じにグッときたてゆーか。


 ……んん? これは、再戦ですか? ショップの時の悶絶試合の続きですか?


 ならば望むところ!


 って感じに先輩と見つめあってると。


「――ごほんっ! あー、アツアツのところ悪いけど……」


 どこかご機嫌ななめ? ていうか、仏頂面のコトが咳払いしてきて。


 あ、そうだ今ここにはクラスメイトのみんないるんだった! 危ない危ない。


「長谷川陽詩……先輩……? あー、もうややこしいわね。年上なのに同じクラスって……」


「うんうん! わかるわかる」


「はぁ?」


「――あぁーっと! コトもふつーに先輩でいいんじゃないかな? ね、先輩? 」


「それな〜、まじウケる〜」


「……先輩、もう普通に話しても大丈夫ですよ!」


「それ――ん? そうなの? わかった」


「……………ふっ、ふふ……あははは! もう、先輩面白い!」


 あたしが言っといてなんだけど、先輩が『まじウケる』とか! それこそ、まじウケるって感じ!


 しかも、絶対に会話おかしくなりそうなのに律儀に守る先輩ね! 正直笑いこらえるのキツかった!


 そんなあたしにまだ先輩を警戒するような視線を向けてるコトが近寄ってきて。


「ちょ、ちょっとユナ。この人ホントに大丈夫なの? なんか話通じないんだけど」


「大丈夫大丈夫、先輩はいい人だよ? 話通じないのはいつも通りだし」


 普段から魔法とかの話するときの先輩はちょっと何言ってるのかわからないしね。


「まぁ、コトと先輩は今日が初対面だし、これからお互いのこと知ってくれればコトも先輩が悪い人じゃないって分かるよ」


 だからそんなに警戒しなくても大丈夫だよって意味をこめてそう言ったんだけど。


「どうだかね……大体——」



「は~い、みんなおはよう」



 と、コトが先輩に詰め寄ろうとしたとき教室のドアが開いて担任の先生がやってきた。


「——長谷川陽詩、後で話があるから覚えておきなさいよ」


 そう言って先輩をキッと睨んでコトは自分の席に戻ってく。


「あー、先輩? コトは昔からあたしのことになると過保護になるっていうか、今のは先輩が悪いわけじゃないんで気にしないでくださいね?」


「大丈夫、気にしてないよ」


「姫野も席につけ~」


 あっと、いけないいけない、先生に注意されちゃった。


「はーい! それじゃあ、あたしは席に戻りますねっ」


 先輩に声をかけて自分の席に戻るんだけど……この時の行動をあたしは直ぐに後悔することになる。


 忘れていたのだ、このクラスには地雷が……大きな大きな地雷があったのを。



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