第20話 先輩とクラスメイト 2



 そう言って立ち上がったのはメモ帳をいつも持ち歩いてる女子、名前は遠藤美玖えんどうみくちゃん。通称、情報屋。本当にいったいどうやって知ったのかいろんなことを知ってて、昨日のクラスグルで先輩が来ることをメッセしたのもこの子。


 あたしもたまに知りたいことがある時にお世話になることがあるけど……今はなんか悪い予感しかしないなぁ……。


「そうだ! お前なら何か知ってることとかあるんじゃないか?」


「はいっす! もちろん知ってるっすよ!」


「おおっ! なら!」


 みんなの期待がミクちゃんに一身に集まる中、なぜかミクちゃんはコトに目配せして……。


 ……え、なんであたしじゃなくてコト? てか、今の思わせぶりなのなに⁉ 


 というか、先輩のこと誰にも話してないはずなんだけど……。


「ユナっちのカレシはずばり今日からこのクラスになる長谷川陽詩っす!」


「……っ⁉」


 当たりも当たり大当たりすぎて思わず声が出なくなった。


「ハセガワヒナタ? 知ってるか?」


「いや、聞いたことないけど」


「てか、今日からこのクラスって言ってなかったか?」


「それって、昨日グルで話してた入院で二留してたって言う?」


「入院って……何か病気?」


「さぁ? でもユナちゃんそんな人と付き合ってるって大丈夫なのかな」


「これは、今日は会議だな……」


 なんか、あたしがミクちゃんの情報収集力に驚き恐れおののいてる間にクラスの話題は『あたしのカレシ』から『先輩』のことになっていって。


 これなら、ひとまず先輩がまともに自己紹介が出きれば第一印象は問題ないかな? ……いや、先輩にまともな自己紹介できるかな? 流石に自己紹介くらいは……って思ってると。


 この空気を作り出したミクちゃんがまたしても爆弾発言を投入してくれた。



「で、ユナっちに聞きたいことがあるんっすが……結婚してるってまじっすか?」



「いや、そんな話したのさっきなのに何で知って……ていうか、まだしてないしっ! ……はっ⁉」


 それに思わずツッコんじゃって、すぐにやらかしたことに気づいた。


 いやだって、さっきの流れからいうとこんなの……。


「はぁ⁉ ちょっと、ミク! ウチそんなこと聞いてないんだけど⁉」


 案の情というか、コトがミクちゃんに詰め寄ったのをきっかけに、またしても『あたしのカレシ』についての話題に変わって。


「まだ不確定要素が多かったっすからね。でも、今の感じは結構アリな感じ……あ、もう子供もいるってまじっすか?」


「ブフゥッ⁉」


 これにはもう、流石のあたしも話の飛躍が過ぎて噴き出しちゃった。


「いやいやいやいやいや! んなわけっ! てか、そんなのどこ情報⁉」


「あ、これは私の予測っす。一昨日、ショッピングモールに行った時、ユナっちとハセガワヒナタが間に子供を入れて手を繋ぎながら歩いてたんでもしやと……いやー、あの時のユナっちは何ていうか母性というか、おっぱいって感じがしたっす!」


 ショッピングモールで先輩と間に子供? それってサキちゃんと歩いてた時じゃ……見られたてたの? 


 ていうかミクちゃんもおっぱいて! あたしの母性はおっぱいしかないのかっ!


「ユナ……あんたまさか本当に……?」


「違うから! ち・が・う・か・ら! あーもー、なんでこんなことに……」


 これはちょっと失敗したかな……先輩とのことを話すのはまだ早かったかもしれない。


 教室ではもう先輩について憶測が憶測を産んでどんどんおかしな方向になってくし、これじゃあもうあたしが本当のこと言ってもみんな聞き流しちゃう。


 さーて、どうしたもんかなーってあたしが頭を抱えてると……まだこの事態が収拾していないのに、ついに来てしまった。


 今世紀最大の爆弾。


 すなわち先輩が。


 ちょうど先輩はドアを開けて教室に入ってこようとしてるとこで。


 ガラガラと音がなった瞬間、みんなが一斉におしゃべりを止めてそっちを振り向いて、そのままガン見。


 うわーお、みんな息ぴったり……。


 そして謎の沈黙。


 先輩は先輩でそんなクラスメイト達を気にした風もなく見返してるし。


 それであたしを見つけると微笑んでくれて……なんだか今はそれがすっごい癒される。


 じゃなくて! 今は先輩がなにか言おうものならいったいどんな大爆発が起こるかわかったもんじゃない!


 我に返ったあたしはみんなの視線を浴びつつも先輩にダッシュで近づいて今の状況を伝えることにする。


「(先輩、すみません。あたしちょっとやらかしちゃいまして)」


 小さな声でコソッと伝えると先輩も空気を読んでくれたのか同じように返してくれた。


「(そうなの? まぁ、確かになんか見られてるけど)」


「(すみません、あたしが不用意なことしちゃったせいで、先輩いまヤバい奴って思われちゃってまして……)」


「(へぇー、そうなんだ)」


 そうなんだって、そんな他人事みたいに……先輩のことなんですよー?


「(……とりあえずいいですか? 先輩は不用意なことは言わないでください。異世界のこととかは絶対タブーです! そうですね、あたしが基本しゃべるんで先輩はあたしが何か言ったら『それな! マジウケる!』ってノリ良く合わせてください。それで向こうの話には『うんうん! 分かる分かる!』ってとにかく余計なことは言わずに相槌だけを打つ感じで)」


 あたしはちょっと早口気味に先輩にやって欲しいことを伝える。


 こうなったらもうあたしが話を誘導していくしかない! 


 その為には先輩にいつものように来られると……あたしが再起不能になって困る!


「(『それな! マジウケる!』と、『うんうん! 分かる分かる!』ね、わかった)」


 コクリと頷く先輩に一末の不安を覚えるけど……まぁ、大丈夫。


 たぶんそれだけ言ってればなんとかなる……はず? 


 ……やばい、自身無くなってきた。


「(先輩、とりあえず教壇の方に行きましょう)」


 でも、もうここは勢いでなんとかするしかない!


 先輩を教壇の方に誘導しながら移動してる間、クラスメイトたちもこそこそと話してて。


「(……あの人がハセガワヒナタ?)」


「(なんか思ってたのと違う? 意外とかっこいいし、結構優しそう)」


 おっ! うんうん、君! 先輩のこと分かってるね!


「(ばっか! 油断すんじゃねぇ! あの顔の裏に何があるか分かったもんじゃないぞ)」


「(そうそう、その優しさに姫野さんが騙されてる可能性だって……)」


 ……あなたたちとは後で『O・HA・NA・SI』しましょうね!


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