第19話 先輩とクラスメイト



 ……いやいやいやいや、やっぱおかしいよね?


 なんか先輩のことヒナタって呼び捨てにしてたし、先輩も普通に行っちゃったし、なんていうか親しげ? な感じがした。


「でも、確かあの子がこの学校に来たのって……え、先輩とどういう関係?」


 そんな風に困惑していると。


「ユナ〜! おっは〜!」


 先輩の向かった方を見てポカーンとあほ面して固まってたあたしに後ろから抱きついてきた人がいた。


「うひゃっ!? って、コトか〜、おはよ〜」


 あたしの親友で幼稚園からの腐れ縁の七瀬琴葉ななせことは


 家も結構近くに住んでて、親同士も仲がいいからよく一緒に旅行とかも行くことがあってなんというかあたしとコトは姉妹って感じ。


「うひゃって何その声ウケる! こんなとこでボーっとしてどうしたのさ? 早くしないとチャイムなるよ?」


「な、何でもない何でもない! あ、ほんとだ! 行こっ!」


 ちょっと心配かけちゃったかなって思ったからいつも通りの感じに声を出して、昇降口で上履きに履き替えてあたしたちは同じクラスでいつも通りに一緒に教室に入って、自分の席に着く。


 コトの席はあたしの一つ前の席だから、その後は一時間目の授業の準備をして後ろを向いたコトと駄弁るのがあたしの日常なんだけど……いつも通りなのはここまでだった。


「てかさーユナ、さっきの人だれ~?」


「えっ」


「一緒に来てたでしょー? ユナすっごい笑顔? というかにやけてたし、でもウチあんな人見たことないし」


「……」


 あたしはコトの言葉に固まる。


 うぅ……そっか、あれふつーに見られてたんだ……しかもにやけてたって……あたしに全然余裕が無くて周りを気にしてなかった。


 先輩のことは何ていうか誰にも話したくなかったから二年前からコトにも話してなかったりする。


 さっきの人ってどう考えても先輩のことだよね、というか今のあたしの反応でカンのいいコトならある程度察してるはず。


 ……それでも、何とかごまかすことはできると思う。


 そういうことは得意だったりするから。


 でもそれは先輩に対して失礼な気がしたし、コトにはごまかしたくないっていうか先輩との関係も変わったし、知っておいて欲しい気もした。


 だから……。


「……まぁ、なんというか…………カレシ、かな」


 だけど、いざ言うってなるとなんかちょっと恥ずかしくて、小声になっちゃったり。


 けれどコトにはしっかり聞こえてたようで。


「ふーん、カレシねー………………はっ⁉ カレシっ⁉」


 コトの突然の大声にめっちゃビビった。


「ちょっ! 声おおきっ!」


 瞬間、教室の空気がピシッと張り詰めたような気がした、男子女子問わずに。


「あのユナがっ⁉ 『初恋キラー』とまで言われるほど数ある男子を振ってきたユナがカレシっ⁉ タイガっ! タイガっ! 一大事件だよっ‼」


「だから声が——」


 ていうか初恋キラーってなに⁉ あたしそんな風に呼ばれてたの⁉ ってあたしの声は、コトに呼ばれたタイガって男の声に遮られた。


「聞こえてたぞ! これは荒れるな……学校が、特にあいつが……」


 こいつは神崎大河かんざきたいが。バスケ部で声でかい。あと、あたしからコトを奪ったトラ……許すまじ。でも、良いやつであることは認める。


 で、そのトラがあいつって言ったのは、なんというか……うーん、あたしの追っかけ? みたいな感じで……あ、噂をすれば……。


「姫ぇぇぇぇえええーー!」


 バァンっ! って勢いよく開けられたドアから入ってきてあたしの前に跪いたのは、なんかあたしの自称騎士の岸優太きしゆうたくん。メガネ、以上!


 ……まぁ、付け加えるならちょっとうざいけど憎めない人。


 クラスみんなと仲良くしてるあたしだけど、教室にいる時はだいたいこの三人と一緒にいることが多い。


「姫! 今の話は本当ですか!」


 そのキシくんの質問はコトとトラ、いやクラスみんなの総意の質問のようで、しーんと静まる教室の中あたしに視線が集まるのを感じる。


 うぅ……誤魔化したい……「違う違う! じょーだん!」って言えば、すごく楽だけど……。


 でも、さっき決めたから、先輩のことは誤魔化さないって!


「すぅー……」


 一度目を瞑って、大きく息を吸って――



「……………………ぅん、ほんとうだよ」



 でもやっぱり照れくさくてボソッとめっちゃ小さな声になっちゃって。


 ……というか、イツメンならともかくなんでクラス全員に報告?


 あたしはアイドルか何かかっ!


 っていうあたしのツッコミは。


「きゃああああああっ!」「うおおおおおおおおっ!」「なにいいいいいいっ!」っていう、もう誰が発したのかも分からないくらいのクラスのみんなの声にかき消された。


「えっ、えっ、今まで一回もカレシ作った事なかったユナちゃんが……」


「てかこの前も他校のイケメンに告られて、それも拒否したんじゃなかったっけ?」


「一緒に遊んだ時に大学生にナンパされても、そういうの興味ないんで~の一点張りだったのにっ⁉」


「つーか、相手は誰だっ⁉」


「同じクラスの奴なのかっ⁉」


 とかなんとか、わいわいがやがや。


 ……えー? なに、何なの? なぜあたしにカレシができたらこんな騒ぎに……? みんなヒマなの……?


 とにかく、もうすぐ先輩も手続き終わってこっち来るだろうし、なんとか収拾をつけなきゃ。


 って思ってあたしが声をあげようとする前に先に声をあげた子がいた。


「皆さん遅れてるっすね~、情報収集が甘いっすよ」


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