閑話 お兄ちゃんたちとアタシ



「はぁ~、今日も会えなかったなぁ……」


 この春から高校一年生になるアタシ——花園咲はなぞのさきはショッピングモールに来てため息をついた。


 この駅前のショッピングモールはアタシにとってとても思い出深い場所。


 もう十年前かな? 当時、六歳の小学一年生のときにこのショッピングモールで迷子になったアタシをお兄ちゃん——ヒナタお兄ちゃんとぱい姉ぇ——ユナお姉ちゃんが助けてくれたアタシの人生の分岐点。


 お兄ちゃんはかっこよくて優しいアタシの初恋の男性。


 でもそれは、男児が幼稚園の先生に向ける好きーっていう感じのやつで今は理想の男性だと思ってる。


 それにそもそも当時のそれがガチ恋だったとしてもお兄ちゃんには、ぱい姉ぇっていうラブラブなカノジョさんがいたわけで。


 アタシが入る余地なんて無かったし、そもそも六歳なんだからそんな目で見られてたりしたらお兄ちゃんはかなりアブナイ人だと思う。


 いや、お兄ちゃんそうじゃなくてもかなり変わってる人だった気がするけど……なんか初めて見た時は鎧みたいなの着てたし。


 ぱい姉ぇことユナお姉ちゃんはおっぱい大きくてゆるふわで可愛い感じのお姉ちゃんでアタシの憧れの女性。


 十年前の当時のことは不思議とよく覚えていて、今のアタシは二人の影響をすごく受けてる。


 好きな異性のタイプはお兄ちゃんだし、今の髪型や私服も当時のぱい姉ぇを真似てゆるふわな感じになってるし、自分の呼び方なんかもぱい姉ぇに会った日からアタシって呼ぶようになったし。後は中高一貫校に高校から外部入学したのもそう。


 でも、あの二人にはあの日から一度も会えてない。


 実はアタシが迷子になった日の直ぐ後、家の都合で遠くに引っ越しすることになってしまい小学校、中学校は引っ越し先の学校に、高校は両親を頑張って説得して二人が通ってた高校に行かせてもらうことになった。


 今は学校近くのアパートを借りて一人暮らしをしていて、この町に来てもうすぐ一か月。


 もちろん引っ越してきたその日にもこのショッピングモールに来たけれど二人に再会することは無く、その後も何回か来てみても会えなくて、そして今日も空振り。


「はぁ、やっぱりもういないのかな……」


 軽く手首に付けたミサンガに触れて想いを馳せる。


 お兄ちゃんにもらったこのミサンガはもらってから今まで十年間肌身離さず持ってて、もうアタシの身体の一部みたいなもの。


 ……でも、もう十年……そうだよね、それだけあれば二人もどこか別のところに行ってしまったとしてもおかしくないもんね。


「……また会いたいな、二人に」


 そんな風に思いながら今日はもう諦めて帰ろうと出口に足を向けて——。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁん‼」


 ——すっごい親近感が湧いた。


 一人で泣きじゃくる六歳くらいの女の子がいる。


 あの日のアタシもこんな感じだったのかな? 


 それはそうと、ここはアタシが何とかしてあげるのが筋ってものでしょ。二人にしてもらったことを今度はアタシが同じような境遇にあってる子に返さなきゃ。


 そう思ったアタシはその子に駆け寄って、目の前でしゃがんで優しく声をかける。


「あなた、大丈夫? 一人なの?」


「うわあぁぁぁぁぁぁぁん‼」


 けれど女の子はかなり取り乱しているみたいでアタシの声が聞こえていなくて泣き続けたまま。


 でも大丈夫! こういう時は。


「大丈夫、大丈夫だよ。アタシが助けるから、だから泣き止んで?」


 ぱい姉ぇにしてもらったみたく、女の子をギュッと胸に抱きしめて優しく頭をなでながら声をかける。


 アタシはこうしてもらってすごく落ち着いたから。


「……だれ?」


 そしてそれはやっぱり効果てきめんで女の子はやっとアタシを見てくれた。


「アタシはまぁ、通りすがりの恩返しかな? それよりあなたは一人? お母さんかお父さんはどうしたの?」


「あ、あのね……あだしひとりになっぢゃっで……ひぐっ……ままとぱぱ、いっぱいさがじたけど……うぅっ……いなぐでぇ……」


「待って待って! 泣かないで! アタシが一緒に探してあげるから!」


「うぐっ……ひっぐ……うぅっ……ま゛ま゛ぁ゛ぱぱぁ゛……」


 う、うーん……どうしよう。


 状況は分かった、普通に迷子の子だ。


 なら、アタシのすべきことは一緒にこの子の両親を探してあげることで、まずは泣き止んでもらわなきゃ。


 ……………しょうがない、か。


 ちょっと名残惜しいけど、お兄ちゃんならきっとアタシにしてくれたみたいにするだろうし、ならここで手放すことになってもいっかな。


「ちょっと、手を借りるね」


 そう言って自分の手首からミサンガを外して女の子につけてあげる。


「……ひぐっ……これは?」


「これはね、再会のミサンガっていって、お願いすれば君をママとパパのところに連れてってくれるおまじない」


「……ほんとうに?」


 もちろん! って言いたいし連れってってくれるのは本当なんだけど……。


 実際に十年前、アタシがママに会いたい想いをお願いした時は、不思議なことに小鳥になって連れて行ってくれた。


 けどあれから何度、お兄ちゃんとぱい姉ぇに会いたいって願っても同じようにはならなくて、アタシはこれはおまじないのようなものと思ってる、だからこの子の両親探しは普通にアタシが見つけないと。


 さて、この子も泣き止んである程度落ち着いたいみたいだし、まずはどこではぐれたか聞くところからかな。


「ねぇ、どこではぐれたか——えっ……」


 だけど、アタシの質問は女の子の手のひらを見て途中で途切れた。


 なぜなら――。


「わぁ……小鳥さんになった!」


 さっきまでミサンガだったはずだったそれは、アタシが前に見たその姿を変えていたから。


「すごいっ! かわいいっ! あ……飛んでっちゃった」


 小鳥はピッ! って一言鳴くと、女の子の手のひらから羽ばたいて真っ直ぐ飛んでいく。


 ……あの時と同じだ。


 呆然とその姿を見ていたアタシはそう思った瞬間、女の子の手を引いて小鳥を追いかけてた。


「あの小鳥を追いかけるよ! ついてきて!」


「えっ? えっ?」


 戸惑ってる女の子には悪いけれど、今はあの小鳥を見失うべきでは無いとアタシの直感が告げてる。


 予感があった。


 なにか、すごく運命的な予感が。


 そうして小鳥に導かれるままショッピングモールを駆けて辿り着いたところは、ショッピングモールではよくある特設ステージとかが建てられる広場で。


「だあぁぁ! ちょっと待って! こんなところで魔法を使わないで!」


「だけど、あの子がいなくなったんだよ? もしも異世界とかに召喚なんてされてたら……」


「うぅ……あなたに言われると説得力しか無さすぎて否定できない……」


「大丈夫だ、どんなに最悪の事態でも君とあの子だけは何としてでも守る」


「そ、それは嬉しいけど……でもまだそうと決まった訳じゃないのだからもうちょっと探してみて――」


 そこには地面に手をついて必死何かしてるどことなく見覚えのある男性と、その男性を必死に止めようとするも男性の言葉にたじろぐこれまたどことなく見覚えのある女性がいて。


「ママっ! パパっ!」


 その時、アタシと手を繋いでた女の子が二人に向かって駆け出す。


 その声に振り返った二人の顔を見てアタシはすごい運命だと思った。


 今思えばたしかに、迷子になってた子は二人の面影がある気がする。


 そっか……そうだよね、十年だもん。


 アタシはその運命的な再会に感動して気がついたら声をかけてて。


「お兄ちゃんっ! ぱい姉ぇっ!」


「ん? この魔力の感じは――」


「誰がぱい姉ぇかっ! ってこんな呼び方するのって――」


「あ! ママ、パパ! あのね、このお姉ちゃんがね――」


 また再び会えたこととアタシのことを覚えてくれてたことにすごく嬉しくなってて。


 幸せそうな三人の姿にアタシはさらに憧れを強めるのでした。



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