第14話 先輩と母親探し 3



「姫野、不用意に飛び出ない方がいい」


「ママ! は、いない?」


 あたしの後に続いて先輩とサキちゃんも飛び出してくる。


「あっ! お、お前は鎧の!」


「いや、それよりお前ズボンを履きなおせや」


「あ、そうだった!」


 あぁ! どことなく見覚えがあると思ったらこの二人あの人たちだ!


 サキちゃんたちと同じようにいたガヤAとガヤBの男二人!


 こんなところにいるってことはどこかのお店の店員さんだったんだね。


「うーん、どうやらサキちゃんのお母さんはここには居ないみたい?」


 クルリと辺りを見回してそう言った先輩は男二人に視線を向けた。


「そこの二人、尋ねたいことがあるんだけどこの子のお母さんを見なかったか?」


「……? あぁ、あの美人なママさんか俺は見てないな、お前は?」


「いや、俺も見てない。はぐれたのか?」


「まぁ、そんなところだよ。情報提供感謝する、邪魔したね。行こうか二人とも」


 そうしてサラッと立ち去ろうとしたあたしたちだったけどそうは問屋が卸さなかった。


「おいおい、ちょっと待ちな鎧の兄ちゃんよ」


 ……なんかもう先輩、鎧で定着ついてるね。


「なにか?」


「ここがどこか分かってるのか?」


「ダンジョンだろう?」


「あぁ、そう……ダンジョン? 何言ってるんだ?」


 そうだよね、そういう反応になるよね! でも先輩、本気でここがダンジョンだと思ってるんです、ちょっと暖かい目で見守ってあげてください。


「とにかく、ここに入ってただで済むと思うなよ?」


「そうだぜ、とりあえず事務所の方に来てもらおうか。そこでじっくりと、な? ははは!」


 そう言って男二人はあたしたちににじり寄ってくる。


 ここ立ち入り禁止エリアだし、だから普通に事務所でお話を聞きましょうかっていうことなんだろうけど、なんだかどことなく下品に聞こえるのは、さっきこの人たちがエッチな本を読んでたからかな?


 ……ていうか、あれ? 先輩は?


 あたしとサキちゃんのすぐ目の前にいたはずの先輩がいつの間にか姿が見えなくなってることに気が付いて、慌てて探せば…………いた、男たちの後ろに。


「先輩スト——」


「つまり、お前たちは俺の敵ってことか」


「⁉ いつのまグフゥッ!」


「いきなりなにしやがゴホォッ!」


「——ップ……遅かったか……」


 先輩の手がシュンッ! シュンッ! ってなったと思ったら、男たちは既に倒れてた。


「あー……先輩? 手を出すのはダメですよ」


「それは分かるけど、こいつらは確実に俺たちの邪魔をしてきただろう」


 それはまぁ、仕事だからね。ここにいる時点で悪いのはあたしたちだし。


 でも、先輩とサキちゃんにとってはそんなことはどうでもいいようで。


「あ、お兄ちゃんあそこ!」


「向こうの方か? まだ奥みたいだね」


 小鳥を再び見つけた二人はパタパタとそっちに向かってしまう。


 はぁ、これもちゃんと先輩に言っとかないとなぁー。


「ちく……しょ――」


「俺たちはただ仕事をしただけ、なの、に――」


 はい、ごめんなさい。先輩には後であたしがきつーく言っておきますので、安らかにお眠り下さい。


「な〜む〜……」


 ガヤAとガヤBに軽く黙祷を捧げたあたしは急いで二人を追いかけた。



 ■■



 それからまた数十分、さらに奥へと進んだあたしたち。


「で、次はここを通るんですか?」


「そうするしかないよ」


「うーん、サキには難しい」


 あたしたちに立ちはだかったのは、ダンボール等が乱雑に積まれもう足場も見えない道なき道。


 正直、なんでこんなにぐちゃんぐちゃんなんですかってお店側にツッコミたい。


「でもそうやって通ります? サキちゃんの小さいからだでは無理ですし、かなり危ないですよ?」


 あ、あたしはもう戻ろうと思うのはやめました! 


 だってもうここまで来ちゃったし、今更戻るのもねぇ……それにあたしもなんだかんだ探検気分で楽しかったから。


「しょうがない、ここから先は俺が二人を連れてくよ」


 しばらく何か悩んでたような先輩はそう言って、あたしたちに向かって腕を広げた。


「……先輩、それは?」


「ん? あぁ、とりあえず俺にくっついて」


 え……っと、それはつまり先輩に抱き着くってこと?


 あたしが固まってる間にサキちゃんは「わーい!」って感じに先輩に飛びついてて、先輩もそれを片手で支えてることからあたしの推測は間違ってないはず。


 えぇ……先輩に抱きつくの? いや、もちろんギュってしたいしされたいとは思うけど、いざってなるとなんか気恥ずかしいっていうか……なんていうか……。


「ほら、姫野も」


「……わかり、ました」


 あたしの葛藤も知らないで、なんか先輩は慣れてるっぽいし、異世界で抱き着かれたりすることが多かったとか? それはそれでなんかフクザツ。


 しどろもどろになりながら先輩に近づいて、襟のあたりをキュッて掴む。


 近い……先輩が近い。


 さっき覆いかぶさられた時はいきなりで先輩からだったから大丈夫だったんだけど。


「もっとこう、首に腕を回す感じで頼む」


 もう……注文がおおいなぁ……。


 あたし自分からそういうの得意じゃないというか慣れてないというか、もう結構いっぱいいっぱいなんですけど!


 襟を掴んでた手を放しておずおずと先輩の首に回す。


「これで、いいですか……? ひゃっ⁉」


 すると先輩が突然腰に腕を回して抱き寄せて来たから思わず変な声が出ちゃった。


 身体と身体が触れ合って、先輩の体温が伝わってくる。


 てか……先輩近い近い近い! こんなん色々耐えられないよ!


 今のあたしは絶対赤面してると思うから、とゆーか先輩の顔が恥ずかしくて見れないから、それを隠すように、それといきなりこんなことしてきた抗議の意味も込めて先輩の胸に額を押し付ける……けど、それはそれでなんかヤバくて。


 あ、やっぱなんかいい匂い……とか、先輩細身なのにけっこう筋肉あってがっしりしてるな……とか、そういうことを全身で感じちゃって。


「じゃあしっかり捕まっててね、それと舌を噛まないように気を付けて」


 だけど、そんな頭ピンクな考えは先輩のその一言でキレイさっぱり消え去った。


 なぜなら——。


「先輩ぃぃぃ! はやいはやいはやいぃぃぃいいい!!」


 ダッシュ……これはダッシュと言っていいのかわからないけど、走り出した先輩はそれはもう早かった。


 ……というか走ってない! 走ってるっていうより、ダンボールとダンボールの間を飛んでる!


 あたしはもう恥ずかしいとかそういうのは考えられなくてただただ必死に先輩にしがみつく。


「先輩! ゆっくり! もっとゆっくり!」


「わぁ! お兄ちゃん凄い! ビュンビュンしてる!」


「お? ならもっと行くか! 〈アクセル〉!」


「きゃあああああああ!」


 さっきの桃色の雰囲気は何処へやら、在庫置き場にはあたしの絶叫が響くのでした。


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