第12話 先輩と母親探し



 ひとしきり笑い合って、落ち着いてきたころ。


「で、どうやってサキちゃんのお母さん探すんですか?」


 まぁ、どれだけ笑い合って元気を取り戻したとしても根本的なことが解決してないんだから、またすぐに不安で泣き出してしまうかもしれない。


 だけどここのショッピングモールはそれなりに大きくて闇雲に探せばかなり時間がかかっちゃうし、サキちゃんのお母さんとすれ違う可能性もある。


「やっぱりここは無難に迷子センターに行きます?」


「いや、そんな面倒なことしなくても見つけられるよ」


 え? それってどういうことですか? って聞く前に、先輩はサキちゃんの正面にしゃがんで何やらはじめだした。


「サキちゃん、少し手を出してくれる?」


「うん! あ……でも、まだサキ結婚できないよ?」


 ……いや、サキちゃん何言ってるの? 先輩と結婚するのあたしだし……って、あたしも何思ってるの⁉


「あはは、まぁそれはそのうちってことで……うん、これでいいかな」


「わぁ! 何これ綺麗だね!」


 先輩は結婚指輪……じゃなくてさっきあたしに見せてくれたミサンガを外して、サキちゃんの手首に付け直してた。


 本当に何するんだろう? 予想つかないや。


「これは再会のミサンガ、サキちゃんがお母さんに会いたいって願えばそれを手助けしてくれるよ」


「ほんとう?」


「もちろん、目を瞑って想いを伝えてみて?」


「わかった!」


 そう言うとサキちゃんは目をギュッと瞑って先輩の言う通りにした・


 先輩はというと引き続きサキちゃんの手を握って何やら——


「んっ……お兄、ちゃん……サキの身体、なんかぽわぽわして……んぁっ!」


 ——やっぱ先輩、マジのマの字でロリコンなんじゃないの? 幼女になんか色っぽい声出さして。


「……先輩、何やってるんですか?」


「ん? あぁ、最悪の事態を想定して<シキガミ>を使おうと思ってね」


「最悪の事態ですか? あと<シキガミ>とは?」


 そう疑問を言うと先輩は真剣な顔になった。


「いいか、姫野。向こうの世界の常識なんだけど常に最悪の事態を想定し、回避できなければあっという間に食い物にされるんだよ」


 ……先輩、時よりこうしてあたしに異世界の常識を説いてくるよね。今日はあたしが先輩にこっちの世界の常識教えに来たはずなんだけど。


「はぁ……? それで、この場合の最悪の事態はなんです?」


「そうだね、何パターンかあるけど……一番厄介なのは誘拐といったところかな」


「誘拐⁉ っと……」


 ちょっと先輩が予想だにしないことを言ったから思わず大きな声が出ちゃったよ。


 というか誘拐て、そんな大袈裟な……。


「まったくもって大袈裟じゃないよ、世の中何が起きても不思議じゃないんだから」


 心を読まれたっ⁉ 


 てか、その言葉先輩が言うと説得力が半端ない……。


「でも、もし誘拐だったとしても先輩強いですし、誘拐犯くらい脅威じゃないんじゃありませんか?」


 あたしがそう言うと、なんか先輩はため息なんかついて露骨に呆れたような顔をした。


 え、なんか腹立つ……。


「人に誘拐されるなんて誰も言ってないよ」


「え? なら、誰に誘拐されるんですか?」


「——異世界だよ」


 うわ……うっわ~、めっちゃ説得力ある! むしろ、説得力しかない!


「しかしまぁ、そうなると少々厄介どころじゃなくなるんだけど……。姫野、俺はなにがあっても姫野だけは守るから」


 う……そんな凛々しい顔であたしだけは、なんて言われたらなんか照れる……。


「——が、何事にも想定外というものがあるからね。ここから先は姫野も世界を相手にする気持ちでいてくれ」


「……わかり、ました?」


 え、なにこのこれから強大な敵に立ち向かう雰囲気。


 んんん? これただの迷子の女の子を親御さんに届ける簡単クエストだったのではっ⁉ いつの間に世界と戦うことになってるのっ⁉


 ちょっと先輩深読みしすぎなのでは? って思いつつも、いたって真剣な先輩に言えることもなくあたしはもう一つの疑問を聞いてみた。


「それで<シキガミ>って何なんですか?」


「それは、見てれば分かるよっと、そろそろいいかな? サキちゃん、もう目を開けて大丈夫だよ」


「ぁんっ……! おにいちゃん、今のこれなんか気持ちいい……もっとやって!」


「いや、もう準備できたから必要ないよ」


「えぇー!」


「……」


 息が荒く、目がトロンとしたサキちゃんはなんか幼女なのに妙な色気を纏ってた。


 ホント、先輩何やってるの? これもう犯罪なんじゃ……あたしの中で先輩ロリコン疑惑がどんどん上昇していきます。


 ……もしかして、これも異世界の常識的なことだったり? もしそうならこれは後で要注意させないと!


「それより、お母さん探さなきゃ」


「あ、そうだった! ママに会いたいってお願いしたけど、これでいいの?」


「あぁ、バッチリだよ。見ててね——<シキガミ>」


 先輩がサキちゃんに付けたミサンガに触れると、そのミサンガが光だす。


 だあぁぁ! って止めそうになったけど、なんかもういいかって思いとどまった。


 だってもうサキちゃんには鎧のとか色々見られてるし、今更な気がして。


 光り出したミサンガはやがてひとりでにほつれていき、その姿を変えて一匹の小鳥になった。


「おおー! お兄ちゃんすごい! 可愛い!」


「この子がサキちゃんをお母さんのところに連れてってくれるよ、お願いしてみようか」


「ほんとに! 小鳥さん、サキをママのところに連れてって!」


 サキちゃんがそう言うと掌のミサンガだった小鳥はピッ! と、一言鳴いてからまっすぐに飛び立った。


「わ! 待ってー!」


「ちょっとサキちゃーん!」


 小鳥を追いかけ始めたサキちゃんを慌ててあたしと先輩も追いかける。


「あれが<シキガミ>っていう簡単な召喚魔法。本来なら自分の魔力だけで作れるけど、さっきみたいに物かなにかに魔力を宿らせてやった方が魔力を抑えられるのと、直接サキちゃんの魔力に干渉するよりさっきみたく手助けするほうが負担が少ないと思って……これでさっきの誤解は解けた?」


「そうなんですか……って、別に誤解なんてしてませんよ!」


「そう?」


「はい!」


 ただ、ちょっとあたしにもやって欲しいなぁって、思ったり思わなかったり……。


 というかあたしにも魔力? があるなら先輩みたく魔法を使えたりするのかな? 今度教えてもらったり……って、それじゃああたしまで非常識になっちゃうよ! あたしが先輩に常識を教えなきゃいけないのに。


 そんなこと思いながら、小鳥を追いかけるサキちゃんを追いかけた。


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