第10話 先輩と迷子の幼女



 仕切り直しまして、あたしではなく今度は先輩が幼女に事情を聴く番。


「それできみはこんなところでどうしたの?」


「わぁ~、鎧のお兄ちゃんかっこいい!」


 お? この幼女早くも先輩の魅力に気づいた? なかなか見る目があるじゃん。


「ありがとう、俺はヒナタって言うんだけど、きみの名前は?」


「サキ! わたし、将来美人さんになるってママに言われてるからお兄ちゃんも覚えておいて損はないよ!」


 そう言って幼女——サキちゃんは先輩にニッて笑いかけて、チラッとあたしの方を見た気がした。


 …………まさか。


 まさかまさか、もしかしなくてもこの幼女、先輩のこと狙ってる……?


「じゃあ覚えておくよ、それでサキちゃんは一人? お母さんは?」


「あ……そうだ、ママ……」


 サキちゃんはふと思い出したように周りをキョロキョロ見回して、その瞳がみるみるうちにうるんでいく。


「……ひっぐ……いない……」


「あぁ、ほら泣かないで? お兄ちゃんたちも一緒に探してあげるから」


 先輩は泣き出しそうになるサキちゃんの頭に手を置いて優しく撫でる。


「ぐすっ……ほんとう……?」


「もちろん。だから、大丈夫だよ」


「うん……ありがとう!」


 そうしてサキちゃんの涙はスッと引いて、先輩にひしっと抱き着く。


「……………………」


 ……一見、先輩が優しかっこよくて安心した幼女が泣き止むっていう、よくある幼い子供の迷子と一緒に親御さんを探しにいく流れのシーンに見えるよね。


 しかしこれは仕組まれている!


 なぜならあたしは見た! 先輩に撫でられてるときと抱き着くとき、あの幼女が一瞬あたしの方を向いて勝ち誇ったような笑みを見せたのを。


 そして極め付きはあのスッと引いた涙! あんなの演技以外の何ものでもない! 女のあたしだから分かる!


 ……だけど、だからってこの幼女を無理やり先輩から引きはがすなんてできない。


 だってそんなん、先輩に大人げないって思われるの確定だし。そんなの思われたくないし。


 くっ……! 幼女という立場を使って先輩を堪能して……。あたしだってまだ撫でられたり、抱き着いたりしたことないのに!


「えへへ! お兄ちゃんだいすきー……(ニヤッ)」


 くうううううぅぅぅぅぅ‼


 なお、サキちゃんが迷子だったのはガチめなことのようで、この後サキちゃんのお母さんを探すことになった。



 ■■



「ふんふんふふふ~ん!」


 サキちゃんのお母さんを探すことになったあたしたちは、まずサキちゃんが何処ではぐれたのか聞いて「たぶん、こっち!」っと歩き出したサキちゃんに先導されながらそのはぐれた場所に向かってる。


 というかサキちゃん迷子の子なはずなのにテンション高いんだよなー……まぁ、先輩と手を繋いでるからなんだろうけどさ。


 別に……別にねー、たかが幼女にねー、ヤキモチなんてやきませんけどねー……なにか?


 先輩もそんなサキちゃんを見て微笑ましそうだし。


 いやまぁ、先輩はほんとにただただ微笑ましいだけで他意はないんだろうけどさ。


「……ロリコン先輩、上機嫌ですね」


 あぁ……別に言うつもりのない嫌みがポロっと……。


「ロリコン先輩はやめよう? ちょっとダメージが……。まぁ、でもやっぱりこういう微笑ましいのは癒されるなぁって」


 先輩の言うことも分からなくはないけどさー、この子の本性は微笑ましくない。


 先輩この幼女真っ黒ですよって言いたい! 魔性の幼女ですって!


 ……言えんけど。


 と、その時先輩があたしの方を向いてるのに気が付いた。


「どうしました?」


「いや、姫野拗ねてるのかなーって思って」


 ……鋭いですね。さすが先輩。


「知りませーん」


 まぁ、ほんとのことなんて言いませんけど!


 プイっと明後日の方を向いたあたしに先輩は苦笑して、


「サキちゃん、ちょっと耳貸して?」


「なにー?」


 なぜかサキちゃんに耳打ちをした。


 で、先輩から何か伝えられたサキちゃんはうんうんと頷いた後、あたしの方を見てニッと笑い、


「もう、お姉ちゃんもサキとお手手繋ぎたいならそう言えばいいのにー!」


 って言いながらあたしの手をギュッと握ってくる。


 先輩はそんなあたしたちの様子を見てうんうんって頷いてて、その目は「こういうことでしょ?」って語ってるようだった。


「…………」


 ……まぁ、うん。確かに手を繋ぎたいとは思ったけどさー……違うんだよなぁー……サキちゃんじゃなくて先輩となんだよなぁー……。


 でも、これはこれでサキちゃんを通して先輩と手を繋いでる……つまり間接手繋ぎと言える状態なのではっ⁉ 


 とかなんとかバカなことを考えながら歩いて数十分、サキちゃんが立ち止まった。


「ここ! ここでママがいなくなっちゃったの!」


 そうしてやってきたのはモールではよくある特設のステージが建てられる広場みたいな所。


 今はなにもイベントがやってるわけでは無いけれどそれなりの人数の人が行き交いしてる。


 とりあえずサキちゃんのお母さんっぽい人を探して見るけれど……。


「……うーん……いない、かな……?」


「サキちゃんどう? お母さん見える?」


「……………見えない」


 先輩、身長高いからサキちゃんを抱えて高いところから見せてるけど、サキちゃんの方も見つけられなかったみたい。


 そして先輩に降ろしてもらったサキちゃんはオロオロと辺りを見回し始めて、


「うぅ……い゛ない……こごで、待ってでっていっだのに……ひぐ……ママァ! どこっ……ま゛ぁ゛ぁ゛ま゛ぁ゛ぁ゛!!」


 ガチの本気泣きを始めちゃった。



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