第9話 先輩と好きなこと 2



 時間はいつの間にかもうおやつの時間で、一階にあるカフェには順番待ちの列が出来てた。


 まだお昼を過ぎたくらいだと思ってたのに、まさかもうこんなに時間が経っているとは……やはり先輩といる時間は流れが早いような気がする。


 あたしと先輩は列の最後尾に並びながらお喋り興じる。


「で、話戻しますけど先輩は小さい子供好きのロリコンってことで、なんで小さい子供が好きなんです?」


「え、あ、確かそんな話してたんだっけ……てか、ロリコンじゃない……と、思いたいし。それでなんで小さい子供が好きなのかだっけ? そうだな……」


 そこで、先輩はどこか虚空を見つめ初めて……あ、これはあれだ悟り開いたやつだ。


 てことは異世界の話か。


「……はっきり言うと、全員が全員じゃないけど向こうの世界の大抵の大人ってクズばっかりなんだよね」


「おおぅ……」


 ほんとにはっきりキッパリ言い切っちゃった。


「まぁ、時代がそうならないと生きていけなかったって考えればしょうがなくあるんだけど、どいつもこいつもイイ顔して平気で他人を足蹴にするような奴ばっかりで胸くそ悪くてね」


 そう言う先輩の顔はちょっと影がさしてる感じで、ほんとに嫌そうなのが分かる。


 どんな世界なのかは全く想像がつかないけど。


「それでもまだ純粋な心を持った人もいて、それがまだ世の中を知らない子供たちだったんだよ。一時期奴隷商に追われてた時に孤児院に匿って貰ったことがあって、その時に一緒に遊んだ時は荒んだ心が癒されるようだった」


 ……なるほど、これが先輩のロリへの変貌の一遍か、異世界は先輩の価値観を変えてしまったみたい……。


 というか、奴隷商て、追われてたて、先輩ほんとどんな生活送ってたの……?


 聞いてみたいような……聞いてみたくないような……。


「あ、このミサンガもその孤児院の子供たちが魔王との最終決戦前に作ってくれたものでね、俺が無事に帰ってくるようにって作ってくれたものだから、こっちの世界に帰る俺が受け取るのはちょっと心苦しかったけど、凄く嬉しかったな」


 そう言って軽く袖を捲ってミサンガを見せてくれた。


 普段異世界の話をする先輩はあんまりいい顔しないけど、今の先輩は本当に嬉しそうな顔をしてていい思い出なんだなってことが伝わってきてなんだかほっこりする。


「きれいなミサンガですね!」


「あぁ、数少ない向こうでのいい思い出の一つだよ。ちょうどあそこにいるくらいの子が………ん?」


「どうしました?」


 先輩の言葉が途切れて不思議に思って先輩の視線の先を追ってみると、どことなく見覚えのある幼女がいた。


 だけどお母さんの姿はなく、その様子はとても不安そうで今にでも泣き出してしまいそう。


「あーー……姫野?」


「いいですよ」


「まだ何も言ってないけど……」


「そんなん先輩の顔見れば分かりますよ!」


 先輩はバツの悪そうな顔してて、それはあの子を助けに行きたいけどあたしとカフェに入ることが出来なくなっちゃうのが悪いと思ってるんだろう。


 先輩とカフェに行きたいとはすっごく思ってたから行けないのは残念だけど、別にもう行けないって訳じゃないし。


「それにあたしだってあの子がどんな状況かくらい分かりますしね。ほら! 行きましょう!」


 もう次に呼ばれたら入店できるところだったけど、あたしは躊躇わずに順番待ちの列から抜けてにひっと先輩に笑いかける。


「あぁ……ありがと」


 ちょっと呆気に取られた様子の先輩だったけど、嬉しそうにしてついてきた。


「きみ、一人でどうしたの? お母さんは?」


 幼女の前で屈んで視線を合わせてできる限り優しく笑いかけてあげれば、幼女は涙の溜まった大きな瞳で先輩とあたしを交互見て。


「鎧のお兄ちゃん? と――」


 ……ぷっ! 先輩……鎧のお兄ちゃんって……!


「――見ちゃいけないお姉ちゃん?」


「誰が見ちゃいけないお姉ちゃんかっ!」


 こ、この幼女あたしのことなんて呼び方してるの! 思わずツッコんじゃったよ!


「だってお母さんがそういうのは十八歳になってからにしなさいって」


「誰がR18指定かっ!」


 お母さ〜ん! 娘にあたしのことなんて言ってるのさ!


 あ〜コラコラ、あたしを見る時だけ小さいお手手で大きいお目目を隠そうとしないの!


「はぁ……先輩、あたし昨日今日でツッコミ力上がった気がするんですが……っ!?」


 ちょっと幼女があたしのこと頑なに見てくれないから先輩に助けを求めようとしたら、思った以上に先輩の顔が近くでびっくりした。


「せん……ぱい……?」


 しかも、なんかすっごいじーっとあたしの目を見てくるし!


 え……? なに……? するのっ!? ここでっ!?


 先輩があたしの瞳を覗き込んでくる。


 まるで頭のてっぺんからつま先まで全てを見透かされてるようで、先輩の瞳の中に意識が吸い寄せられるような……。


 先輩……初めてはもっと別の場所で――。


 って言おうとした瞬間、先輩の瞳がキランと光った。


 ……光った!?


「う〜ん、ステータス的にはツッコミ力なんて数値ないけど……」


「……すてーたす? あぁ……ステータスか……見えるのっ⁉」


「そう、相手の瞳をよく覗けば見られるんだけど、ツッコミ力なんて項目は無かったから姫野の勘違いじゃないか?」


 ツッコミ力……? あぁ、さっきあたしがそんなこと言ったから先輩がいきなりこんなことを……てっきりキスされるのかと……。


 そう理解した時に思い出した。


 ……あたしたち以外にもう一人いたなって。


「あわ……あわわわわわわ! するの? チューするの? 見ちゃダメ!」


 幼女は両手で両目を隠しながら……って、ガッツリ指の間から見てんじゃんっ!


 あたし単体じゃ見てくれないのに、キスシーンは見ようとするなんて……マセた幼女め!  



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます