第8話 先輩と好きなこと



 一階にあるカフェに行くためにエスカレーターに乗りながらあたしは先輩の格好を改めて見て……うん、かっこいい。


 ……じゃなくてちょっと気になったことがあるから聞いてみることにする。


「先輩先輩、さっきのお店から気になってたんですけど、いきなりファッションセンスありますよね? 選んでくれた服も良かったですし、急にどうしたんです?」


 そう、先輩はファッションセンスがあるのだ。


 選んでくれたニットワンピースのあたしに合ったいい感じのやつだったし、先輩が今着てるジャケットも袖を捲ってていい感じに着こなしてる。


 それをあたしが指摘したのならともかく、最初見た時から捲ってたってことは先輩が自分でやったってことになる。


 というのも最初にショッピングモールに来た時の先輩はファッションのフの字も知らない感じで、まるで親鳥にひっつくひな鳥みたいな感じにあたしについてくるだけだったから。


 つまり、本当に先輩はいきなりファッションセンスに目覚めたわけで、それが不思議に思えたんだけど……で、その先輩の答えはというと。


「ん? あぁ、覚えたんだよ」


「覚えた?」


「そう、姫野がどんな感じに服選んでるのか見たり、あとこれ見て」


 と、言う先輩の手にはいつの間に……というか、どこから出したのかメンズ、レディース問わず数冊のファッション雑誌を持っていた。


「二〇年前から姫野はこういうファッションとかオシャレが好きだったでしょ? だから、気になって」


「ほぇ……?」


「姫野が好きなことは俺も好きになりたいなって思ったから……さっそく姫野にセンスいいって言われるのは嬉しい」


「〜〜〜ッ!!」


 ……だから、だ〜か〜ら〜!


 ほんともぅ……そういうのずるい、反則……嬉しすぎる。


「ご、ゴホンッ! そ、それなら先輩に今度、あたしのオススメの雑誌貸してあげます! そしたら今度はあたしの行きつけのショップに行きましょう!」


「そうだね、楽しみにしてるよ」


 そんな嬉しそうにニコッてするのなんて狙ってるようにしか見えないよ……。


 はぁ〜〜〜好き! ってなる。


 ………あたしもう、完全に先輩にやられちゃってるな。


 まぁ、いっか……では、仕切り直しまして。


「それじゃあ先輩の好きなことはなんですか? 二年前は先輩多趣味でよく分からなかったですけど、異世界行って何か変わりました?」


「うーん……生きるのに必死だったからそんな余裕無かったしなぁ」


 生きるのに必死だったって……うん、全然想像つかないや。


「……強いて言うなら小さい子供?」


「え……それって、先輩ロリコン……」


「あ、またこのパターン……?」


「すみません。さすがにカレシが犯罪者予備軍なのはちょっと……」


「犯罪者予備軍!? ロリコンよりなお悪いわ! ていうか、ロリコンでもないし」


「クスクス……あたしのこと好きな時点で立派なロリコンですよ」


「いやいや、二つ歳下でロリコン扱いはどうなの……?」


「チッチッチッ、何言ってるんです先輩? よく考えてみてください、先輩異世界に二〇年いたんでしょう? こっちの世界の実年齢を加算したらもう四〇手前のおっさんじゃないですか」


「えっ……。あ……そういうこと……なの? えっ、確かにそう考えると……」


 あ、適当に言ったことなのに先輩結構気にしちゃった?


「も、もうやだな~、冗談じゃないですか先輩! そんな真に受けないでくださいよ~……」


「お、おっさん……ロリ、コン……」


 あ、ダメだこりゃ。


 冗談で女装趣味って言った時と違って、ちょっと現実味がありそうな分否定しきれないんだ……。


 なんか頭を抱えてぶつぶつ言ってる先輩を見ながらどうしようか考える。


 う~ん、どうやって先輩に戻ってきてもらおう……と、思ってると突然先輩が顔を上げて、


「決めた! ちょっと今から異世界戻って時間遡行して二〇年分の時間を巻き戻してくる!」


 とかなんとか言って、手を叩こうとしたので、


「ステイィィィーー! 待ってください先輩!」


 あたしはがしっと先輩の手首を掴んで慌てて止めた。


「姫野? 大丈夫だよ、今の俺なら時間を巻き戻すのも簡単にできるから、ちょっと若々しくなってくる」


 もう、そういうことじゃないんですよ。というか先輩、十分若々しいですし。


「先輩は勘違いしてます!」


「勘違い?」


「ちょっと耳貸してください……恥ずかしいので」


 そう言うと、先輩はこっちに顔を近づけてくれたので、上にいるあたしにちょうどいい高さになった。


 手を先輩の肩に置いて軽く背伸びをして先輩の耳元に口を近づけて恥ずかしいからコソッと伝える。


「(あたしはおっさんでもロリコンでもどんな先輩でも好きですよ……。だから、時間なんて巻き戻さなくていいのでここにいてください)」


 ちょっと早口気味になっちゃったけど、ちゃんと言えた……言えた、けど……。


 恥ずかしっ! あ~恥ずかしっ! 先輩の顔見れないよ! てか、黙んないで! なんかしゃべってっ!


 顔、見れないど……気になる。


 先輩の反応超気になる。


 ……でも、見れないっ!


 というか今更だけど、あたしいきなりこんなこと言って引かれたり……しないよね?


 っていう感じにあたしの内面は渦巻いて、最終的に横目でチラッと見た先輩は、


「……っ!」


 悶絶してた。


 え、お? 先輩顔真っ赤で目がぐるぐるしてるぞ~?


 はは~ん、これは図らずもさっきのショップでの仕返しができてしまったかな~。


 いや~あたしってば策士! 


 ……ちょっと自爆も含まれてたかもしれないけど、こんな自然な感じに仕返しできちゃうなんて————


「(ありがと、俺もどんな姫野だって好きだよ)」


「~~~ッ⁉⁉」


 ウェスパァァァ~~~ボイスゥゥゥゥ~~~~⁉⁉


 説明しよう! ウェスパーボイスとはただの息漏れ声ではなく吐息混じりのしっとりとした優しく甘い声のことで、囁くようでありながら言葉をしっかり伝えることができ、イケボの人なんかがやると女の子はキュンキュンしちゃうような声のことです!


 まぁ、つまり何が言いたいのかというと。


「はぁ……ふぅ……」


 今のあたしはそれはもうキュンキュンして耳から脳がトロけそうで、自然となんかわからないけど荒い息がでてくるくらいヤバいってことです。


「ん? 姫野、顔真っ赤で息乱れてるけど、どうした?」


「誰のせいですか! あ~も~、早く行きますよ! のど渇いて仕方ありません!」


 あたしは照れ隠しに先輩を抜かして先にエスカレーターを降りた。


 まったく、今日一日で何度悶絶してくれば気が済むんですか! まったく!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます