第7話 先輩とお会計


 それからお会計をすべくあたしはいったん試着室で元着てた服に着替えてレジに並ぶ。


 先輩が選んでくれた服を今すぐ着たい気持ちもあるけど今日のは今日のコーデがあるわけで。


 だから今日買った服は次のデートの時にこの服にあうオシャレをバッチリ決めて先輩を悶えさせます! 


 って言ったら、着替えてくるって言ったときにちょっと悲しそうな顔をした先輩も納得してくれた。


 で、そんな可愛い先輩はというと、そのまま着て行くために店員さんにタグを切ってもらってる。


 ていうかあの店員さん、タグをハサミでカチって切るだけなのに先輩にちょっとベタベタしすぎじゃない……?


 ……あっ! ほら! ジャケットのタグ切るなら後ろからでいいはずなのに、あんな前から抱き着いてしなだれかかるように……。


 先輩、動揺も何もしてないけどカノジョとしては振り払ってほしいっていうか……というか先輩が不誠実なことをするとは思えないから振り払わないってことは、たぶんタグ切ってもらうのあれが普通だと思ってるんだろうなぁ。


「———————様?」


 くっ……先輩何も悪くないのにこの八つ当たりしたい気持ちはなんなの?


「————お客——⁉」


 というか、悪いのはあの店員さんだよ! なに人のカレシがかっこよくて純情だからって誘惑してたぶらかそうとしてくれてるのよっ!


 これはもうヒトコトがつんと言って————。


「————お客様っ!」


「なにですかっ⁉」


「こちらのレジへどうぞ?」


「あっ……うぅ……」


 そこであたしはやっと先輩と店員さんのことに夢中でレジを止めちゃってたことに気が付いた。


 しかもしかも、呼んでくれてる声に気が付かなくて叫び返しちゃうなんて……恥以外の何ものでもない。


 もう次からこのお店来れないよぅ……。


 ちょっと俯きながら呼んでくれたお姉さんのレジに行ってとりあえず謝罪を。


「その、叫んじゃってすみません……」


「いえいえ、かっこいいカレシさんですね!」


「ふぇっ……」


 バレてる、ますます恥ずかしい……でも、先輩褒められるのは嬉しい……。


「カノジョさんも可愛らしいですし、お二人はお似合いですよ!」


「お、お似合い…………ありがとう、ござい、ます……」


 ちょっとテレテレしながらもつつがなくお会計を済ませて先にレジを出て先輩を待つ。


 というかあたしと先輩お似合いだって~!


 そんな褒められ方したの初めてだし、先輩かっこいいからあたしで釣り合ってるのか不安だったから嬉しみがあふれ出そう!


 もうっ! 今度もここで服買っちゃうぞ~!


 ちょっと褒められただけで上機嫌になっちゃうチョロインは誰ですか? 


 はい、あたしで~す!


 ……こんな感じで浮かれて、油断してたからだよね。


 今日は何をしに来て、誰を一人にさせちゃってたのか、あたしはまたすっかり忘れてた。


「——⁉ お客様、これはいったい……?」


「……? あれ? なにか違ったかな?」


「いえ、違うって言うか……」


「……あ、もしかして足りなかった?」


「そうではなくてですね……」


 そんな話し声が聞こえてきて、フワフワしてた気持ちが一気に現実に戻ってくる。


 ……あぁ、やってしまった。


「すみませーん! どうしました?」


 慌ててレジ逆走して先輩のところに行くと、あたしにさっきレジ打ちしてくれた店員のお姉さんが困ったように「お客様がこちらを出されまして……」と言って、見せてきたのは諭吉でも英世でもなくて、明らかによその国のお金……お金? なにこれ?


「……あぁ! そっかそっか! この国の通貨は円だったっけ? ちょっと待ってね……」


 と、間違いに気が付いたらしい先輩が空中に指で丸を書いたと思ったら、何もないはずのそこに手を入れ始めて————。


「だあぁぁ! マァァ~ジックッ! イリュゥゥ~ジョンッ! ハンドパッワァァ~⤴⤴!」


 って感じに必死にごまかしけど「えっ? えっ?」って戸惑ってたお姉さんにはあまり意味がなかったかもしれない。


 で、最終的にごまかしきれないと判断したあたしは逃げを選択。


 急いでお財布出して必要枚数の諭吉を召喚! 


 サムズアップしながら歯を見せて笑いかけて「釣りはいらねーぜ! 姉ちゃん!」って言ったら先輩の背中押しながらお姉さんが戸惑ってる間に必死に逃げた。


 お釣りはほんとにいらない。あたしも先輩も迷惑かけたし、先輩の魔法の口止め料の賄賂だと思ってもらえれば……。


 っていうか、もうほんとにあそこのお店しばらく行けないよ。


 あんなに恥かいて次に普通に入れるほど厚顔無恥にはなれない。


「姫野……その、悪い」


「いえ、あたしも浮かれてて先輩から目を離してしまってたんで……。でも、今日はお願いですから全部あたしに任せて下さい……」


「あぁ……うん、任せた。それと、さっきの服のお金……」


「それも大丈夫です! よく考えたらあたしまだ先輩に退院祝いとか送ってませんでしたし、それだと思って、ね? だから気にしないでください!」


「でも……」


「気にしないでくださいっ!」


「あはは……うん、わかった。ありがとう……はぁ……」


 って言っても気にしちゃうよねぇ。先輩律儀だし。


 ……しょうがない、せっかくのデートで先輩が落ち込んでるのはやだし、一階にあるあたしの好きなカフェに連れてってあげて美味しいものでも食べてもらおう!


「先輩、辛気臭いのはナシですよ! 元気よくいきましょう! あたしが美味しいところ連れてってあげますから!」


「でもほら、さっきの服結構高かっただろ? なんかますます悪いなって」


「まだそんなこと気にしてるんですか? もう、それは退院祝いでいいって言ったのに……あっ、なら今から行くとこでケーキ奢ってください! それでこの話は終わりで~す!」


 そう言ってにひって笑いかけてあげれば先輩がやっと笑い返してくれた。


「そういうことなら、喜んで」


「それじゃあ、さっそく行きましょ~う!」


 あたしは先導するように目的地に向かって歩き出した。


 やっぱり先輩とはいつでも笑顔がいい。

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