第6話 先輩と服選び 2



 見つけたらリードでもつけるべきかな……と、ちょっと真剣に考えながら先輩を探しに行くため持っていた服を元の場所に戻そうとしてると。


「おまたせ」


 先輩がシレッと戻ってきた。


「あ、先輩! どこに行ってたんですか! 探しましたよ! デートで彼女を置きっぱなしにするなんてひどいです!」


「あ~……ごめん。なかなか良いのが見つからなくて……」


「いいの? って、それどうしたんです?」


 そこであたしはバツが悪そうな先輩が持ってるものに気づいた。


 先輩はすごくあたし好みないい感じのニットワンピースを持っていて。


「………………え、先輩実は女装趣味……?」


「違うわ!」


「すみません。流石のあたしもカレシが女装趣味なのはちょっと……」


「だから違うってば!」


「…………ぷっ! あはははっ! 先輩必死すぎ! 冗談ですよ冗談!」


 ちょっとからかっただけなのにめっちゃあたふたしてる先輩可愛すぎる! ずっと見てたい!


「あたしを置いてった先輩へのちょっとした意趣返しです! それで、どうしたんですかそれ?」


 ひとしきり笑った後、からかわれただけだと分かってホッとしてる先輩にそう聞くと、先輩は恐る恐るといった感じで持ってたニットワンピースをあたしに差し出してきた。


「これ、姫野に似合うかなって思って……」


「……ほえ?」


「いや、なんか俺の服を一生懸命に選んでくれてるから……その、気に入らなかったら、いいから」


 え……え? それってつまり、先輩もあたしの服を選んでくれた……ってこと? 


 それで、あたしが気に入るかわからなくてそんな不安そうなの?


 ……なにそれっ⁉


「なにそれっ⁉ あっ……」


 びっくりしたのと、嬉しすぎたので思ったことが声に。


「やっぱり、戻して——」


「買いますっ!」


「え?」


「あ……じゃなくて試着します!」


 戻しに行こうとした先輩から半ば強引に奪い取って、逃げるようにあたしは試着室に入った。


 カーテンを乱暴に閉めて、今にも飛び出してきそうな胸を押さえながらその場にペタンと座り込む。


「はぁ……はぁ……なにあれ……もぅ、あんなん耐えられないよ……どーにかなっちゃう」


 先輩が選んでくれただけでも悶えものなのに、あんな不安そうな表情されたら、あたしの中の母性とか乙女的な何かがあふれ出てきて思わず即決で買いを決めちゃうよ! そんなこといつもなら絶対しないのに!


 ……まぁ、先輩が選んでくれたものなら何でもどんなのだって着たっていいですけど。


「というかこれ、めっちゃいい感じじゃん」


 見ときからあたし好みだなぁとは思ってたけど、色もそうだし、丈や袖の長さもちょっと長めで着てみたらなお良い。


 一回鏡でキメてみて、「うん、自分で言うのもなんだけどあたし可愛い! これならやり返しに先輩を悶えさせることもできるのでは!?」って自信を持って試着室のカーテンを開ける。


「じゃ~ん! どうですか先輩! あたし的には結構いいと思うんです、け……どっ——⁉」


 ちょっとポーズなんて取ってみたりして、鏡の目で自分の姿をじっと見てる先輩に声をかけたけど、思わず最後に変な声がでた。


 なんでっ! なんで着替えてるの! こういう不意打ちずるすぎるっ!


 だって、試着室の外で待ってた先輩は先輩だけど先輩じゃなくて……って、これじゃあ何が言いたいのかわからないよ! 服っ! 服がジャージじゃなくてさっきあたしが選んでた服に着替えてて、それが着てるとこを想像してた時よりもかっこよくて、まだ後ろ姿なのに悶えそうになるっていうか……。


 だめ! 耐えるのよあたし! 今度はあたしが先輩を悶えさせるって決めたんだから! 頑張れあたし! 負けるなあたし! うんっ! 頑張るよあたし!


「あ、姫野。これさっき選んでくれてたやつ着てみたんだ、け……どっ——⁉」


「かっっっ————」


 ————っっっこいいいい~~~~~~~~~~!!


 あっぶない! 咄嗟に口元を抑えれなかったら大声で叫ぶところだった! ナイスファインプレーだよあたし!


 あたしは心の中で絶叫しながら、先輩を見上げる。


 清涼感のあるシャツにそれに合うカジュアルなジャケットとジーンズ姿の先輩の姿は赤抜け感が半端なくて、高身長で細身な先輩に似合いすぎてて……。


 さらに整った目鼻立ちが形作る知的さとそれでありながら首元に垣間見せる鎖骨や袖口に覗く手首からほとばしる色気! 


 極めつきはジャージ姿の時は少し野暮ったい感じだった前髪がさりげなく覗く影になっていてミステリアスな感じにミスマッチしててキュンキュンする!


 ヤバい。何この知的かつワケあり系長身好青年ヤバい。ここは漫画の世界ですか? 少女漫画の世界から飛び出してきちゃったんですか? 


 てか先輩にこの服選んだあたしさすが! 褒めてあげたいよあたしっ!


 って、自画自賛していたら先輩が今のあたしみたいに顔を真っ赤にしながら固まってるのに気が付いた。


 これは……悶えてる……? 


 そうだっ! 先輩を悶えさせるって決めたじゃんあたし! 


 ここはかっこいいの一言でも言ってさらに先輩を悶えさせるのも……。


 そう思って口を開こうとして……先に声を出したのは先輩だった。


「その服……姫野の髪型に合ってて……ゆるふわな感じがかわいいね」


「……っ!!」


 ポッて感じに顔が熱くなってきて思わず屈みこみそうになる。


 だからその、たどたどしい感じに胸がやられそうになる……けど! 耐えた! 耐えたよあたし!


 次はあたしのターン! 


 じっと先輩の目をみて言う。


「せ、先輩の方こそルックスに似合いすぎててヤバいです……超かっこいいです」


「……っ⁉」


 先輩は手で口元を覆うようにして顔をそむけた。


 おっ? 悶えた⁉ 悶えたよね先輩っ⁉ これはあたしの勝——。


「ろ、露出した肩とかに男心がくすぐられて……すごくグッとくきて、守ってあげたくなる」


「——⁉」


 これにはもう、あたしも顔を背けずにはいられなかった。


 無理! こんなの無理だよ! 守られてあげられたくなっちゃうよ!


 くっ……先輩め、悶えたのに負けを認めないなんて、なんて強情な……しかも、カウンターをしてくる始末。


 こうなったらあたしだって!


「その……先輩だってあふれ出す色気が隠しきれてません、すごくキュンキュンして思わず女なのに襲いたくなっちゃいます」


「——⁉」


 むふ~、照れてる照れてる! 顔真っ赤にして、先輩もしかして結構ピュア?


 ってか、あたしさっきかなりアブナイこと言った気が……。


 まぁいっか、これできっと先輩も負けを認め——。


「照れてる姫野が可愛すぎてますます好きになりそう」


「~~~~~⁉」


 待って……待って待って! 


 こんなん…………悶えるなって言う方が、


「……無理だよ」


 ていうか、もう服関係ないじゃん! こんなのずるだよ! ずるずる!


 ……こうなったらあたしだって……昨日あたしが想いを告げた時先輩がめっちゃ照れてたの覚えてるんですからね!


「あたしだって今日、先輩と一緒にいる分だけ————」


 その後に続く言葉は背けてた顔を上げて出てこなかった。


 だって、


「あれがバカップルってやつか」「フュ~! 熱いねぇ~!」「ママー! 二人とも顔真っ赤ー!」「あらあら、見ちゃだめよ? あなたにはまだ早いわ。でも、初々しいわねぇ~」


 なんか、いつの間にか注目されてるんだもん。


 こ、こんなの公開告白と一緒じゃんっ! 


 え? 待って、いつからこんなに見られてたの⁉


「…………せ、先輩……もうあたしの負けでいいので、この服買いに行きましょう」


「う、うん。そうだね……」


 流石の先輩もこれには応えたのか顔を真っ赤にしながらそそくさとその場を後にした。


 でも、あたしは見た。


 最後に先輩がちょっと勝ち誇ったようにニヤッて笑ったのを。


 あれ、絶対確信犯だ! 先輩周りに人がいるの絶対分かってた! イジワルすぎる!


 だからあたしはちょっと涙目になりながらキッ! って睨み返して誓うのだ。


 いつか絶対この日の借りを返してやる!


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