第5話 先輩と服選び



 そういえば先輩、鎧の下に何着てるんだろう? 


 というか、世間一般的に鎧の下に何着るの?


 ……いや、そもそも今の時代の世間一般的に、外に出るのに鎧なんて格好をする人がいないか。


 ちょっと調べてみよ。


 そう思ってスマホでポチポチ調べてると、トイレから少し慌てた感じの先輩が出てきた。


 キョロキョロと見まわしてあたしを見つけるとやや駆け足でやって来る。


 なんか、ちょっと小動物チックでカワイイ。


「どうしたんですか? ちょっと慌ててるみたいですけど」


「あぁ、大事なことを言い忘れてたの思い出して」


「大事なことですか?」


 先輩はそう言って、一瞬あたしの身体に視線を落とすと。


「えっと……すごく、いいと思う」


「へ?」


「今日のその服装……姫野によく似合ってて、可愛いなって」


 ちょっとたどたどしい感じでそんなことを言ってきた。


 最初は何を言ってるのか分からなかったけど、その言葉の意味を脳が理解したとき、一気に体温が上がるのを感じた。


「と、ととととつぜんどうしたんですか先輩! いきなりそんなこと言って!」


 た、確かに褒められたいなぁって思ったりもしたけど、こんな不意打ちで来るなんて! 


 しかもしかも、なんか言葉にできないことを一生懸命に言うのとかキュンキュン来るんですけど!


「いや、向こうにいた時に女の子がオシャレしてきた時は褒めるのが常識だって教えてもらってな」


「へ、へぇー。確かにそうですけど…………不意打ちはやめてください」


「ん? ごめん最後のほう聞こえなかった」


「何でもないです!」


 そりゃあ、ぼそっと聞こえないように言ったんだから聞こえませんよ。


「でも、ありがとうございます! 先輩に褒めてもらえるなら今日バッチリ決めてきた甲斐がありました!」


 で、その先輩は鎧の下に何を着ていたのかというと。


「なるほど、ジャージですか~。くさりなんたらじゃないんです?」


「くさり……? あぁ、鎖帷子か。そんなのよく知ってるね」


 そりゃ、さっき調べましたから。


 もし、それ着て出てきたらまた悪目立ちするからトイレにUターンさせるつもりでした。


 でも、ジャージか~。


 まぁ、仕方ないか。脱ぐとは思ってなかったでしょうし。


「でも、これならこれで……よしっ、プラン変更で行きますよ先輩!」


「プラン変更?」


「はい、まずは先輩を仕立てにショッピングモールに行きましょう!」


 ここは臨機応変に、いきなり最初からとは思ってなかったけど、たぶん先輩はやらかすと思って昨日のうちに様々なシチュエーションを想定してたあたしに死角はないのです!


 首をかしげる先輩にサムズアップしてあたしはテンション高くショッピングモールに向かった。



 ■■



 駅前を集合場所にしててよかった~。


 こういう時そこそこ栄えた場所に住んでると便利でいい。


 駅の反対口にあるショッピングモールに入ったあたしたちは、先輩に似合いそうな服を探しつつ古着屋やメンズショップやらの服屋を片っ端から攻めていく。


 先輩は服のこととか良くわからないのか完全に着せ替え人形さんになってる。


「あ、先輩これなんてどうです? ちょっとこっち向いて……う~ん、違うかな? こっちは……」


「………」


「先輩? どうしました? あ、それ気にいったとか?」


 先輩はあたしが持ってきた一枚をじーっと見てて声をかけてみると。


「……薄いかな」


「薄い? 生地のことです? 結構しっかりしてると思いますけど」


「…………いや、防御力が絶望的過ぎる」


「へぇ~防御力が……防御力? どういう基準ですかそれ……あ、ならこれはどうです? チェーンが付いてて強そうですけど」


「…………あんまり変わらない、誤差の範囲だし俺が着たら破けると思う」


「破けるっ⁉ 先輩いったいどんな体してるんですか……。じゃあ、これはどうですか? ちょっと値が張りますけどスローファッションに向いてますよ」


「…………ダメ。これなら着ない方がマシかな」


「まさかの全裸宣言ですかっ⁉ あははっ、先輩面白すぎ! ……絶対やめてくださいよ、それもう冗談じゃすまないですから」


 そんな感じにくだらないこととかを話しながら先輩と服選び。


 先輩、服とか興味無さそうだからこうやって連れまわしたりするの嫌がられないか不安だったけど、全然そんなこと無さそうだし、というより結構乗り気で着てくれるから色んな先輩の格好が見れて楽しい! 


 何より、こうやって一緒に買い物できるのがたまらなく嬉しい!


「んー、そうだなー……ちょっと待ってて」


「あ、はい」


 先輩は当然そう言うと、お店の奥の方に行った。


「どうしたんだろう? お手洗いかな? まぁ、二年前から先輩が突発的な行動することが多かったけど……あ、これなんてめっちゃ先輩に似合いそう!」


 先輩が帰ってくるのを待ちながら服を続けて物色してると先輩に似合いそうなシャツを見つけた。


 先輩は高身長で細身で好青年だからこういう清潔感のあるヤツがよく似合いそう! 


 それから二〇分くらい経って、そのシャツに合うようなジーンズとジャケットを見つけて、ほくほく顔してたけど。


「流石に先輩遅すぎない……?」


 ちょっと先輩の服選びに夢中になって気にしてなかったけど今になって先輩は一人にさせるのは危険なことを思いだした。


 ジャージっていう普通な格好になったから悪目立ちはしてないと思うけど……いや、アレ先輩は常識的な服を着た非常識な存在、きっとどこかでまたトラブってるに決まってる。


「一人にさせるべきじゃなかったか……」


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