第4話 先輩と待ち合わせ



 翌日、昨日からちょっと……いや、かなり先輩とのデートが楽しみにしてたあたしは待ち合わせ場所の駅前広場に一時間も早く来てしまった。


「……我ながら浮かれすぎてる」


 目覚ましセットしたアラームより早く起きて、髪もネイルもメイクもバッチリ、今日の天候や行くかもしれない場所を思い浮かべて選考し、選びに選び抜いたデートスタイルのオシャレコーデもした。


 正直、こんなに気合入れてオシャレをしたのは初めてかも。


 それでも時間は余っちゃって家でじっとしてたら、なんかウズウズドキドキして気が付いたらここに。


 なにかして時間を潰そうと思ったあたしはスマホを開いて、ちょっと不安になる。


 というのも昨日先輩に言った通り集合時間をメッセで送ったんだけど、それが未だに既読が付いてなくて。


 何度メッセ送ったり電話もしてみたのだけど、それにも反応が無くてモヤモヤする。


 もしかしたら気が付いてないだけなのかもしれないし、二〇年ぶりで使い方が分からないのかもしれない、それならまだいい。


 もしも……もしもまた、先輩がどこかに行っちゃってたりしたら……。


「もう一回電話をかけてみよう……」


 この不安を物色するために、先輩にコールしてスピーカを耳に当てる。


 ……あたしは自分が思ってるより、すごく焦ってたのかもしれない。


 だから、なんかやたらと周りで「なんだあれ?」「コスプレか?」「おかーさん、なんかいるー!」「しっ! いい子は見ちゃいけません!」ってざわついてるのに気が付かなくて。


「……もう、先輩なんででないんですか」


「ん? 俺ならここにいるけど?」


「ぅえっ⁉⁉ あっ……」


 いきなり隣から先輩の声が聞こえてきてびっくりしすぎて手からスマホを落としてしまう。


「ほい、気を付けないと壊れるよ」


「あ……りがと、ございま……す?」


 手から零れ落ちたスマホを先輩が触れることなく指をむけただけで、たぶん魔法で? ひろってくれたからお礼がだいぶ変になっちゃった。


 ……いや、もちろんその不思議キャッチもあるんだけど、それ以上にあたしを挙動不審にさせたのは先輩自身で。


「先輩? えーと、その格好なんです?」


 先輩の格好は一言で言うと『鎧』。


 二言目を言うなら『ファンタシ~』って感じ。


 先輩、めっちゃ独特なコーデをバッチリ決めてますね!


 ……そっか~、先輩初めからぶっ飛ばしてくるなぁ~、そういえば今日は先輩に常識を教えるっていう建前だったっけ、デートの方に浮かれすぎててすっかり忘れてたよ。


 あちゃ~っとあたしが頭を抱えてると、先輩はしれっと、なんだかちょっとドヤ顔で言った。


「これは神具って言われる向こうの世界でも五本の指に入るであろう最強の装備の一つだよ。なんとびっくりドラゴンのブレスだって耐えるんだよ!」


 おお~、先輩テンション高めだなぁ~、もしかしたら浮かれてるあたしだけじゃなくて先輩もだったりして。


 それならとっても嬉しいですけれども……。


「……なるほどなるほど、それはすごいですけど……なんで、そんなすごいのを普通のデートに着てきちゃったんです?」


「そりゃあ、姫野が昨日気合いれてきてこいって」


「……確かに言いましたけども」


 先輩がちょっと誇らしげなのもキュンときますけども。


「先輩はデートで一狩り行くつもりだったんですかっ⁉」


「ん? 何言ってんの? こっちに一狩りするようなモンスターなんていないんでしょ?」


 ちぐはぐ! ちぐはぐだよ先輩! 異世界の常識とこっちの常識が混じっちゃってるよ!


 っと、そこであたしの必死な様子に先輩は気が付いたのか、


「……もしかして、また何か違ってた?」


「……え~と、もう何が違うのかもわからないくらい違っちゃってますね」


「そうなのか……悪い」


 先輩はしゅんと縮こまるようにして小さくなった……物理的に。


 え? なんか先輩の身長小っちゃくなって——。


「だあぁぁ! 先輩なんか沈んでますよ⁉」


 なんかよく見ると、先輩の足元が黒く影になっていて、そこに先輩が沈んでた。


「あぁ……ちょっと出直してくる」


「ストップ! ストーップ! ダメだから! こんな公衆の面前でやっちゃダメ!」


 あたしは地面に沈んでいく先輩を必死に引っ張って引きずり出す。


 い、今のもし誰かに見られたりしてたら……。


 そこであたしは周りがちょっと騒がしいことに気が付いた。


「こ、こんなとこで何をやろうとしてんだ?」「あの鎧はいったい何に使おうってんだ……」「ママー、あの二人何しようとしてるのー?」「こらっ! いい子は見ちゃいけません!」


 見られてる! 超見られてるよ! 


 と、とにかく先輩の鎧をなんとかしなきゃ、悪目立ちしすぎる。


「先輩、とりあえずその鎧を脱ぎましょう。目立ちすぎてヤバいです」


 未だちょっと凹み気味の先輩に口を寄せて言う。


「そうだな……悪い、今すぐに——」


 そう言った先輩が手を打ち合わせようとしたのであたしは慌てて止めた。


 だって絶対ありえない普通じゃない方法で脱ごうとしてたし。


「待て!」


「はい」


「お手! じゃなかった、ここではだめです! 向こうの方で脱ぎましょう! あっ……」


 思わず流れで大きな声を出しちゃったせいで、


「待て? お手? ……あれがSMってやつか?」「鎧、脱ぐらしいぞ!」「ママー!」「見ちゃいけません!」


 ……だよね! そうなるよね! めっちゃ見られてるもんね!


「先輩! とりあえずこっちです!」


 あたしは強引に先輩の腕を引っ張って、周囲の目を気にしつつ公衆男子トイレの方に誘導する。


「お着替えはトイレの方でお願いします」


「わかった」


 素直にトイレに入ってく先輩を見ながら、あたしは息を吐いて落ち着かせる。


「ふぅ……先輩、最初からアクセル全開すぎる……」


 ……ちょっと甘く見すぎてた。


 昨日もちょっとやばい感じだったけど、完全に忘れてるって訳じゃなかったし、少し矯正してあげれば大丈夫かなって、思ってたんだけど……。


「これは気合いを入れていかないといけないや」


 ペシッとほっぺを叩いて気持ちを入れ直したあたしは、


「うぇっ!? 鎧!?」「パンッ!」「はぁっ!? 消えたっ!?」


 男子トイレから聞こえてきたその声に頭を抱えた。


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