第3話 先輩と常識の欠如 2

 


 それからあたしたちは病院を出て、もうすっかり陽も落ちて暗くなった夜空の下、帰路につく。


 どうやら先輩はあたしを送ってくれるみたいで、あたしの家の方向へ歩き出した。


 先輩の隣を歩く二年ぶりの帰り道。


 周りには人っ子ひとりいなくてあたしと先輩だけの足音が聞こえる。


「「…………」」


 ほんとは二年間のあいだにあった色々なことを話したいって思ってたんだけど、こうやって静かに確かに隣にいる先輩の存在感を感じながら歩くのも悪くなくて。


 それに二年ぶり……じゃなかった先輩にとっては二〇年ぶりの日本はやっぱり色々と気になるのか、きょろきょろと辺りを見回してる先輩を眺めてるのなんかいい。


 ……って、油断してたからかな。


 いきなり先輩は思いっきりやらかしてくれた。


「うーん、暗いな。これじゃあ、いつどこから危険が迫って来るかわからん」


 そんなことを言って先輩は指をパチンと鳴らす。


 その瞬間、先輩の目の前に光の球? みたいのが現れて辺りをピカッと照らした。


「よしっ」


『よしっ』っとか、口にしちゃう先輩可愛いけど! そうじゃなくて!


「先輩! ちょっと待ってください!」


「ん?」


「『ん?』じゃなくて! なんですかそれ!」


 あたしはピシッとその光の球? を指さしてそう言うと、なぜか先輩はちょっとドヤァ顔をした。


 え、なんで?


「暗い場所はいつどんな危険があるかわからないから、明るく照らしておくのは常識だろう」


「いやまぁ、そうですけどっ! そうじゃなくてっ! あたしが言ってるのはこれですこれ!」


「……あぁ、これは<ライト>の魔法で、夜に暗い時や洞窟探索するときには便利な——」


「やっぱり魔法じゃないですか! その時点で非常識ですよ! 非・常・識!」


 そうちょっと強めに非常識なのを強めに言うと先輩は『えぇ⁉』みたいな顔になった。


「……日本って、魔法ないの?」


「………ありませんよ」


 これにはさすがのあたしも驚きを隠せないよ!


 ていうか、今時『魔法ないの?』なーんて幼稚園児でも言わないんじゃ……。


「……ぷっ!」


 あ、やばい、思い返したらツボに来たかも。


「あははははっ、魔法ないのって! 先輩の歳で魔法っ……! お、おかしすぎ! さっきの先生の悲鳴よりも……お、思い出したらまた笑えてきた……あははははっ! はぁ~~、お腹痛い……」


 はぁ~、もう無理。


 なんか、二年間分笑ったかも。


 そう思って先輩をを見ると、なんかすっごい穏やかに微笑んでた。


「……先輩?」


「ん? あぁ、さっきも思ったけど、また姫野の笑う姿がみれて嬉しく思って」


「……っ!」


 それは……。


 そういうのは、ちょっと……。


「…………ずるい」


 ポッと顔が熱くなってくのを感じる。


 く、暗いから顔赤いのバレてない……よね?


「姫野?」


「な、なんでもないです! と、とにかくそれは消してください。誰かに見られたりしたら都市伝説とかになっちゃうますよ。それに暗闇からいきなりモンスターなんて出てこないですから、そんな明るくなくても大丈夫です」


「うーん、姫野がそう言うなら」


 先輩はそう言うと、パンって手を叩いた。


 それだけで光の球が消えてまた辺りに暗くなる。


 ほんと、何度見ても不思議だけど先輩まじで魔法が使えるんだなぁ。


 それからあたしたちはこの二年間で変わったこととか、逆に二年前の時の話をしたり、先輩に異世界のことを聞いてみたら、なぜか先輩が悟り開いちゃった感じになったりと、他愛ないことを話し合いながら無事に……無事に? いや、全然無事じゃなかったよーな……。


「先輩、実はまだ入院していたほうがよかったんじゃないです? 病名は、常識欠如病みたいなので」


「うっ……。二〇年って長いなぁ……」


 ……また先輩が悟り開いたみたいになっちゃった。


 がっくりとベンチに項垂れてる先輩。


 なんで先輩がこうなっちゃたのかというと……今ここはあたしの家の近くの公園なんだけど、ここに来るまでに色々やらかしちゃったわけです。


 それはもう、盛大に。


 例えば、交差点のところで信号機は分かってたのに色の意味を忘れてたみたいで、赤信号で渡ろうとしちゃったり。


 その時運悪く車が通ってクラクション鳴らされたんだけど、それを威嚇と勘違いした先輩がファインティングポーズ? して立ち向かおうとしたり。


 道の脇に酔いつぶれてる帰宅途中のサラリーマンさんがいて、相当飲んでたみたいでその人が倒れちゃったんだけどそれを見た先輩が『……! 状態異常か⁉』って言って、やばって思ったあたしが止める前に『今助けてやるからな! <キュアー>!』って感じで魔法使っちゃったり。


 それからもう定番になりつつある先輩の後ろに立たれて超反応が七回と、途中に一軒だけあったコンビニの自動ドアに反応しちゃったのが一回。


 なんでも夜とか暗いところだと明るい時より感覚が機敏になっちゃうらしい。


 それでこんな感じに落ち込んじゃったわけです。


 う~ん、どうにかして励ましてあげたいけど今回ばかりはやらかしすぎててあたしもフォローしきれない……。


「あ、そうだ」


 いいこと思いついた! 


 せっかく先輩の彼女になったんだしね!


「先輩、元気出してください!」


「姫野……?」


「大丈夫です、先輩が慣れるまであたしが教えてあげますから」


「……それは、助かる。ありがとう」


 先輩は一瞬きょとんとして、嬉しそうにそうにした。


 うん、先輩が嬉しそうであたしも嬉しい。


「そ、それでですね!」


 しどろもどろになりながらもあたしは本題を口にする。


「さっそくって感じに明日学校休みですしデートしませんか!」


「……デート?」


「はいっ! その常識を教えるなら実践あるのみだと思いますし、先輩も二年ぶりだから久しぶりに街とか気になると思いますし、せっかく彼女になったんですし」


 ちょっとテンパりすぎて早口でおっきな声になっちゃった! 


 ていうか常識教えるなら実践ってどゆこと? って感じだし。


 こ、こんなの絶対引かれちゃうよぅ。


 先輩、あっけにとられた様子だし……。


「………先輩もあたしとデートしたくないですか?」


 それでももう勢いで止まれないあたしは最後まで言って、不安に思いながら恐る恐る先輩を見ると、


「したい。俺も、姫野とデート」


 そう言ってあたしにニコッと笑った。


「~~~~!」


 ……無理、もう、さすがに、悶え死ぬ。


 二年ぶりの先輩の笑顔は強烈で関係が深まった今だとそれをすごく感じる……だってかっこいいんだもん。


 あたしはバッ! と、勢いよく後ろを向いて早口で、


「じゃ、じゃあそういうことで決まりです! 明日、駅前に集合しましょう! 時間はあとでメッセで送っておきますから! それじゃそゆことで!」


「姫野?」


「お、女の子は準備に時間がかかるから明日の準備は今日中にやらないとなんですよ! だから今日はここで解散! 先輩も明日は気合いれてきてくださいね!」


 にやけそうになる顔を先輩から必死に隠しながら、早足に公園を出る……と、その前に。


「せんぱーい! また明日! 先輩もまっすぐ家に帰ってくださいね!」


 未だあたしの挙動不審に茫然としてた先輩に向かって大きく手を振る。


 それに気づいた先輩も軽く手を振り返してくれた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます