First Memory 先輩と初デート

第2話 先輩と常識の欠如

 


「いや~、先輩。検査中何やったんですか?」


「うん? 別に普通にしてただけだけど」


「……普通にしてたら普通あんな風にならなくないです?」


 あたしが遠巻きにこっちを見てる先生や看護師やらに視線を向けると、彼ら彼女らは分かりやすく挙動不審になる。


 検査中の先輩が何かやらかしたらしい。本人自覚無いけど、明らかに先輩に怯えてるし、なんていうか非現実に向けるような視線を向けてる。


 あの後、先輩の病室で二人で悶絶してると閉院を伝えに来たらしい看護師さんが来て、目を覚ました先輩を見つけてお医者さんを呼び、急遽先輩の身体検査とか健康診断をすることになった。


 結果はというと二年間眠ってたのが嘘なんじゃないかっていうくらい健康であっさりと退院が決まってしまった。


 荷造り……するほど物も無かったので、着替えたらもう夜だし即帰宅ってなって、今は書類関係が出来上がるのを誰もいない二人だけの待合室で待ってる。


 そう、二人きり、先輩と。


 数時間前までずっと寝たきりだった先輩が、すぐこそで元気そうにしてる。


 しかもしかも、あたしの彼氏になって。


 曖昧だった関係が明確に恋人になった。


 それがたまらなく嬉しくて、今が夢なんじゃないかって思えてくる。


 夢なら覚めないで欲しいな~、なんて思いながら先輩を見てると、顔を上げた先輩と目が合った。


 そのままニコッと笑いかけてきて、


「姫野がなんだか幸せそうで、俺も嬉しい」


「……っ!」


 思わず、バッ! っと下を向く。


 な、なにいまの! 


 あんな爽やかに笑みを向けられると、直視できないよ!


 先輩、あたしを殺す気か!


 にやけてしまいそうになる顔を必死に隠してると、足音が聞こえてきて先輩の後ろから書類を持った先生がやって来るのが見えた。


 これ幸いと、にやけ面を見られないように先輩に先生がやってきたのを教えようとして。


「え?」


 先輩が消えた。


「うわぁ!」


 と、思ったら先生の悲鳴が聞こえてきて、そっちを向くと尻もちをついた先生と、いつの間にそこに移動したのか先輩がいた。


「あぁ、すまない。後ろに立たれるとつい、な」


「ひ、ひぇぇぇええええ!」


 先生が走って逃げて行って、罰が悪そうな顔をした先輩がそこに残されてた。


 先生が放り投げた書類だけがひらひらと舞う。


 先輩はそれを拾い上げて、あたしの方に戻ってくると、


「じゃ、帰るか」


 何事もなかったかのように自然と歩き出すものだから。


「いやいやいや! なんですか今の!」


 あたしは思わずツッコんでた。


 って言うか、ツッコミどころ多すぎてどこからツッコんでいいかわかんないよ!


「あー、さっきも言った通り後ろから近づかれると、考えるよりも早く反射的に身体が動いちゃって……」


 そう言い訳? をしてる先輩を見て、あたしはピンッ! ときた。


「先輩もしかして、検査とか受けてるときも今みたいなことしてたんですか?」


 あたしの言葉を聞いた先輩はごまかすようにフイッと明後日の方を向いた。


 なにその反応、ちょっとかわいい。


 でも、あ~、これはやってたんだ……。


 そりゃあ、看護師さんたちも怖がるよね、うん。


 まぁ、それも仕方ないかもだけれど。


 先輩が言うには起き上がるさっきまで本当に異世界にいたらしい。


 なんか精神? だけ飛ばして異世界に行っていたとかで、先輩の中では二年じゃなくて二〇年経ってるとかなんとか。


 それで、その影響がこっちに帰ってきてからもめっちゃ出てるみたい。


 だから、まぁ、慣れるまではしょうがないよね。


 てか、さっきの先生の声よ。


 ひ、ひぇぇぇええええ! って!


 やば、思い出したらなんか笑えてきた。


「ひぇぇぇええって……! 先輩聞いてました? あははははっ! ——むぐぅっ⁉」


「しっ」


 思わず爆笑しちゃったあたしの口を突然身を乗り出して凛々しい表情になった先輩にふさがれてた。


 なんか後ろから抱きしめられた形になって、耳元で囁かれて、それだけならドキドキするだけなんだけど、先輩は反対の手でなにもないとこからファンタジーな感じの全力銃刀法違反の刃物を取り出して構えてて。


 自動ドアのウィーンっていう開閉音が静かにこだまする。


 しばらく自動ドアをじっと見てた先輩は、しばらくしてからやっと手をはなしてくれた。


「……襲撃じゃなかったか」


「……いやいやいや! 『襲撃じゃなかったか』じゃなくて! なんですかそれ!」


「ん? これか? これは、なかなか使い勝手が良くてね。魔力伝導率もよくて、緊急時には結構重宝してるんだよ」


「……ちょっと何言ってるかわからないですけど、とりあえずしまってください」


「わかった」


 先輩は素直に頷くと、そのナイフみたいのを手放す。


 先輩の手から離れたナイフはそのまま落ちて行って、地面に当たる寸前にスッと溶けるように消えていった。


 え、なにいまのすご……じゃなくて!  


 あたしは先輩にジトーッとした目を向ける。


「先輩、今思ったんですけど、こっちの世界の常識が欠如してません?」


「いや、そんなことないと思う……よ? さっきのはたまたま……」


「……分かりました。いまはそういうことにしておきましょう」


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