異世界から帰ってきた先輩のカノジョになりました!

しゅん

プロローグ

第1話 先輩とあたし

 


「ユナ~、もう帰るの~?」


「あ~、今日はちょっと用事があるから、バイバイ!」


 緩く手を振ってからあたし——姫野優凪ひめの ゆなはそそくさと放課後の教室を後にする。


 別になにかやましいことがあるわけじゃないよ? 


 ただ、これから行く場所が病院だから、なんていうか心配かけちゃいそうじゃん。「え? どこか身体悪いの⁉」って。


 だからそれをしに行くときはこっそりしに行く。


 ……っていうのはちょっとした言い訳。


 本当は誰かに先輩の話をしたくない……んだと思う。自分でも良くわかんないや。


 先輩って言うのは、あたしと同じ学校の二つ年上の先輩。


 名前は長谷川陽詩はせがわ ひなた先輩。名前聞いたとき、可愛いなって思ったのは秘密。


 出会ったのはあたしが中一で、先輩が中三の時。どんな出会いだったのかは覚えてないけど、あんまりいい出会いではなかった気がする。


 けど、あたしたちの学校は中高一貫校で、知り合ってからは一緒にお弁当食べたり、一緒に帰ったこともあった。あとは勉強教えてもらったり、割とたくさんの時間を一緒に過ごしてた。気づいたら自然と隣に先輩がいた。


 だから、先輩とはどういう関係かって聞かれるとちょっと困る。


 ただの先輩後輩っていのはなんか悲しいし、恋人っていうわけでもない。友達っていうのはなんか違う気がするし、自分でも良くわからないっていうのが本音。


「あたしは先輩のなんなんですか?」


 そう、ベッドの上でずーっと眠ってる陽詩先輩につぶやく。


 あー、今のはなんかめんどくさい女って感じがしてやだな。言って後悔。


 でも、意識の無い先輩から返事が返ってくることはなく、それがちょっと虚しい。まぁ、もう慣れたけれど。


 ここで最初に戻ってくる。あたしの行先は病院で、理由は先輩のお見舞いで、何をしているのかというと先輩のベッドのそばのパイプ椅子に座って眠る先輩をじっと眺めてるだけ。


 二年間眠り続ける先輩を。


 ……自分で言うのもなんだけど、あたしちょっとヤバい奴だよね。


 家族でも、ましてや恋人でもないのに二年間も通い続けてるなんて。


 前に待合室で運悪くも友達と出会っちゃったことがあって、そうなれば当然のようにここにいる理由を質問される。それに濁しつつも答えてると、「どうしてそんなことしてるの?」って最後に聞かれたんだけど、その言葉が思った以上に自分に響いたのを今でも覚えてる。


 まぁ、その後になんて言ってごまかしたかはその言葉に動揺して全く覚えてないんだけど。


「どうしてこんなことしてるんでしょうねー? 先輩?」


 やっぱり返事が返ってくることはない。


 自分なりにその理由を考えてみたけれど、これだ! っていう理由は見つからなかった。それでも強いて理由を言うならば、


「やっぱり先輩のせいですよ……?」


 あたしは先輩が意識を失った時に立ち会ってたりする。というか、二年前に目の前で突然倒れた先輩に救急車を呼んだのはあたしだし、その時かなり取り乱して少し……いや結構大泣きしたのもあたしだったりする。


 で、なんで先輩のせいかって言うと、倒れる寸前の先輩が忘れられないから。


 あの時の先輩はあたしに何かを言おうとしてた。あたしの目をしっかりと見て、真剣な表情で。


 だから、先輩が何を言おうとしたのかが気になって気になって……いつの間にか、こんなに時間が経ってた。


「……もぉ〜先輩、いつになったら目を覚ますんですか」


『陽詩』って、なんだかとっても暖かい名前なのに、青白く痩せ細った頬をツンツンとつついてみる。


 こんなイタズラしてるのに先輩は起きることは無い。というか、今の先輩だとイタズラし放題なのでは⁉


 そんなこんなしてると窓から差し込む太陽は夕陽に変わってて、院内に閉院の音楽が鳴り始める。


「あれ? もう?」


 ここに来ると時間の経過が早く感じるのは気の所為なのかな?


 まぁ、いいか。あたしもそろそろ帰る準備をしよう。


 といっても特にすることなんてないけど。椅子を畳んで、軽く先輩の布団をかけ直して、外に出る前に鏡で身だしなみをチェックする。


 そうして、最後に先輩のそばに駆け寄って、


「それじゃあ先輩、また来ますね。次来る時はちゃんと起きて下さいよ」


 そう声をかけてから帰ろうと——。



「……………ひめ、の……」



「はいはい、あたしならここにいま、す……よ?……ぇ……」


 ふと、あたしの名前が聞こえて反射的に答えちゃったけど……いま…………。


「……姫野?」


 ちゃんと言ってる……目が、開いてる……つまり、だから……。


「え……、え……? …………ちょっ、看護師さ——」


 叫ぶのを途中で止めたのは、起き上がった先輩に手を掴まれたから。


 ガシッと力強く掴まれて、おっきくて暖かくて、不覚にもドキッとした。


「ていうか、力つよ……二年間寝たきりでいきなりこんな……って、えぇっ⁉」


 改めて先輩を見てあたしは驚愕の声をあげた。


 だって……だって、さっきまでガリガリの骨格標本か! って、思ってた先輩が二年前の姿になってて……。


 そんなあたしの驚愕を他所に、先輩は自分の身体を触ったり、病室や窓の外を見回しながら、


「えっと……ここは日本で合ってるか?」


 そんなトンチンカンなことを聞いてきた。


「は、はい……合ってます……よ?」


「それにしては、姫野は若々しくないか……?」


「そ、そりゃあ高校一年生の花のJKですし……」


「こう……いち⁉」


 いや、なんでそこでびっくりするし。


「そう言えばさっき二年って……俺が異世界にいたのは二〇年だったはず……ここは、過去……? あぁ、そっか確かあの人が言うには……」


「んんっ⁉」


 今度はあたしがびっくりする番……いや、ずっとビックリで今もパニック状態だけど。


 というか、異世界? 二〇年? 過去? 先輩何言って……。


「あぁ、そっか! これはあれだ」


 自分を落ち着かせるためにもあたしはポンッと手を打って古典的なリアクションをする。


「いきなり目覚めたから混乱してるやつだ……」


 そりゃそーだ、誰でも起きたら二年経ってましたってなったら混乱するに決まってる……って思ったんだけど、


「ん? いや、意識ははっきりしてるよ。身体のほうはなんか異常に重たいけど、これくらいなら魔法で……って、うぉ! ここ魔力の制御感覚がちがすぎっ」


 その時、先輩の手が光ったと思ったら浮いた。


 浮いたっていうか、飛んだっていうか、ひっくり返ったっていうか……。


 え? なにこれ? 先輩何してるの? 魔法? 魔力?


 あたしは更なる混乱の渦にいて……そんな中、先輩はというと、ゆっくりとその場に立ち上がって、


「お、おぉ? どう? これで身体の方も問題な……ぃいっ⁉」


「ちょっ、先輩⁉」


 いきなりくずおれた先輩に慌てて駆け寄るけど。


「だ、大丈夫……! ほら!」


 先輩は産まれたての子鹿みたいに足をプルプルさせながら立ち上がって、ちょっとぎこちない笑みを見せてきて。


 ………なんていうか。


 その、見覚えがある……ありすぎる、二年前の懐かしい姿に、もう二度と動くとは思ってなかった先輩に……。


 なんかもう、笑わずにはいられなかった。


「……ぷっ! あははははは! あはははははははは!」


 なんかもうどうでもいいやって。


 二年間とか、二〇年とか、異世界とか、魔法とか。


 そんなのはもうどうでもよくて、あたしはただただ先輩が……。


「ぜん——っぜん、変わってないですね! せん、ぱい……あれ?」


 おかしいな? 笑ってたのに、最後の方ちょっとかすれて、視界がじんわりと……。


「……ちょっ、待って……」


 嬉しいのに。


 嬉しいから。


 涙なんて見せたくなくて、慌てて後ろを向いたのに、先輩回り込んできて手をギュッと握ってくる。


 あっ……これじゃあ逃げられないし、だからそんないきなり手握られると……。


「姫野……聞いて欲しいことがある」


「せん……ぱい……?」


 霞む視界の中で先輩の真剣な表情が見える。それは二年前にも見た顔で。


「俺が異世界に飛ばされて……何度死にそうになったって、ここに戻ってこようと生き続けて来たのは、姫野に伝えたいことがあったから……」


 先輩はそこで一度言葉を区切ると、握られてる手を改めてギュッてしてきて。


 そうして、一言。



「俺は、姫野が好きだ」



 まっすぐにあたしの目を見て伝えてきた。


「好きで好きで、ただそれだけ。君に伝えたいために俺は戻ってきた」


 あたしは今どんな顔をしてるのだろう? 泣いてるかもしれないし、笑ってるかもしれないし、真剣な先輩の表情に見とれてるかもしれない。


 それが分からなくなるくらいあたしの内面はぐちゃぐちゃだ。


 嬉しいとか、恥ずかしいとか、幸せ~とか、そういうのがぐるぐるしてて、次の先輩の言葉にきっとあたしは……。


 ……って、今あたし、告白された……よね? そしたらそれに続く一言があるよね?


 なんか先輩、すっかりやり切った~みたいな顔してますけど。


「先輩先輩、今のは付き合うってことでいいんですか?」


「ん? 付き……合う……?」


 え? なんですか、そのコイツ何言ってんだ見たいな表情。


 ……あたし、なにか間違ってない、よね?


「あぁ、そっか! 伝えることしか考えてなかったから、その先を忘れてたや」


 え? なんじゃそりゃっ! 言いそうになったけど。


 笑顔の先輩を見て、あたしはキュッて胸が締め付けられる気持ちになった。


 なんていうか、こうやって笑う先輩がまたどこかに行っちゃうんじゃないかって。


 先輩がすごく儚い存在に見えて、もうそんなのは嫌だから。


 その声はほとんど無意識のうちに出てた。


 今、伝えなくちゃいけないと思ったから。


「先輩——」


 二年間の間ずっと病院に通って、先輩が目覚めるのを待って。


 どうしてこんなことを二年も続けてるのか自分でも不思議だったけど。


 先輩のせいじゃなんかじゃなくて、もしかしたらあたしは無意識のうちに気づいてた……それが今、分かった。



 ——あたしは、先輩が好きなんだ。



 だからずっとここに来てた。


 気づいてしまえば、なんて簡単なことなんだろう。


 それを、今度はあたしが先輩に伝える番。



「あたしは先輩が好きです。もう先輩と離れたくありません」



 先輩がもうどこにも行かないように、あたしが繋ぎ留めておくために。


 何よりも、あたしが先輩と一緒にいたいから。



「あたしと付き合ってください!」



 あ、ああああぁぁぁぁぁ! 言っちゃった! 言っちゃたよぅ!


 ギュッと目をつむって頭を下げる。


 告白なんて初めてしたから勝手がわかんない! 合ってる? 合ってるよねあたし⁉


 あたしの中でバクバクと心臓が大運動会している中、待てども暮らせども先輩からの返事が返ってこない。


 いや、実際はまだ一〇秒くらいだろうけど、あたしの中ではもう一〇分はたってるような感覚で。


 不安になったあたしは恐る恐る顔を上げて見ると……。


 そこには左手で顔を隠すようにした、真っ赤な顔の先輩がいた。


 え、何これカワイイ……。


 そう思ってぽ~っとしてると、


「えっと……その、よろ……しく」


 あたしの視線に気づいたのかぼそっとだけど、しっかり聞こえる声で返事をくれた。


「~~~~っ!!」


 そこから先は言葉にできないくらい幸せのぜっちょー過ぎてよく覚えてない。


 なんかあたしの声で看護師さんがやってきて、起きてる先輩を見てびっくりして悲鳴をあげながら先生呼びに行って、その後にいろんな検査を受けた先輩が特に身体の異常が見られないことにお医者さんたちが驚いたりもしてたけど、そんなことは全部置いておいて、今日一番に大事なことは、



 姫野優凪ひめの ゆな 高校一年生、一六歳 異世界帰りの彼氏ができました!


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