空に走る

狸屋ボビン

トンネルをぬけたさきにあるもの

空に溶けた ねずみ色の灰

あれから

降る雨どれも 味を感じない


ぼくはもうずっと このトンネルのなかを歩き続けている


ここをぬけたら どこに出るのだろう


藍染めイルカのいる水族館

それとも 栗の木がある公園

真っ白になって遊んだ スキー場

桜がきれいだった 虹がよく出るあの森

どれも つかさくんと何度も行った

思い出の場所だ


詞くんは 絵を描くのが好きだった

お話を作るのが好きなぼくに

いつか絵本を出したいね、と言ったんだ


コロン

ポケットからキャンディがこぼれた

それを 口にほうりこむ

しょっぱい これ 塩味だ


あーあ

ぼくはトンネルの出口でねそべった

あと三歩で外なのに

そこまでが とても遠い


三歩先の外の空を のぞきみる

空がみずみずしく輝いていた

詞くんは空を見るのが 好きだった


「こんにちは。

葵さんあてに、お手紙ですよ。」


その小麦色をした キツネは

口に何かを くわえている

真っ白な手紙に 藤色の切手がはられていた


「藤色の切手はお高いですよねえ。でも、追跡機能がついているので、心配性な方にはおすすめですよ。」


「きみは、誰。」


「いやだな、郵便屋ですよ。ああ、すみません。もうすぐ、なかまの嫁入りがあるんです。お賽銭はそのときでいいですよ。」


シュルン、と長いシッポがゆれた

キツネの郵便屋

長いことトンネルにいると ふしぎなことがあるもんだ


手紙の封を、カサリと切った

便箋も藤色 なんてきれいなんだろう


「葵くんへ


ここのひまわりはとてもきれいだよ

ぼくは、さっそく描いてみたんだ

とても うまく描けたよ


きみが今見ている花は、どんなだろう

きっと 美しいにちがいない

きみの書く物語はいつだって

きらきらと輝いているものね


詞より」


トンネルを 走りぬける

とてもまぶしかった

青空にかかる薄い雲が

刷毛でのばしたように ひろがっている

さらさらと降る雨が

黄金色のひまわりをぬらしていた


手紙にポツン、としずくがふれた

ぼくはあわてて それをポケットにしまう


コロン

ポケットから コインがころがった

ぼくはあわてて それをひろう


「葵さん。それ、お賽銭ですか。」


キツネの郵便屋

どうやら このコインは

彼のお賽銭ということらしい


「ああ、塩あめですか。

これは しょっぱいなあ。」


キツネは ぼくの目じりを

ぺろりとなめてから

後生大事そうに コインをうけとった


「これで ご祝儀をおくれますよ。ありがたや、ありがたや。」


あたりのひまわりが

太陽の光にてらされて

ゆらゆらと ほのおのようにゆれている


「勘定は、ぴったりだ。たしかにお届けしましたよ。」


「郵便屋さん。詞くんに、お手紙をありがとうとお伝え下さい。」


「あらあら、どうして。ご自分で伝えては。盆はまだまだ、これからですよ。」


だいだい色のひまわりがゆれて

しとしと降る雨が

景色をぬらした


ぼくは鉛筆を手に

藤色の便箋をうらがえした

大きな栗の木を傘に

芯がつきるまで


ひまわりが 燃えている

それはぼくの魂を あたたかくてらした

詞の声は 今でも

空からさらさらと聞こえている


やがて空が 晴れていく

音は しずかにやんでいく

ぼくの手には 鉛筆がにぎられている






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空に走る 狸屋ボビン @kihiru

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