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結局、一睡も出来ないまま朝を迎えた俺は、翔真さんが干しておいてくれた自分のTシャツとハーフパンツに着替えた。


まだ少し湿ってるけど、きっとすぐ乾く。


だって窓の外には、昨日までの雨が噓のように澄みんだ青空が広がってるから…


そして、きっと俺のために用意してくれていたんだろうメモ用紙の束とペンを手に取った。


書きたい言葉は決まってるから、ペンを握った手は驚く程スムーズに動いて…


俺は、一番上の一枚だけを切り離すと、涙の跡が滲んだ枕の上にそっと置いた。


なるべく音を立てないようリビングのドアを開け、ソファーの上で身体を丸くして寝息を立てる翔真さんの姿を確認してから、足音を立てないよう、静かに翔真さんの部屋を出た。


泣いちゃいけない…


そう思えば思う程、胸の奥が詰まったようになって、エレベーターに乗り込んだ瞬間、俺は行先ボタンを押すこともせず、その場に蹲った。


翔真さんの部屋を出てからの俺は、自分がどこをどうやって歩いて来たのかもわからなくて…


ふと我に返って、そこが自分のアパートだって分かった瞬間、凄くホッとしたのを覚えている。


ただ自分の記憶がハッキリしてるのはそこまでで…

鉛のように重たい身体をベッドに投げ出し、微かに…だけどまだ和人の匂いが残ったタオルケットにすっぽり包まると、まるで吸い込まれるように深い眠りに落ちて行った。




次に俺が目を覚ましたのは、窓の外が真っ暗になった頃で…


バイトに行く時間をとうに過ぎていたことに慌てた俺は、翔真さんの部屋にあったのとは比べ物にならないくらい小さなベッドの上で、勢い良く身体を起こした。


でもすぐにベッドから転げ落ちた。


『腰、痛っ…てぇ…』


そんなに乱暴なことをされた覚えはないし、寧ろ凄く優しくして貰った筈なのに、身体への負担は相当なもんで…


これまで和人は勿論、こんな光景を目にしてきたから、ある程度は予想してたけど…まさかこれ程とは思ってなかった。


おまけに、床に落ちた拍子に、バイトは休みを取っていたことを思い出して…


『何やってんだろ、俺…』


俺は余計に自分が情けなくなった。


ベッドに戻るにも、身体を動かすことすら億劫で、再びタオルケットに包まると、そのまま床に丸まった。


『頭…痛てぇ…』


頭だけじゃない…、全身筋肉痛みたくなった身体は燃えるように熱くて…、なのに何故か寒気がして…


『やばいな…、熱かも…』


雨にも濡れてるし、翔真さんの部屋はエアコンガンガンに効かせてたし、思い当たる節はある。


俺は手だけを伸ばすと、テーブルの上に置いたスマホを手に取り、メールアプリを立ち上げた。


でもふと思う…


雅也さんは仕事中だし、潤一さんには頼りたくないし、翔真さんには…もう甘えられないし…


今の俺に頼れる人なんて、誰もいやしないんだ、って…

本当に一人ぼっちなんだ、て…





そしてその日の深夜…


俺は、俺が予想した通り、何年かぶりの高熱にうなされることになった。

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