第10話

「遅れた。ごめん」

「ん?いいよ、俺も今葉山と飯食うところだったし」


 今は昼休み、いつも通りクラスで昼飯を食べようと、陽一に声をかけたがどうやら用事があるらしく、少し席を外していた。

「何の用事?」

「また告白されて」

「断ったのか?」

「まあな。申し訳ないとは思ってるけど、中途半端な気持ちで付き合う方が、失礼だから」

「それはそうだな」


 中学の頃からもモテていたが、高校になっても健在らしい。

 後輩、同級生、先輩からほぼ毎日告白されているが、一度も付き合っているところを見たことがない。


「前から思ってたんですけど、澤井さんは誰とも付き合う予定はないんですか」

「まあ、そうだね」

「へぇー、何か理由でもあるのか?」

「ま、まあ。何て言えば良いのか」

「別に無理して言う必要はないぞ」

「そうですよ。言いづらいなら大丈夫です」

 陽一は言うか迷っているのか、少し考えている。すると、決めたのか、

「分かった、二人には言うことにする。けど、周りに言わないでくれよ?」

「ああ、わかった」


 一つ深呼吸をして、落ち着く陽一。

「俺、好きな人がいるんだ」

「へぇー、そうだったのか。それなら誰とも付きあわない理由もはっきりしたな」

「良ければ協力しますよ?」

「それはありがたい申し出だけど、相手は俺を恋愛対象には見てないと思う」

「もしかしてだけど、幼馴染み、とかか?」

「お前良く分かったな!」

「確かに、関係は曖昧になりがちですよね」

「そうなんだよ!」


 陽一の幼馴染みか、今まで相手どころか、幼馴染みがいることすら知らなかったな。

「それで、その人の名前は?」

「……ここまで言ったなら言っても良いか。春風 亜希(はるかぜ あき)っていうんだけど」

「アキちゃんですか?!」

「葉山、知ってるの?」

「はい!私の親友です!」

 意外な繋がりがあったな。まとめると陽一の幼馴染みの春風 亜希は、葉山の親友でもある。もしかしたら、手伝ってもらえるのかもしれないな。


「葉山さん、頼む!あいつが恋愛する気があるのかだけでも聞いてくれないか?!」

「それくらいなら全然大丈夫です!澤井さんには何度も助けられてきましたからね!」

「うまくいけばいいな」

「じゃあ、俺この後も用事があるから先に戻るな。葉山さん、ありがとう!」

「いえ、気にしないでください!」

 あんなにテンションが高い陽一久しぶりに見たな。それほど好きなんだろうな。


「春風さんってどんな人なんだ?」

「元気で優しくて、勉強は少し苦手なようですが、困っている人を放って置けない自慢の親友です!」

 葉山は嬉しそうに、友達の事を話している。

「恋愛方面の話しは聞く?」

「たくさんの人に告白されてはいるみたいですけど、私が知る限りは誰とも付き合っていないはずです」


 誰とも付き合っていない、ということは今は誰とも付き合う気がないのか、それとも好きな人がいるのか。

 どちらにしても、陽一にとっては不安要素しかないな。


「幼馴染みって曖昧な関係ですよね」

「そうだな。もしかしたら過去に結婚の約束してたのかもしれないしな」

「そうだったら良いんですけど、忘れている可能性もありますからね」

 長い付き合いというのは大きな信頼を生むものではあるが、その反対に、関係の変動が起こりづらいということでもある。

 今の関係に満足している人もいれば、陽一みたいに一つ先の関係を望むものもいる。

 俺もあいつには世話になっている部分も多くある。手伝える部分は手伝ってやりたい。


「じゃあ俺も手伝えることは手伝うかな」

「私もアキちゃんに聞いてみますね!」

 葉山は自分のクラスに戻っていくので、片付けをしている。

「じゃあまた後で」

 俺はそう言って頭を撫でる。相変わらずさらさらな髪だな。


「はい!また後で!」

 葉山は顔を赤くしながら、返事をした。

 何とかハッピーエンドに向かって、手伝うかと決めた、昼休みの一幕だった。





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