第6話

月曜の朝になって、いつも通りの電車に揺られ、いつも通りに社員証をかざして出社する。

正直土日はどこへも出かけず、いろんなことが手につかなかった。

挙句昨夜は部長とセックスする夢を明け方に見てそれで起きて、朝からシャワーを浴びることとなる始末。自己嫌悪感しかない。

むしろあの金曜の夜は夢だったんじゃ?と思いマッチングアプリを開くとやはりメッセージをやり取りした後がある。


というかあの時は動揺して考えられなかったけど、よくよく考えれば部長って俺のことどうも思ってないのではないか?

ストレス発散の一晩だけの相手、ということではないだろうか。

じゃなきゃあんなサービス……やば、仕事始まるのにこんなこと考えてたらやばい。

しかも顔合わせるのに…部長は俺と顔を合わせてもなんも感じないんだろうか。

いろいろな男をあんなエロい声で骨抜きにしてるのではと思うだけで苛々としてくるこの感情はなんなんだ。



「清水部長、おはようございます」

「おはよう」


びくっ、と大袈裟にその声に反応した。後輩の女子社員が挨拶をし、それに返したのは件の清水部長だ。

相変わらずイケメンだし、表情が涼やかで部署に、緊張感が漂う。


「お、おはようございます」

「ああ、朝比奈、おはよう」


あれー?やっぱ普通じゃん。ビビってた俺がなんか恥ずかしい。やっぱ部長はあの日のことを無しにしようとしてるんだ。俺ばっか気にしてたのか、なーんだ。


それならそうと、俺もきれいさっぱり忘れるのが礼儀だな。あの日はきっと部長も酔ってたんだよ、うん。そういうことにしよう。


それからも昼過ぎになってもいつもと変わらない職場の空気で、俺は心底ほっとしていた。部長が匿名で俺を上司のケツを掘る変態と広められたらもう社会的に死ぬしかないからだ。まあ部長はそんな陰湿なことしないだろうけど…


「部長、今日提出の決算書です」

「ああ、すまない、…っ、」

「ぶちょ…」


週明けに提出予定だった決算書を部長へ提出する際、手渡しで手が少し触れると…部長はその骨張った手を震わせ、首筋を僅かに染めて、俺の目を上目遣いで見たかと思えば…すぐにそらした。


「…あ、後で確認する、ご苦労だったな」

「い、いえ…アリガトウゴザイマス…」


え、待って。待ってくれ今の…

てか部長の手を見て、あれで俺のものをしごいてくれてたんだな、とかそんな余計な雑念が過ぎってしまい、下半身が熱くなった。


「ちょっとトイレ行ってきますっ」


若干裏返った声で俺はトイレに走った。

何あれ反則でしょうが。俺の上司が可愛すぎてしんどい。

今日はまだ月曜日。こんなことで忘れられるのか、と俺はトイレの個室で頭をまた抱えることになったのだ。

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