意外な繋がり
今日はイベント会場の運営会社に挨拶に来ていた。
仕事の話と少し雑談をし、俺と音水は応接室を出る。
そして人気のないイベント会場の廊下を二人並んで歩いていた。
「人のいないイベント会場って、怖いくらい寂しいですね」
「そうだな。当日は怖いくらいに賑わうのにな」
「人が集まらなくても怖いですけどね」
「ははっ。違いない」
冗談を聞いて笑ったのがめずらしかったのか、音水は俺の顔を覗き込むように見てきた。
「笹宮さん。この一年で表情が豊かになりましたね」
「そうか?」
「そうですよ。やっぱり結衣花ちゃんの影響ですね」
「あいつはどっちかっていうと無表情だぞ?」
「二人とも、影響し合ってるってことじゃないですか?」
そういうものだろうか。
言われて見れば、俺も結衣花もこの一年でかなり変わった方だと思う。
しかし音水がそこまで俺達のことを見ていたとは意外だ。
あれ? 音水ってそこまで結衣花と接点がなかったと思ったけど、いつのまに……。
女子って知らないうちに仲良くなったりするんだよな。
「それよりプロモーション動画、いい仕上がりでしたね」
「ああ。ブースデザインも予定より早くできたし、最高のコンディションで当日を迎えることができそうだ」
「新型AIを使ったらランキングシステムですか。改めて考えるとすごいことですよね」
「……まあな」
今回の次世代AI展で四季岡ファミリアが発表するランキングシステムは、かなりの注目を集めていた。
IT関連雑誌でも取り上げられ、この前はビジネスニュースでも特集を組まれていたくらいだ。
信憑性が高く、自分のライフスタイルに合わせたランキングが表示される。
「もしこれで多くのユーザーから認められれば、世界中の人がこのランキングを参考に商品を買うわけだ。すごいよ」
「ランキングシステムって言葉だけだと地味に見えちゃいますけどね」
「ふっ……。そうだな」
そうなんだよな。
もし今回の展示会でその実力が認められれば、世界中のネットユーザーの中心となるプラットフォームサイトを作ることだってできる。
極端な話だが、もしこれでビジネス展開が成功すれば、大手通販サイトですら頭が上がらなくなるほどだ。
それこそIT業界のヒエラルキーがひっくり返る。
だが、単純に『ランキングシステム』と言ってしまうと、そこまでの価値があるようには見えなかった。
しばらく歩いてイベント会場の外に出た時だった。
駐車場に向かおうとした時、ハキハキとした口調で俺達に声を掛けてくる女性がやってくる。
「よぉ! 笹宮! それに音水ちゃん!」
この声は間違いなく俺の元カノ・雪代だ。
振り向くと背は小さいがモデルのようなスレンダー美人がポケットに手をつっこんで歩いてきた。
せっかくの美人なのに、口角を上げて『にひっ!』と笑う雪代。
ほんと、もったいないよな。
「雪代……。おまえも挨拶に来たのか?」
「まぁね。今回の次世代AI展の全体の進行はうちらが請け負ってるからさ」
するともう一人の女性がこちらにむかって歩いて来る。
雪代とは対照的で背は高く、すらっとした体型でありながら凛とした雰囲気を身にまとっていた。
それは結衣花の母親、ゆかりさんだ。
「あら、笹宮君に音水さん。久しぶりね」
「ゆかりさんも来ていたんですか?」
「この前、ショッピングモールの春キャンペーンで仕事を手伝ったでしょ? その後、大手広告代理店の社長から頼み込まれて、この次世代AI展の仕事も手伝うことになったの」
ああ、この前の春キャンペーン対決の時か。
そういえば、大手広告代理店の社長って、ゆかりさんを引き戻そうと必死らしいんだよな……。
「……はは。頼りにされてますね」
「もうこれが最後よ。夕食の準備ができない日が増えたから、結衣花に頭が上がらないわ」
するとゆかりさんは気になることを言い始める。
「それにしても、四季岡ファミリアってすごいわね。ザニー社のバックがあるとはいえ、後から強引に参加して来たのに、今回の展示会で一番注目されているわ」
「……後から?」
「ええ。私がこの展示会を手伝うことになったすぐあとね」
なんだ? 妙な話だな。
秋作さんはどちらかというと慎重派の人だ。
そんな急に行動するものだろうか。
「あの……、ゆかりさんは四季岡ファミリアのことをご存知ですか?」
「うわさで活躍を聞いたことはあるけど、詳しいことは何も知らないわ。代表者さんも知らないし」
ゆかりさんは四季岡ファミリアのリーダーが秋作さんだと知らないのか。
……いや、待てよ。
そうか。そういうことか!
今回に限って秋作さんが暴走しているように見えたのは、この次世代AI展でゆかりさんに自分の成果を見てもらうためなんだ。
■――あとがき――■
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次回、秋作から語られる想い!
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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