告白の答え


「和人さん。私とお付き合いしてください」


 目の前に座る美桜は突然そう言った。

 予想外の展開に、さすがの俺も言葉を失う。


 っていうか、付き合ってくださいって言われても、相手は高校生だぞ。断るしかないじゃないか。


 しかし、美桜の表情は真剣だ。

 どう断ればいいのか……。


 その時、スマホがバイブで震えた。

 たぶん結衣花からのLINEだろう。

 この状況に対してアドバイスを送ってくれたというわけか。ありがたい。


 俺は美桜にバレないように、こっそりスマホを操作する。


 だが、そこに書かれていた内容は、期待していたものとは真逆のことだった。


『美桜さんは真剣に告白しているんだから、ちゃんと答えてあげないとダメだよ』


 えっ!? まさかこの状況で美桜側を応援するのか?


 そういえば以前出張に行った時もこんなことがあったっけ。


 あの時は音水に告白されるかもしれないと相談したら、ちゃんと聞いて誠実に答えるようにって言われたんだよな。


 今までずっとそうだが、結衣花のアドバイスはテクニックとかじゃなく、相手の気持ちをどうやって考えるかというものだ。


 当たり前のことなんだろうが、俺はついそういったところを蔑ろにしがちだ。

 これじゃあ、どっちが大人かわからないな……。


 だが、高校生だからという理由だけで断っていいのか?


 美桜は真剣に告白している。

 たぶんハニートラップとかそんなんじゃない。

 ウソや小細工も失礼だろう。


 ここは、ちゃんと自分の気持ちを伝えるべきだ。


「ありがとう、美桜。でも……すまない。実は今、気になってるやつがいてどうしても美桜の気持ちには答えられないんだ」


 正直な気持ちだ。

 もし今誰かと付き合うなら、きっと楓坂だろう。

 俺達の関係はそれだけ近い。


 それに……。


「……そう。わかった」


 もう一つの理由に考えを巡らせようとした時、美桜は小さくつぶやいた。


 罪悪感が込み上げてくる。できれば目の前にいる彼女が喜ぶ答えをしてあげたいが、どうしてもできない。


「その人とはいい感じなの?」

「……どうだろうな。正直に言うと今一つ前に進めないでいる」

「……頑張って」


 下を向いて応援の言葉を口にした美桜は立ち上がった。


「じゃあ、私帰る」

「ああ、すまない」


 可愛らしいショルダーバッグを肩に掛け、美桜は席を離れようとした。

 そして背を向けようとした瞬間、横顔を見せてとても小さな声で言う。


「でも、私にもまだ可能性あるから」


 美桜が店を出て行った後、俺は罪悪感でしばらく席から動けなかった。


 そこへ変装をした結衣花がやってきて、さっきまで美桜が座っていた席に座る。


「これでよかったの?」

「ああ……」


 俺は顔を上げて、苦笑いをしてみせた。


「結衣花、ありがとう。たぶん結衣花からのLINEがなかったら、年齢だけを理由にして断っていたと思う」

「もったいない。お兄さん好みの美少女だったのに」

「結衣花はどっちの味方なんだよ」

「基本的にお兄さん以外の人かな」

「ひっで」


 結衣花は改めて店員にミルクティーを注文する。

 一緒に俺はコーヒーのおかわりをもらった。


 やっぱり結衣花と居ると、気持ちが楽になる。

 別に特別なことなんて何もないのに、ただ一緒にいるだけで気持ちが安らぐのだ。


「ところでお兄さんがさっき言ってた『気になってるやつ』って誰? 後輩さん? 楓坂さん?」

「そこはトップシークレットだ」

「恥ずかしいんだ」

「違う。これは……その……、トップシークレットだ」

「相変わらず、ボキャブラリーの幅が狭いなぁ」


 そうさ。俺の中では、ほとんど気持ちは固まっている。

 だが、先へ進みだせない理由もおぼろげにわかっていた。


 もし楓坂と付き合ったら、結衣花はきっと俺と会わないようになるだろう。


 恋愛云々を抜きにして、俺は結衣花と一緒にいる時間を大切にしたい。


 いつかは決断しないといけないのだろうが、今はもう少しこのままでいたいと思う。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、新たな可能性が!? さらにストーリーが大きく動く!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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