楓坂の誕生日は?
仕事を終えて帰宅すると、玄関の中から気配がした。
そう言えば今日は楓坂と一緒に夕食を食べる約束をしたんだ。
玄関のドアを開けると、キッチンの方からエプロン姿の楓坂が歩いてくる。
「おかえりなさい、笹宮さん」
「ただいま。こうして出迎えてくれるのも久しぶりだな」
「そうですね。こちらに帰って来てからしばらく慌ただしかったので」
最近海外から帰ってきた楓坂は旺飼さんの自宅で暮らしているので、あまり会えないだろうと思っていたがそうでもなかった。
どうやら最近まで結衣花が暮らしていた隣の部屋を、Vtuberの作業部屋にするらしい。
頻繁に泊まり込みはしないだろうが、たまにはこうして食事をすることはできそうだった。
「唐突ですが、笹宮さんは磁石で遊んだことがありますか?」
本当に唐突だな……。
「まぁ、ガキの頃にな」
「S極とN極がひっつこうとするのを抑えつけるのって、おもしろくなかったですか?」
「ああ、あったな。わかる」
すると楓坂は俺の方を見て、涙目でぷくぅ~っとふくれっ面を作った。
「んんんんんん~っ!」
駄々っ子のように唸る楓坂。
こんなんだから美人が台無しって思われちゃうんだぞ。
まぁ、俺は楓坂のこういう顔は結構好きだったりするんだけどな。
「もしかして、くっつきたいのか?」
「ひ、否定はしませんが、帰ってきていきなりそんなことをしたらデレてるみたいでカッコ悪いじゃないですか。だから我慢しているんです」
「こだわりが意味不明すぎるだろ」
それから俺達は夕食をしながら、雑談をしていた。
内容は海外で何をしていたのかとか、こっちで何が起きたのかとかだ。
といっても、たまに連絡は取っていたのでお互いに真新しい情報はそれほどなかった。
「そういえば、お花見の時に結衣花さんが指輪をしていましたよね?」
「ああ、誕生日プレゼントに俺が贈ったんだ」
「ふぅ~ん。そうなんですか」
箸の動きを止めた楓坂は上目遣いでチラリと俺を見た。
もしかして妬いているとか?
楓坂の場合、俺に対してなのか結衣花に対してなのか、よくわからないんだよな。
まぁ、今でも結衣花が第一優先というのは変わらないようだが。
「そ……そういえば、楓坂の誕生日っていつなんだ?」
「いつでしょう? 考えてみて。外したら何でも一つ、言いなりになってもらいますから」
「難易度高いのに、罰ゲームが重すぎだろ」
「笹宮さんが当てたら、私が一つ言いなりになってあげますよ」
「ほぉ、本当か?」
「Vtuberに二言はたまにしかありません」
「微妙に逃げ道を作りやがったな……」
とはいえ、勝てば言いなりになると言ってるんだ。
よぉし! ちょっと本気を出してやろう。
たしか去年の出張で豪華なホテルに泊まった時、『最近二十歳を迎えた』とか言っていたよな。
あの日は六月の下旬頃だったからそれ以前か……。
とりあえず、無難に五月あたりで揺さぶりを掛けてみよう。
「閃いた。おそらく五月だろ?」
「残念。六月ですよ。六月十五日です」
揺さぶりですでに敗北してしまった……。
「もうっ。日付まで当てて欲しかったわ」
「いや、わかんねぇよ」
「できますよ。だって……私達が初めて話をした日なんですから」
「え?」
「私が壁ドンをして、笹宮さんが『もっと僕のお尻をぺんぺんしてー!』て叫んだ日ですよ」
「……俺、そんなこと叫んだ記憶ないんだけど」
初めて会った時から俺の歴史改変を平気でしていたが、未だにそこは直してくれないんだもんな。
そんなに変態を御所望か?
「まぁ、あの日のことはしっかり覚えてるよ」
「私に一目ぼれした日ですものね。かわいっ」
「人生初の壁ドンされた日だからだ」
「というわけで、何でもひとつ言うことを聞いてもらいますね」
「いいぜ。ただし人間に実現可能なレベルでな」
楓坂の頼み事か……。
頼むから裸で国道をブリッジで爆走とか言うなよ。
そして彼女は言った。
「誕生日プレゼントに……、指輪をくれますか?」
……え、それだけ?
白ブリーフとか履いて全裸にならなくていいの?
警戒して損をしたじゃないか。
「指輪な。オーケーだ」
「うふふ。どんな言葉を送ってくれるか、楽しみにしていますね」
ったく、六月までまだ時間があるのに嬉しそうな顔をしやがって。
これはちゃんとしたのを選んでやらないとな。
■――あとがき――■
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次回、音水ちゃんのターン! 元気いっぱいのわきゃわきゃ職場のお話です!
投稿は朝7時15分。
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