夕食? お風呂? それとも……
俺は今、自宅のリビングにいる。
そしてダイニングテーブルの上には鍋があり、帰る途中で買った豚肉をしゃぶしゃぶして食べていた。
音水と結衣花は楽しそうに仕事の話をしている。
「……で、これとこれをくっつけると新しいアイデアになるでしょ?」
「企画を考える時って、そんな方法もあるですね」
「えへへ。といっても、こんなのは笹宮さんから教えてもらったことの応用なんですけど」
帰る途中はあまり話をしなかったから相性が悪いのではないかと心配したが、今は普通に打ち解けている。
人見知りしやすい結衣花もリラックスした様子で話をしていた。
はむっ! と、肉を頬張った音水は楽しそうに言う。
「しゃぶしゃぶパーティーっていいですね」
「音水さん、食後のアイスクリームもありますよ」
「え!? あ……でも、この時間だとさすがに太るかも……。カロリーの暴力がぁ~。でも、いや、しかし、だとしても……。むむむ……」
しばらく考えた音水は『カッ!』と目を開き、結衣花に向かって人差し指を一本立てた。
「スプーン一杯……。いえ! 三杯分だけ」
「うん、用意しますね」
こうして、しゃぶしゃぶを終えた俺達は夜のカロリー暴力祭りともいえるアイスクリームタイムへと突入する。
ダメだってわかっているけどやめられないんだよな。
俺の新陳代謝よ、頑張ってくれよ。応援してるぜ。
しかし、ラムレーズンアイス、マジでうまいぜ。
アイスを食べている途中、音水は楽しそうに笑いながらあの事を話し始めた。
「でも安心しました。結衣花さんが一人暮らしをするから、笹宮さんが保護者代わりになっているんですね」
「まぁ、そんなところだ」
このまま中途半端にバレて誤解を招くなら、いっそのこと状況を全部説明した方がいい。
そう考えて、結衣花が一人暮らしをすることになった経緯をざっくりとではあるが伝えることにした。
音水も一度だけゆかりさんに会っているから、説明しやすくて助かったぜ。
そんなやり取りがあったこともあり、音水も今日はこの部屋に泊っていくという事になった。
つーか、スーパーで買い物をしている時に、こっそりお泊りグッズを買ってるんだもんな。
食事をする前にはすでにお泊り前提になってて驚いたぜ。
「おっと、風呂が沸いたな。音水、先に入っていいぞ」
「そうですか? じゃあお先に」
「ああ、ゆっくりしてくれ」
さて、片付けをするか。
ダイニングで洗い物をしていると、結衣花が隣に立って手伝いをしてくれる。
「後輩さんって、本当に頭がいいね。応用力がすごいっていうか」
「ああ。結衣花もこっちに泊まるんだろ? いいのか?」
「うん。後輩さんとエッチしたいなら私は自分の部屋に戻るけどどうする?」
「こら」
まったく、こういう会話をサラッとするところは出会った頃から変わらないな。
困ったものだ。
すると結衣花は急に声のトーンを落として訊ねてきた。
「……お兄さんって、やっぱり音水さんが好きなの?」
「なんだよ急に」
「だって、音水さんと話している時だけ声が違うんだもん」
「声?」
なんのことだ?
いつも通りに話していたつもりだが……。
あ、そうか。もしかして……。
「たぶんアレだ。もともと音水は俺のことを怖がってたんだよ」
「え? そうなの?」
「ああ、初めて教育係についた日は一日中震えていたくらいだからな。それで話し方は注意していたんだ」
この話は結衣花に初めてするかもしれない。
そのためか結衣花はかなり驚いているようだ。
「……ちょっと意外。私と会う前から自分を変えようとしていたんだ」
「まぁ、無愛想主義から脱却することを決めたのは結衣花に会ってからだけどな。しかし声なんかを気にしていたのか。もしかして妬いてたとか?」
「生意気」
「すまん。言ってみただけだ」
しばらく洗い物を続けてると、また結衣花がぽつりとつぶやく。
「……ごめんね」
「なんだよ、急に」
「会社で音水さんの前で話をしている時、『夫婦みたい』って言われたでしょ? 本当なら普通に否定すればいいのに、便乗するようなことを言っちゃったから」
「自覚あったのか」
「うん。お兄さんを困らせたくなって、つい……」
「気にするほどの事じゃないさ」
そうさ。このくらいのことは気にすることじゃない。
俺達はもう家族みたいなもんじゃないか。
「ちょっとくらいなら、わがまま言っていいんだからな。俺達、それなりに信頼関係あるだろ」
「うん」
そして結衣花は言う。
「じゃあ、カピバラを飼ってみたい」
「ちょっとくらいって言ったの、聞いてなかったのか」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
書籍の発売日が発表されました!
ファンタジア文庫から4月20日発売予定です!
次回、寝起きの音水とラブコメ展開?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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