新チームは音水と?
キャンペーンや展示会などのイベントを行う広告代理店・ブロンズ企画社。それが俺の勤める会社だ。
バレンタインイベントという大きな仕事を乗り切ったため、今日から新しいチーム構成になる。
俺は主任に昇格して三つのチームを見ることになるが、人手不足ということもあって俺自身もチームリーダーとして現場や外回りはしないといけない。
つまるところ、やることは増えたが今までと変わらないということだ。
「笹宮主任、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
ぺかーっと太陽のように明るい笑顔。
我が社期待の女子社員、音水遙がすぐそばに立っていた。
「役職を付けて呼ぶのはやめてくれ。堅っ苦しいし、場合によっては音水がリーダーで俺がサポートに回ることもあるんだ。その時に困るだろ」
「私がチームリーダー……ですか?」
「ああ。もう少し先の話だろうけどな」
入社した当時は二十二歳だったが、おそらく今は二十三歳だろう。
最近は少し落ち着きを持つようになり、以前と比べて大人びた雰囲気をまとうようになった。
とはいえ……。
俺はチラリと彼女の胸を見る。
元々音水は胸が大きい方だったが、最近さらに大きくなったような気がする。
あまり女性のことはわからないが、胸というのは二十歳を過ぎても大きくなるのか?
それ以前に後輩の胸のことを気にする俺が不謹慎なのだ。
心頭滅却、心頭滅却、明鏡止水。
我が心よ、落ち着きたまえ……。
「笹宮さん、どうしたんですか?」
音水は考え事をしていた俺を不思議に思ったらしく、目を丸くして訊ねてきた。
「……何でもない。仕事の段取りを考えていただけだ」
「やっぱり! 真剣な目をしていたので、きっとそうなんだろうなと思ってました」
本心がバレるのではないかと緊張していただけなのだが、無愛想ズラがこんなところで功を奏したようだ。
俺の斜め前の机に座った音水は、パソコン画面を見ようと身を乗り出す。
すると彼女の胸が机の上に乗り、大きな胸がさらに強調される格好となっていた。
「ごほっ! ごほっ!!」
とんでもない光景を目の前にして、ついむせてしまった。
そんな俺を見て音水は心配そうに近づいて言う。
「笹宮さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。それより音水、座る時は少し体を机から離した方がいいと思うぞ」
「え? は、はい……」
この様子だと無意識で机に胸を乗せていたようだ。
俺もそうだからわかるが、猫背になったほうがなんか集中しやすいんだよな。
でも姿勢が悪くなると健康にも影響がでるし、やはり机に体をくっつけて座らない方がいいだろう。
それから朝礼を行った後、俺達は新しい案件について打ち合わせをする。
今回はデパ地下の販促キャンペーンだ。
競争が激しく流行の影響も受けやすいため、なかなか油断ならない仕事である。
とはいえ、向こうからの依頼のためコンペで争う必要もない。
あとは着実に企画を形にしていけばいいだけだ。
「今回音水は俺のチームに入ってくれ。大変かもしれないが頑張れよ」
「えっへへ。すごく嬉しいです」
再び音水と組むことになったのは、彼女をチームリーダーとして育てるためだ。
どうやら社長はまた何かを考えているらしいが、まだ詳しいことは教えてくれない。
うちの社長もなかなかのクセモノだからな。
渡された企画書を読んでいた音水は、数枚の写真が記載されたページで質問をしてくる。
「笹宮さん。今回の企画で期間限定の紙袋を作るんですよね? このデザインを結衣花ちゃんにお願いすることができないでしょうか?」
「……音水は結衣花のことを買ってるんだな」
「そりゃあそうですよ。だって結衣花ちゃんを発掘したのは私が企画したハロウィンコンテストなんですから」
なるほどな。それで音水は結衣花に少しでもチャンスを与えてやりたいと思っているのか。
正直、今回任せるデザイナーに結衣花を選びたいという気持ちはあったが、公私混同をしてはいけないと思ってなかなか言い出せなかった。
ここで音水が提案してくれたことは願ったり叶ったりだ。
「じゃあ、結衣花には俺の方から連絡しておくよ」
「笹宮さんと結衣花ちゃんって仲がいいですよね。で~も、笹宮さんの隣は私だということは忘れないでくださいね」
「お……、おう。そうだな」
今、俺の隣に結衣花が住んでるんだけど、そのことは黙っておいた方が良さそうだ。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、結衣花に新しい仕事。今回彼女はどんな絵を描くのでしょうか。
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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