買い物


 仕事を終えて最寄り駅に到着した。


 ふぅ……。今日も疲れた。

 帰りの電車を降りた瞬間の『あとちょっと感』は無意味に気分を高めてくれる。

 ここで油断をすると、ついついコンビニで肉まんを買ってしまうんだよな。注意しよ。


 そんな事を考えながら改札を出ると、その正面にミディアムショートの美少女が制服姿のまま立っている。

 

「おかえり。お兄さん」

「よぉ、結衣花。待っていてくれたのか」

「そんなに待ってないよ。私もここに来たのはついさっきだし」


 ちょうど帰る途中、結衣花から『帰り道にスーパーに寄って行かない?』とLINEがあったため、こうして待ち合わせをしていたのだ。 


「じゃあ、買い物に行こ」

「ああ」


 こうして俺達は駅からすぐ近くにあるスーパーへ行く。


 俺達がよく使うスーパーは一階が食品売り場、二階は百円ショップとドラッグストアがある。

 小さくもなく、大きくもなく、ほどほどのちょうどいい広さのスーパーだ。


「このスーパーって品揃えがいいよね」

「そうなのか?」

「うん。調味料の種類も多いし、めずらしい野菜も置いてあったりするし」


 他のスーパーと比べるということをしたことがなかったので、まったく気にしていなかった。

 正直、品ぞろえなんてどこも同じだと思っていたくらいだ。


 買い物カゴをもって野菜売り場を歩く。もちろんカゴ持ち係は俺だ。


 スーツ姿でスーパーのカゴを持つ場違い感はもちろん感じている。

 しかも隣には制服を着た女子高生だ。

 違和感をぶっちぎって、はた目から見れば兄弟や親子にしか見えないだろう。


 結衣花はアボカドを慎重に選んだあと、俺が持つカゴに入れた。


「こういう時、カゴを持ってくれる人がいると助かるね」

「ん? このくらいどうってことないだろ」

「私、そんなに力が強い方じゃないから、食材を入れた買い物カゴが重くて手がしびれちゃうんだよね。でもカーゴは大げさに見えて恥ずかしいから、できればカゴだけの方がいいかな」

「へぇ、そんなふうに考えるのか」


 肉売り場に着くと、肉を眺めながら結衣花は言った。


「夕食はどうする?」

「簡単なものでいいぞ。からあげとか」

「漬け込まないと味が染みこまないけど……。ん~、まっ、いっか。スパイシー唐揚げにして誤魔化そう」


 さりげない会話で誘導してみたが、実は今のは俺なりのおねだりなのだ。


 実は唐揚げを食べるのは好きだが、自分で作るのが苦手なんだよな。

 何度か挑戦してみたが、イマイチ美味しくない。


 だが結衣花が作るスパイシー唐揚げか。

 ふむ……、うまそうじゃないか。


 これは楽しみだ。


   ◆


 予想通り、スパイシー唐揚げの味は抜群だった。

 しかし最近食いすぎかもしれない。

 結衣花が隣に引っ越してきてから少し体重が増えているんだよな。

 ほどほどに気を付けよう。


 俺がいつものように食器を洗おうとすると、結衣花が訊ねてきた。


「いつも洗い物を任せちゃってるけど、本当にいいの?」

「気にするなって。こっちこそいつも料理を作ってくれてありがとうな」


 俺としては当然のことなのだが、結衣花はやけに気にしている様子だ。

 そんなに気を使わなくてもいいのに。


 だが、その後も結衣花はそばを離れようとしなかった。


「どうした? 部屋に戻らないのか?」

「ん~。宿題もしないといけないし、お風呂には入りたいけど……」

「もしかして、俺が洗い物をしているから気が引けているとか?」

「そう言うわけじゃないけどさ……」


 視線を下に向ける結衣花。どこか寂しそうだ。

 もしかすると初めての一人暮らしで、心細いのかもしれない。


 俺は洗い物を止めて、タオルで手を拭いた。


「じゃあ、結衣花の部屋の前まで送ってやるよ」

「隣だよ?」

「だからだよ。ほら行くぞ」


 一度玄関を出た俺達はすぐ隣の結衣花の部屋の前に行く。

 二月下旬の冷たい風が吹いているが、不思議と寒さがつらいとは思わない。むしろ心地よさすらある風だ。


 ドアを開いた結衣花に、俺は優しく声を掛ける。


「じゃあな。ゆっくりするんだぞ」

「うん……」


 ……と、ここで結衣花は俺の腕を掴んだ。

 小さな手で触れる程度の力。


「……どうした?」

「なんとなく」


 ドアの隙間から見える結衣花の部屋の中は暗い。

 一人暮らしなのだから当然だが、その寂しさは俺もよく知っている。


 夜はやっぱり明るいところにいたいと思う。

 きっと結衣花も俺と同じ気持ちなのかもしれない。


「なぁ、結衣花。お風呂入った後、こっちで宿題するか?」

「いいの?」

「ああ。俺はダラダラするから邪魔になるかもしれないけどな」

「ううん、そばにいてくれるだけでいいよ」


 ようやく結衣花は笑ってくれた。

 フラットテンションの彼女らしく、静かな微笑み。

 だけどその喜びは強く現れていた。


「じゃあ、すぐに行くね」

「ああ。でも風呂はゆっくり入れよ」

「わかってるよ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、結衣花の母、ゆかりさんが再び登場!!

今回はどんな出現をするのか!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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