1月28日(木曜日)誤解とやきもち
「ばかもん! 音水と結婚して海外旅行!? この忙しい時期に何を考えておるんだ!!」
怒鳴り声を上げたのは俺が勤める会社の社長・銅乃塚のものだった。
正午を過ぎた頃、突然社長室に呼び出された俺は身に覚えのないことで怒られていた。
「……ちょ……ちょっと待ってくださいよ。何の話ですか?」
「ぬっ!? 社内でうわさになっておったが……まさか、……デマなのか?」
「当たり前じゃないですか。そもそもそんな大切なことなら、一番最初に社長へ報告しますよ」
そう、デマだ。
結衣花の姉、香穂理さんが冗談半分で言いふらしたことが拡散し、俺と音水が結婚するような話が出回っていた。
クール系の人の冗談って本当のことを言っているようにきこえるんだよなぁ……。
誤解だとわかった社長は胸をなでおろして革張りの椅子に腰を下ろした。
「そ……そうか。そうじゃろうのう。ワシでないと仲人はつとまらんじゃろうて」
「そこじゃないんですけど……」
社長室を出た俺はその足で打ち合わせに向かうことにした。
社用車に乗り込むと、隣に後輩の音水が乗り込む。
「笹宮さん。大丈夫でしたか……?」
「ああ、問題ない。ちょっとした誤解だ」
もうすぐ開催されるバレンタインイベントの現場に音水もヘルプで入ることが決まっている。
今日は商業施設の担当者と打ち合わせをするにあたり、彼女も同行することになった。
「驚いたぞ。いつの間にか俺と音水が結婚する話になっていたから」
「そうですね。まさか皆さんに未来予知のスキルがあるとは思いませんでした」
「なに確定事項みたいに言ってるんだ」
普通なら困るところだと思うが、音水は気にしていない様子だ。
しかし社長があそこまで反対するということは、やはり社内恋愛を受け入れたくはないのだろう。
ここで助手席に座っている音水が、元気よくこちらを見た。
キラキラ三割増だ。
「そんなことより、また新しい仕事を受注してきましたよ。褒めてください! 頭なでなでしてください!」
「おう、偉いぞ。よしよし」
「はぅわーっ! モチベマックスです!」
嬉しそうに手を振りながら喜ぶ音水。
今の彼女に猫耳としっぽが生えていたら、いきおいよくパタパタさせているだろう。
「じゃあ、今度は私が笹宮さんの頭をなでなでしてあげますね」
「なんでだよ」
「恥ずかしがらないでくださいよぉ」
「あのなぁ……」
それより仕事だ。
俺は後部座席に乗せていた荷物からファイルを取り出し、今日話し合う予定の内容をチェックする。
そんな俺に音水が嬉しそうに話し掛けてきた。
「私もバレンタインイベントの現場に入れることになって嬉しいです」
「合同特別チームは企画立案とプレゼンだけだからな。最初から現場の仕事はこっちに回ってくる手はずだったんだ」
「笹宮さんと一緒に現場ってハロウィン以来ですね」
「そうだな」
ただ懸念事項もある。
バレンタインイベントにはもちろん楓坂も来る。
そして音水は楓坂のことをライバル視していた。
突然会ったら、混乱するかもしれない。
いちおう先に言っておくか。
「当日なんだが、楓坂も来る予定だ」
「楓坂さん……来るんですか?」
「そりゃ、あいつも特別チームのメンバーだからな」
「ふぅ~ん」
「……なんだよ」
不穏な空気。
やっぱりダメなのかな……。
……と、思った時だった。
「えいっ!」
突然音水は俺の腕に掴まってきた。
ぎゅ~っと胸を押し付けるように抱きつく。
「お、おい! なんで急で腕に抱きついてくるんだ!」
「しっかり私の存在を主張しておこうかと思いまして!」
「なにを主張したいんだ」
「笹宮さんに可愛がってもらうのは、私だけの特権です!」
「変ないじけ方をするな」
バレンタインイベント……、大丈夫かなぁ……。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、打ち合わせに向かった先で何かが起きる!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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