11月16日(月曜日)後輩は大学生


 月曜日の午後。

 俺はザニー社の会議室にいた。


 今ここには、俺が勤める会社とザニー社によって結成された特別チームのメンバーが集まっている。


 俺の他には、ザニー社の専務・旺飼さん。

 そして同じくザニー社の若手社員四人だ。


 この若手社員達は八月に行われたコミケチームのメンバーでもある。


「笹宮さん、また一緒に仕事ができて嬉しいっす!」

「私も頑張ります!」

「ぼ……僕も!」

「……精一杯……頑張る」


 立て続けに挨拶をしてくる若手社員達に、俺は苦笑いをしながら答えた。


「はは……、変わらず元気だな。よろしく頼むよ」


 今にして思えば、旺飼さんは最初から俺を引き入れることを考えていて、部下にする予定の社員をコミケチームに集めていたのかもしれない。


 それから俺は昨日作った企画書のコピーを全員に配布した。


 各自がそれぞれの反応をする中、専務の旺飼さんは満足気に唸った。


「インスタ映えをテーマにした新グルメ対決……。そして動画サイトを利用して人気投票を行うか……。なるほど、これはいい」


 続けて若手社員達も賛同の声を上げる。


「これいいっすよ! 絶対にいけますって!」

「面白そう! 私もこの企画をやってみたいです!」


 自信のある企画だったが、こうして他の人達に認めてもらえると嬉しいものだ。


 旺飼さんはスマートな物腰のまま、ギラリと瞳を光らせた。


「まさか相手の企画を逆手に取って、こちらのものにしてしまうとは……。なかなかどうして痛快じゃないか」


 今日の朝、出社した時に確認したのだが、やはり企画対決を仕組んだのは俺達の社長だった。


 しかも旺飼さんにも内緒で進めていたらしく、彼としてはしてやられたと思っているのだろう。


 実力で専務に上り詰めた人だ。

 多少なりともプライドが傷ついたのかもしれない。


 合同でチームを作るなど協力体制を取ってはいるが、社長と旺飼さんの間には見えない火花が散っていた。


 こわい、こわい……。


 それより仕事の話を進めよう。


「旺飼さん。これで企画対決に臨みたいのですが、いかがでしょうか?」

「ああ、許可しよう」


 こうしてこの日の打ち合わせは終了した。


 若手社員達が部屋を出て行き、俺も帰る支度をしていた。

 その時、旺飼さんが声を掛けてくる。


「笹宮君。ちょっと……」

「はい、なんでしょうか?」

「これから会社へ戻るのかい?」

「いえ、今日はこのまま帰っていいと言われていますので」


 すると旺飼さんはニコリと爽やかに笑った。


「そうか。なら、今夜はうちで食事をしないか?」

「旺飼さんのご自宅で……ですか?」

「ああ。……少し、話しておきたいことがあってね」


 わずかだが旺飼さんの表情に曇りがあった。

 ここでは言いづらい大切な話なのだろう。


「わかりました。楓坂……えっと、舞さんはどうしますか?」

「ああ、彼女にも声を掛けてくれ。大学の授業もちょうど終わった頃だろう」


 それから俺は楓坂にLINEを送って、旺飼さんと食事をするので楓坂も来ないかと誘った。

 すると楓坂から一緒に食事をするという内容の返信がある。


 さらに大学が近いから迎えに来て欲しいと記載されていた。


 しかし楓坂が通う大学の名前を見て、俺は驚く。


「あれ? この大学って……」


   ◆


 楓坂が通う大学の近くにある駅に俺はやってきた。

 連絡通りであれば、もうすぐ楓坂が来るはずだが……。


 その時、チャラそうな男が楓坂の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「なぁ~楓坂ちゃんさぁ、俺っちと付き合ってくれよぉ」

「断りましたよね。しつこいですよ」


 こちらに向かって歩いている楓坂に付きまとうように、ヘラヘラと笑う男がいた。

 会ったばかりで判断するのは良くないが、おそらくナンパだろう。

 

 普段ならこういう場面を見ても気にしないが、さすがに親しい女性にこういうちょっかいを出されると気分が悪い。


 楓坂の前に現れて、すぐに彼女を後ろへ下げる。

 そしてチャラい男を冷ややかな目で見た。


「俺の連れになにか用か?」


 するとチャラい男は苦笑いをしながら肩をすくめる。


「あっちゃぁ~。彼氏がいたのかよ。しゃあねぇ、諦めるか。悪かったね」


 もしかして俺の勘違いかもしれないと心配したが、男の対応から察するにナンパ目的だったのだろう。


 俺は後ろにいる楓坂を見た。


「大丈夫か?」

「……はい。さっきの人、何度断っても声を掛けてくるから困ってたんです」

「いろんな人がいるからな。何かあったら相談しろよ」

「はい」


 俺達は旺飼さんの自宅に向かうため、電車のホームへ向かう。

 その途中、俺は大学について話をした。


「しかし、大学の名前を知って驚いたよ。楓坂って俺の後輩だったんだな」

「そうなんですか?」

「ああ、俺もこの大学出身なんだ」


 そう……。ここは俺がかつて通った大学だ。

 四年間通ったこともあり、気づけばこの街は俺にとって住み心地のいい所になっていた。


 楓坂は訊ねてくる。


「じゃあ、あなたの事は先輩って呼ばないといけないのかしら」

「やめてくれ。俺がここを卒業したのは何年も前だぞ」

「でも後輩って言う響きは悪くありませんよね」


 すると楓坂はあざといポーズを取った。


「せんぱぁ~い。わたしぃ、ブランド物の高いカバンがほしぃ~」

「楓坂の後輩のイメージって、歪すぎないか?」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、旺飼がまさかのサプライズを!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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