第三章 ハロウィンと女子高生
9月1日(火曜日)新学期と通勤電車
いつも通りの時間、いつもの通勤電車。
今日から九月だが、暑さは夏のまま。
しかし、日付が変わるだけで気分は全く違う。
秋……か。
これから大変だな。
俺はスマホ関連のイベントをよく担当するのだが、やはりiPhoneの新機種が発売される秋は正念場だ。
特に今年は七夕キャンペーンを成功させたこともあって、大きな仕事を受注している。
今のところ順調だし、このままトラブルなしで成功してくれれば最高なのだが……。
おっと、そろそろ時間だな。
電車のドアが開き、一人の女子高生が入ってくる。
自然体を崩さず、彼女はまっすぐ俺のもとへやってきた。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ。結衣花」
制服姿の結衣花はいつものように壁に背を預けた。
相変わらずのフラットテンションだが、新学期ということで声に張りがあるように聞こえる。
夏休み明けの一日目って、なぜか気分がいいんだよな。
授業が始まる二日目からは、早く休みになって欲しいと願うようになるのだが……。
「今日から新学期か。宿題はやって来たか?」
「余裕だね」
「本当は昨日慌ててやったんだろ」
「ううん。お盆までにはほとんど終わらせていたよ」
「マジで?」
「うん。尊敬する?」
「崇拝したい」
俺なんて夏休み最終日で半分も終わっていないことの方が多かったぞ。
というか、友達のほとんどがそうだった記憶がある。
さすがお嬢様学校に通っているだけの事はあるぜ。
俺に対しては、ただの生意気な女子高生だけど。
感心してマジマジと見てしまったからなのか、結衣花はスマホで顔を半分隠した。
「タネ明かしをしちゃうとね、うちのCG部って成績にうるさいから手が抜けなかっただけなんだよ」
「へぇ。部活動なのに勉強のことまで口出ししてくるのか」
「その代わり、CGは何を描いても怒られないから楽しいけどね」
デザインに関しては詳しくないが、指示をされて書くよりも、好きなものを描かせた方がモチベーションが維持しやすいのかもしれない。
その分、勉強がおろそかにならないよう管理してくれるというのなら、それはそれで助かるというものだ。
俺も注意されないとダラダラしてしまうタイプだからな。
正直、そういう先生がいてくれるというのはうらやましい。
「それで結衣花は何を描いているんだ? 見せてくれよ」
「いいよ」
結衣花は素早くスマホを操作し、画面に画像を表示した。
どうやらオリジナルのマスコットキャラクターのようで、子猫がカボチャの帽子を被ってハロウィン仮装をしている。
「ほぉ、かわいいじゃないか」
「お兄さんが普通に褒めるなんて、今日は雨かなぁ」
「だとするなら、俺の褒めるスキルは天候を操れるほど進化したということか」
「冗談を冗談で返すとか、腕をあげたんじゃない?」
「だろ?」
結衣花は続けてスマホを操作し、今度はイラストがたくさん掲載されているサイトを表示した。
「秋に開催されるこのコンテストに応募するつもりなの」
どうやらイラスト投稿サイトで開催される、ハロウィンに合わせたコンテストのようだ。
今回募集しているのは、『ハロウィンをイメージしたオリジナルキャラ』。
結衣花のようにマスコットキャラの人もいれば、リアルな人物の応募者もいる。
つーか、全員めちゃくちゃうまいな。
うちの会社に入って欲しいぜ。
給料安いけど……。
しかし気になることがある。
それは結衣花のプロフィール内容だ。
「なあ……。何でペンネームが『未定』になってるんだ?」
「実はまだ決めてないんだよね。いちおう候補はあるんだけど」
タッタタッタンッとスマホを操作して、結衣花はペンネームの候補を入力した。
その名前は『KAZUTO』となっている。
「男の名前みたいだ」
「うん。遊び心かな」
「少しありきたりじゃないか?」
「そこに抜け感があるんだよ」
「ん~。平凡というか……、見慣れているというか、どこかで聞いたような名前なんだが……」
「お兄さんの下の名前だからね」
やっぱりそうか。
そりゃあ、自分の名前だったらありきたりに感じるわ。
「つーか、なんで俺の名前なわけ?」
「いいじゃない。どうせ余ってるんだし」
「不良在庫みたいに言うな」
しかし、よく覚えていたな。
結衣花にフルネームを言ったのって一度だけだったはずだ。
そんなやり取りをしているうちに、電車は聖女学院前駅に到着した。
「じゃあね、お兄さん」
「ああ、またな」
結衣花が学校へ向かうのを見ながら、俺は別の事を考えていた。
さっきのハロウィンコンテストのロゴデザイン……、見覚えがある。
どこだっただろうか……。
あっ! 今、音水が担当している企画だ!
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援のおかげで、毎日元気を頂いています。
次回、楓坂のために晩御飯づくり?
投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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