第14話 過去

 目が覚めると白い天井が見えた。意識が覚醒していく。息をすると鼻がずきずきと傷んだ。近くでお母さんが赤い目でぼくを見る。

 そっと頭を撫でられて、お母さんの涙がぼくの頬をつたった。

「大丈夫。なにも心配しなくていいのよ」そう言って疲れた顔で微笑んだ。

 視線を巡らせる。

 彼女はどうなったんだろう。

 ぼくは如月を守ることができたのだろうか。

 彼女はどこにいるのだろう。

「お母さん」思った以上に声がかすれていた。

「ん?」お母さんが耳をぼくの口に近づける。

「あの子はどうなったの?」

 ぼくの問いに頷きで返す。

「大丈夫。大丈夫だから。もう怖いことはなにも起こらないよ」

 何度も何度もぼくの髪を撫でる。

 怖いことってなんだろう。ぼくに恐怖を与えるもの。ぼくを恐れさせたのは如月がいなくなること。すでに知ってしまった。如月の隣に座る心地よさを。世界の中でそこだけが温度がある。それを失った世界をもう想像できない。そのほかのことなんてぼくにとっては些細なことだ。

 大丈夫。ぼくはきっと彼女を守ることができる。

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